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決断

 祐介が『まさやんの本屋さん』でバイトをしたい。

 レジカウンターに置いたタブレットの画面越しに、まさやんに軽く事情を話した。すると

、まさやんは穏やかな表情で頷いた。


『そっかそっか。それで祐介くんが一緒にいたわけか〜』


 どことなく嬉しそうなのは、沖縄でのバカンスで気がゆるんでいるからなのか。まあ話がスムーズに進むので助かる。


「それでさ、軽く面接をお願いしたいんだけど」

「んん? 面接?」


 きょとんとした顔つきになるまさやん。なにそれ? という感じだった。なんでだよ、普通はバイトでそういうのあるだろ。


「師匠! よろしくお願いします!!」


 俺の隣にいた祐介が意気込む。うるさい。


『無理! ビーチバ!! こほん、急用があるから』


 理由が最低だった。ほぼ言っているというか、目当てはステファニーだろ。


「師匠!? 酷すぎるっ!!」

 

 祐介がショックを受けているなか、近くにいる由紀が満足げに口元を緩めた。


「ふふっ、まあしゃあないやん。あほ介のバイトは無しやなっ」

「なっ!? まだ決まってないだろ! あと、あほ介ちゃうちゅうねんっ!」 

「諦め悪いなぁ〜、あと下手な関西弁キモい」

「ばか由紀のマネしただけですぅ」

「はあっ!? うちそんなしゃべりちゃうし、誰がばか由紀やねん!」


 また2人でわちゃわちゃと騒ぎ出した。おい、やめなさい、ちゅうねん。


「こ、こら2人とも!」


 加奈が慌てて仲裁に入った。少し頬を膨らませ、2人をキツめの視線で見つめる。


「せっかくまさやんと話してるのに、またケンカしないのっ」

「うっ!? うちは別に、そ、そんなんちゃうで? な、なあ祐介?」

「お、おう!? 由紀と普通にしゃ、しゃべってるだけだよ?」

「ふーん、そうなんだぁ」


 加奈は目を少し細め、いましめるような眼差しで2人をじとーっ、と見つめていた。由紀と祐介が苦笑を浮かべる。まったく、困った2人だ。


「太一くんもっ」

「んっ?」


 加奈に不意に声をかけられた。顔を向けると、少し頬を膨らましていて、なんだか不満げな表情。えっ? どうした?


「見てないで止めないとっ。友達なんだから」


 止める? あぁ2人の口ゲンカのことか。いや、由紀と祐介が勝手に始めるから。わざわざ止めに入るのが、なんだかさ………。あと………、友達って、祐介はともかく由紀もそうなるのか?


「あっ、めんどくさいなぁって、今思ってるでしょ」

「いっ、いやそんなことないけど?」

「ふーん、そうなんだぁ」


 今度は俺にもじとーっとした視線を向ける。俺も悪いみたいだからやめなさい、とは言いにくい。


『ぷはははっ! みんな仲良しだなぁ〜!』


 気まずい空気が、まさやんの楽しげな声で一気に晴れた。皆んなの視線がタブレット画面に向く。

 まさやんはブルーハワイみたいな色の飲み物を優雅に飲み始めた。おい、バカンスし過ぎだろ。


『いやー、すまん。沖縄は暑いから喉がすぐ乾くのよ。って、まあ皆んなそんなのどうでも良いって顔だなっ』


 その通りだ。代わりに働いている俺らに申し訳ないと思いなさい。あと、祐介のバイトは結局どうなーーー、


『皆んなで決めて良いよ』


「「「「えっ??」」」」


 まさやんの不意の提案に、俺らの疑問の声が重なる。それって、どうなんだ?


『ほらほら、皆んなぼーっとしてないで、今決めヤーサイ♡』


 いやいや、普通は店主であるまさやんが決めることだろ? それを、俺らに任せるってどういうことだよ。


「お、おい太一! ど、どうなんの俺!? ねぇねぇ!」

「肩掴んで揺らすなって。俺も分からん、急すぎるからさ」

「そ、そうやでっ! そやから無かったことでええんちゃう?」

「そうはいくか!! 皆んなで決めろって師匠が言ってただろっ!」

「分かってるわ! やかましいやつやなぁ!」

「由紀もなっ!」

「な、なんやてぇ………!」

「もう! またケンカしない! 今は祐介くんのバイトを決めなきゃでしょ! ねぇ、太一くん、良い方法ある?」

「えっ………!? う〜ん………」


 俺は考える。多数決? あみだくじ? じゃんけん?etc


 俺が考えている間、店内は静かになっていった。気づけば、加奈と由紀、祐介が俺の回答を待っている。いや、ちょっと、プレッシャーをかけないでくれよ。


 俺が変に強張っていたら、


『うしっ! じゃあ太一、皆んなを代表して決めてくれ』


「えっ??」


 まさやんの張りのある声音に、俺は腑抜けた返事をする。また急なことで、思考が止まってしまう。てかなんで、俺が!?


『加奈ちゃんや由紀ちゃん、祐介くんは、お前の回答を待ってるわけだし、ここはビシッと決めて良いんじゃないかな』


 とっ、まさやんは優しく微笑んだ。いやいや、そんなわけ………、あるのか?


 加奈や由紀、祐介が、俺をじっと見つめていたから。俺に判断を委ねる姿勢、目線だった。ま、マジかよ。


『さっ、太一、俺もあんま時間ないからさ、ビシッと言ってヤーサイ』


 ぐぐっ、そう気楽に言うなよ。


 由紀の視線は刺々しい。


 祐介の視線は期待に満ちている。


 ど、どっちを取ればいいんだよ。


 自然と加奈に視線が吸い寄せられていった。


 加奈と目線が合う。すると、ふんわりと頬を緩ませ、穏やかな笑みを浮かべて。俺は、なんでだろう、気持ちが軽くなって。


 ふいに、加奈のあの言葉がよぎったんだ。


『4人で、バイトしたら………、こんな感じなのかな』


 そう言って楽しそうに笑った加奈の表情を、俺は………、また見たい。


      俺の回答は決まった。

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