沖縄料理と、違和感
風花姉の喫茶店に入ると、食べ物の良い香に包まれた。白地の大皿に盛り付けてある手料理が俺たちの目を惹きつける。カウンターテーブルに計8つ大皿が並べてあり、とても豪華だ。
カウンター越しに風花姉が、「待ってたよー」と、人懐っこい笑みで手を振る。
加奈と由紀が嬉しそうな顔をしてカウンターにいそいそと近づく。軽く挨拶の後、「すっごく美味しそうっ!」、「うち全部食べたいっ!」と、瞳を輝かせていた。なんか、さすがだな女子と思ってしまった。
「もちろん、全部食べてもらわないとっ」
風花姉は嬉しそうに言うと、カウンターから出てきた。
「皆んな好きなだけお料理とってねっ」
ビュッフェ形式だから、とニッコリ笑う。
だからカウンターテーブルに白皿が重ねて置いてあるのか。
風花姉が、飲み物が置いてある広いテーブル席を指定した。料理を取ったらあっちに皆んなで座るってことか。
軽く説明が終わって、加奈と由紀、祐介はさっそく取り皿を手にしていた。皆んな切り替えが早い。
「はい、太一くんの」
乗り遅れた俺に、加奈が取り皿を持ってきた。慌てて受け取ると、小声で「好きなのなくなっちゃうよ」と、イタズラに笑う。たぶん由紀と祐介がちょっと取り合いしているからだろう。
「私たちも負けてられないねっ」
「えっ?」
そうなるのか?
加奈の顔を見るとちょっと気合いが入っていた。まあ………、楽しそうなら、いっか。
祐介と由紀、加奈と俺の順番でカウンターテーブルに並ぶ。
彩り映えるサラダから、ピザやクリーム系のパスタ、サンドイッチ、グリルチキン、タルタルソース添えたエビフライなど、美味しそうな見た目が、口元をざわつかせる。
「お皿に乗り切らないねっ」
「ん? まあ全部は無理か」
「いやいや、頑張ったらいけるぜ」
と、祐介が得意げに自分の皿を見せる。料理の上に重ねていくスタイル。なんとも、
「めっちゃバランスわるっ。風花姉さんのご飯が台無しやん!」
由紀が顔をしかめると、祐介が少し慌てて口を開く。
「そ、そんなことないだろ。端だけ重ねてとか気を使ってるし」
「ちゃうし、もうそんな置き方してる時点ではしたないねん、はぁー、これやから男子は」
「べ、別に良いだろ! そっちこそ一皿に一品だけとか! ピザそんな盛らなくていいだろっ!」
「種類があるから別にええやん」
「見栄え悪、そっちこそバランスわるっ」
「う、うっさいなぁ! あとで別のお皿で他の料理もとるねん!」
どっちもどっちだと思う。加奈を見習え。
一皿に少しづつ、料理を何種類も品よく取っている。
「加奈は取り方が様になってるな」
「ん? えへへっ、そうでしょ?」
でも、もう置ききれないなぁ。と、少し残念そうにつぶやく。んー、そうだな………。
俺は空いてる片手でもう一皿取った。加奈に提案する。
「こっちのお皿にまた取ったら良いよ」
加奈がちょっと驚く。
「でも、太一くん両手ふさがって、お料理取れないよ?」
「そこは、加奈にお願いするよ。俺の分も取ってくれたら」
そう聞いて、加奈の表情が楽しそうに笑む。
「なるほどっ、ふふっ、じゃあニ皿分、お任せてくださいっ」
俺はお皿係に徹し、加奈と一緒に料理を色々と取っていく。これどう? もっと取っちゃう? と、ときどき聞かれ、そうだな、とゆっくり応えながら。
そのとき、
「あっ」
加奈のどこか驚くような声。どうした? おっ。
加奈が声を発した料理を見て、俺も目を引いた。それは、
「ふふっ、ここからは沖縄料理コーナーってところ」
風花姉が得意げに言う。
サーターアンダギーをはじめ、ゴーヤチャンプル、ラフテー、タコライス、おっ、うみぶどうもある。定番の沖縄料理が並んでいた。
「まさやんがね、沖縄から材料の元送ってくれてね。皆んなに食べてほしいさー、だって」
なるほど。沖縄でステファニーとビーチバレーしかしてないわけではなかったんだな。
ほんのちょっとだけ見直しつつ、普段は食べる機会が少ない沖縄料理に興味がわく。加奈もわくわくして、ん?
加奈は、手が止まっていた。さっきまでの楽しげな雰囲気がなぜか静まっていて。
「加奈?」
「えっ!? あ、な、なに?」
「あっ、いや、沖縄料理、取らないのか?」
加奈の目が少し泳いだのが分かった。もしかして、
「沖縄料理、苦手なのか?」
「そ、そうじゃないの! うん、そういうのじゃなくて………」
「ん? あ、あぁ」
俺もよく分からず曖昧な返事をすると、加奈が少しためらいがちに、サーターアンダギーを一つ掴んだ。それを、俺が食べる方のお皿へ。それ以外、何も取る仕草がない。
俺は気になって声をまたかける。
「加奈の分は良いのか?」
「わっ、私のは………、また後で取ろうとな」
もう結構いっぱいお料理取っちゃったから。
そう加奈は言うが、お皿にはまだスペースはある。
変な違和感に俺の心がざわつく。でも、先にデーブル席についていた風花姉と由紀、祐介が俺らを呼ぶ。
「あっ! すぐいくねっ! 太一くん、あっち早くいこっか」
「あっ、あぁ、そうだな」
先を行く加奈の背中を見つめながら、ふと視界に入る自分のお皿に乗ったサーターアンダギーが1個。色々とあった沖縄料理で、これだけしか取らなかった。そのことに、妙な寂しさを感じている自分がいた。それと、なんとも言えない違和感、でも気にしても、考えても、何も答えはでない。
俺は少し頭を振り、気持ちを半ば無理やり切り替える。いつもの平常心で、皆んなの待つテーブル席に向かった。




