一人だけ別ゲー・ゲーム性
アクションゲームの中でも、一撃死するゲームって理不尽だと思うの。
特に鳥のフンで死んじゃうやつとか、膝の高さより大きい段差を降りると死んじゃうのとか。
この世界は難易度インフェルノ級である。
別にヘルでもデスでもルナティックでも、インフィニティでもナイトメアでも何でも構わないが。
それは何故か?
簡単な話だ。 この世界の人類はほぼ全てすぐ死ぬからだ。
命の値段が安過ぎるのだ。
例を挙げよう。
鍛えに鍛え、筋肉と言う鎧に分厚い金属の全身鎧を着込んだ男が居るとしよう。
しかもそれは、人間一人分位の高さまで跳ね回れて、30メートル以上の距離を馬上槍でもって水平投げ……しかもどんな体勢であろうと連投まで出来る、全力で駆け回っても疲れ知らずの猛者。
そしてそいつへ、子供が害意を持って小石を投げつける。
するとどうなるか?
鎧が弾け跳び、下着一丁の男が残される。
そして更に投石を浴びたら?
鍛え上げた筋肉とは関係無しに、どんな所へ当たっても死んでしまうのだ。
余談だが小石すら必要無く、タックル1発でさえアウト。
盾? 盾で近接攻撃は防げません。 しかも投石の1発で壊れる様な盾だったら、盾を捨てて攻撃の弾幕を厚くしますって。
お分かり頂けただろうか?
命の価値が極端に安い。
なのにソコは剣と魔法と魔物が溢れるファンタジー世界。
人類に対し、敵となる魔物は反則ものである。
人類と同じく一撃で死ぬものも多いが、一撃で死なぬものもまた、多いのだ。
極端に強くなった魔物など、何十擊と浴びせてようやく倒せるもの、その何十擊を特定の場所へ集中して当てねば倒せないものも存在する。
なお、人類から魔物への攻撃は小石程度では効かず、武器として扱われる道具が必要となる。
そんなのがウヨウヨしている世界。
どれだけ人類が憎いのか? なんでそこまで理不尽な法則を、神は定めたのであろうか?
そんな世界で、なんと魔物の大行進が発生したと、特定の国へ向かっていると知らせが入った。
数は不明。 地の果てまで続いているとまで錯覚出来る、空恐ろしい集団。
過去に類を見ない、あまりにも馬鹿げた数が、こちらへ向かって来ていると言う。
恐らく(人類)世界の危機とも呼べそうな、常識はずれな規模。
その知らせを受けた国主は、速やかに首都へ全国民を集める指示。
魔物を迎え撃つは、戦闘可能な全国民。
そして近隣国からの増援。 もしスタンピードをここで止められなければ、次は我が国。 それを考えれば、嫌でも最大限の協力をせねばならない。
総数でも魔物とは比べられない程度の、笑ってしまう位しか居ない寡兵。
ちなみに総員軽装である。 防御など考えても無駄だから。
そして、重装備でもし弾けた鎧の破片に周りの者が当たれば、死んでしまうかもしれないので。
そして両軍が激突した。
緒戦は人類有利。
世界の法則を考えれば、発達するのは遠距離戦闘。
そう、投擲武器や投射武器、攻撃魔法の発達が著しい世界でもある。
それで一撃で倒せる、近接戦しか出来ないものが大半の魔物側。 それらが務める先鋒をあしらう。
連射を考慮した仕組みを持つ矢筒、何十とナイフを収めて取り出しやすく設計されたホルダー、範囲や連射性を突き詰めた攻撃魔法。
戦場は平原、遮蔽物が無いのでお互い身を守る手段は皆無。
それらが雨あられと魔物達へ降り注げば、大半は溶けるように死んでいく。
ここまでは良かった。
中堅の頃となれば、十擊以上耐えられて、しかも遠距離攻撃まで放てる大物が当たり前に出てくる。
