ドメスティック・バイオレンス
ドメスティック・バイオレンス
ある夜、早々に風呂へ入り適当に歯を磨いて、眠りこけていた。すると夜の遅い時間に電話が鳴ってたたき起こされた。オケラの連絡網だった。
「ヨシ君、優勝したから」
「あ、そうですか」
「じゃあ」
「はい」
受話器の向こうでトランペットの先輩は、ただの伝言と言うように伝えたら電話を切った。はて何が優勝したんだろう?
次の日、学校へ行ったら全国学校合奏コンクールの全国優勝だということだった。これは某公共放送が主催で行っているものじゃなかったっけ?
この某公共放送は、合唱についてはテレビで大々的に放送するなどカネと力をかけるけれど、合奏部門は簡単にテープ審査で、部員が会場まで足を運ぶ必要もなく、全国で最優秀だからと言っても、まるで闇から闇へ葬り去られるように、あったことなのかなかったことなのか、よく分からないコンクールである。
二週間ほど前に文化ホールを借り切って、グリンカ作曲の「ルスランとリュドミラ」という曲をレコーディングしていた。それを提出していたことを俺は悟らなかった。
今年一年のすべての活動が終わって、冬に入り、ガスストーブの異様な火力で第一音楽室を温めている、アタマのぼんやりした環境の中で、N市長の名前が入った、全国優勝を讃える賞状が部員たちに渡される。
一学期の初めにはどれほど管弦楽部から逃げ回っていたか、そんな自分が、一年生の最後にはこうして全国最優秀を表彰する賞状を誇らしげに受け取っている。
しかし、先輩たちはとっぷり日が暮れた下校路で、その賞状を破り捨てていた。
「去年も母さんがせっかく全国優勝したんだからと賞状を額に入れて飾ったんだよ。だからこんな下らないもの飾るんじゃねえ!って、額ごと壊したんだよ!」
先輩方も正直なところ、何が一体腹立たしいのか。全国のトップに立った証の賞状を破り捨てるほどで、それでいてなんで楽器を吹く中学生としての青春期を三年間送り通したのだろう。
俺にとってはこの先輩たちの姿が面前DVという状態になっていた。ドメスティック・バイオレンス。心にキシキシと傷がついていく。




