俺が嫌いか?
定期演奏会の次の日も、休むことなく部活は続く。
こういう日くらいは休日にしてもいいとは思うが、オケラ、管弦楽部は休みという概念を完全に忘却している。ゾンビが珍しくもトロンボーンの席までひな壇を上がってきた。
「東條、演奏会の収入が二十八万円入ったんだ。トロンボーン買うか?」
ゾンビはなれなれしいという感じで話しかけてきた。管弦楽部は一晩で二十八万円も稼いだのか? あんな演奏会で、会場の使用料はタダで、聴衆の払ったチケット代と寄付金まで募って一夜にして二十八万円。いい商売だなあ、あやかりたい。
「……いいんじゃないんですか」
東條先輩としては、およそ話し合いという雰囲気ではなく、ゾンビを避けるように視線さえ合わせずに答えた。
ゾンビも嫌われていることには、十分気が付いている。なぜ合同練習中にトロンボーンが暇なのかというと、下手にゾンビが東條先輩に指示を出して、それが反発されることに恐れていたからだ。ゾンビはトロンボーンに対して何も言えないほどの気の使い方をしていることは部活の誰にも分かっていた。
しかしゾンビだってこうも中学生に反抗されたら、はらわた煮えくりかえるほどムカついている。東篠先輩のサード・トロンボーンの爆発的な音は捨てるわけには行かない。とはいうものの、ゾンビもついに言った。
「東條、お前は俺が気に入らないか?」
正面切ったゾンビ。さすがに東條先輩もたじろいだが、それでも目を合わせることはしようとはしない先輩である。そこまで根性も入っているのか。先輩はマジで掛け値なしにゾンビが嫌いなのだ。
「いまトロンボーンを買わなかったら、どういうことになるか分かっているんだろうな?」
「分かってますよ」
全国優勝校といっても、全体的に使っている楽器が年代物になっていてボロボロのものばかりである。特にトロンボーンはほかの楽器にもまして、中古楽器以下という金属のクズの寄せ集めの状態だった。ここで一台でも新品のトロンボーンを買っておかなければ、今後トロンボーンのパートがある曲を演奏することは次第に不可能となっていく。
「買ってほしいのか? 買わなくてもいいのか? どっちなんだ?」
「……買っていいんじゃないんですか」
東條先輩はとうとう一度も視線を合わせないまま、ポーカーフェイスで通した。ゾンビは黙ってひな壇を降りていく。