更に戦闘能力はほぼ無いが、ただひたすらに固いだけの魔物を壁として、詰め寄せる魔物まで出てくる始末。
こうなると人類の魔物討伐ペースはどうしても落ちてくる。
物資の補充、魔力の枯渇、休憩、戦死。 あらゆる理由での人員交代や補充が幾度も重なり、もたついている為余計に。
ただし身体欠損による後送は無い。 そんな攻撃を受ければ死んでしまう人類なので。
苦境は続く。
いや、戦死者が増えて戦闘員が大分減った。 もはや苦境ではなく地獄だ。
もっと強くしぶとい魔物が見え始め、絶望に飲まれ動くことを……生きる事を辞めてしまう者も出てくる。
それでも何とか凌ごうと、必死の踏ん張りを見せる人類。
だが魔物は多いし強い。 理不尽なまでに。
魔物が途切れる様子は無い。
このままでは、国が……いやその内人類すら滅亡する。
誰もがそう思った瞬間に、変化が起きた。
巨大な竜巻が発生した。
巻き込まれ吹き飛ばされるのは魔物のみで、人類へは影響が及ばない、不思議な現象。
それと、人類最前線に女性が立った。
彼女は背中までのびる緑髪三つ編みに碧眼、後頭部を飾るリボンみたく縛った真っ赤なハチマキ、金色の金属製の胸部鎧をあてた、ベルト付きで白く縁取られた赤いワンピースの細身かつ美しい女性。
この世界では無駄とされる盾の一種、円盾を腕に縛り付け、装飾が施された金属の杖を握っている。
彼女が現れた直後から、人類は息を吹き返したみたいに動き出す。
彼女は強かった。
杖から出る魔法弾は距離が短い代わりに、まるで無尽蔵かと思うほどの勢いで連射される。
しかも女性の攻撃は威力が桁違いなのか、ニ擊分のダメージを一撃で叩き出し、連射速度まで含めると圧倒的な速さで魔物を屠って行く。
そして魔物からの飛び道具は、世界の理が違うのか、ノーダメージで盾によって防ぎきる。
更に走る、しゃがむ、這い回る、跳ぶ。 しかも跳んでいながら、空中でベクトルを変えて着地地点を操作する、驚くべき空中機動性能。
敵への位置取りが巧く、ヘイト管理も完璧で、魔物は知らぬ内に死地へと誘われ果てて行く。
縦横無尽に活躍する様は、美しい容姿も合わさりまるで舞踏を見ている様。
魔物からの返り血を浴びていないのか、不思議と装備が汚れていない。
…………どこまで余裕なのか、何故か彼女が倒した魔物からはコインやコイン袋や、たまにハートの形をした何かや虹色に光る玉が飛びだし、それを見つけては嬉しそうに拾っていた。
そんな姿を見て、他の人類だって女性に任せておけないと奮起し、旺盛な攻撃を畳み掛ける。
「多過ぎる」
ふと、そう彼女が呟いたと思うと、どこからか取り出した不思議な石を握る。
すると、握る石毎に神秘的な変化が、女性の攻撃へ表れた。
4人程の幅を持つ魔力で出来た刃が魔物に襲いかかったり、
2人程の幅を持つ魔力で出来た刃が、正面と左右斜め前の3方向へ走ったり、
コウセイシュリュウダンと呼ばれる爆発物を大量にばらまき、広範囲をまとめて殲滅したり、
螺旋状にねじれた魔力弾が、直線上にいる多数の魔物を貫通したり、
明後日の向きへ撃ち出した魔力弾が、まるで生きている様に最寄りの魔物へ向かっていったり。
「まだ足りないか……しかし小狡い商人一族が近くにいないとは、なんたる不運」
石を使い果たしたのか、女性が呻く。
その隙を狙っていたのか、ただの流れ弾か。
凶弾が彼女を襲う。
次の瞬間、攻城兵器が街壁に当たったかのような轟音が、戦場に鳴り響く。
「くっ……!」
が、女性は無事だった!
元の場所から少しずれたが、それでもしっかりと地に足をつけ厳然たる勇姿そのままに!
「9つあるハートの、丸々ひとつか。 四半でも半分でもなく。 強いな」
人類ならまず1発アウトの攻撃を、防具全損も無しに耐えきった!
『うおおぉぉぉおおっ!!!』
まさかの奇跡が起きた。 そう人類は沸き立ち、見ていた者全員が叫びだす。
そんな連中を一度チラリと流し見て、魔物へ向き直り、杖を掲げると光り出す。
再び凶弾が直撃コースで飛んで来るが、今度は女性が生み出す魔力の膜に阻まれて当たる事はなかった。
現在終盤。 残りは大将格が主となる、倒すのに多大な苦労と物量を求められ強いられる、地獄。
だが終盤と言うことは、あの果てが無い様にも見えた魔物の群れが、尽きかけていると言うこと。
人類にも希望が見えた瞬間だ!
少し後に振るわれた杖だが、不思議な石の様な変化とは全く違う。
この世界の人類が使う魔法とは違う、しかし魔法としか言えない現象が次々に起こる。
登場した時に起きた巨大な竜巻が魔物達を吹き飛ばし、
雷を纏い、魔物が近くまで寄るとしびれさせ、
吹雪を浴びせて魔物の足を止め、
――――合間々々に、魔物から出てきた物を嬉々として拾いながら
まるで鏡みたいに瓜二つの分身を多数生み出し、連携して攻撃し、
炎の鶏を作り上げ魔物の群へけしかけ、
天から裁きの光を地上へ広く落とし、普く蔓延っていた魔物達も、星の直撃にはたまらず息絶えて行く。
様々な魔法の奔流に飲まれ流された魔物達。
生き残っている魔物は3桁も居ない。
生き残ったのがいくら頑強な種類だろうとも、女性が起こした奇跡を受けて、奴等は既に満身創痍。
その様子を確認した彼女の凛々しい声により、号令がなされた。
「決着はこの地に住まう者がつけよ!!」
『おおおおぉぉぉおおおおっ!!!』
ここで奮い立たねば、国を……人類を護らんと立ち上がった意味が無くなる!
最後まで力を振り絞る意気込みで、今回参戦した全ての人類が武器を握り駆け出した。
残った魔物の殲滅が済んで落ち着いた頃、途中から参戦した神の如き強さを見せた女性を探したが、その姿は最初から幻だったかもしれないまでに、痕跡が消えていた。
しかし、戦列を共にした者からすれば、あんな出来事を忘れるなぞ不可能。
彼女が確かに存在した証として、像を建て語り継ごうと全ての者が話し合う。
後にこのスタンピード防衛戦は、戦力差に比して被害が極めて少なく、早期に終結させられた奇跡の戦争として世に語り継がれる。
奇跡と共に現れた、戦女神を話の柱として。
途中で乱入した女性は誰か?
アンソロジー・冒険・アレンジ。
これで反応して頂ければ、反応なさった方と握手したいです。
プレイしたシリーズで一番好きなんですよ、アレンジのが。
それであの方が、アレンジのシナリオ後に“お姉ちゃん”から“お姉様”まで育ったイメージで、お願いしたく思います。
そうそう。 あの方の容姿やアイテム、魔法(術)まで丸々そのままだと問題がありますから、チョイチョイとフェイクを混ぜてます。 文中表記を鵜呑みにして、リアルで“知ったか”などせんで下さいませ。
※彼女はなぜとどめを譲ったのか? なぜ最後まで居なかったか?
とどめを譲って、散らばったアイテム(主にコイン袋)が消えぬ内にと、回収して回っていました。
そして回収が終わり満足して、上から出された使命も完了したので、とっとと天界(その天界も異世界だが)へ帰っただけの事です。