90,文化祭準備③
文が抜けていたのを投稿して5時間後に気付きました。すみません、またまたミスをしてしまいました_(._.)_
最初の陽斗、白石、市原の3人が作業しているシーンです。
「白石くん、何か手伝えることない?」
1人で廊下でダンボールに色を塗っている白石に、陽斗と市原の2人が声を掛ける。2人はミュージカルの通しを一通り終え、今は休憩時間だ。だが、かなり準備がギリギリな為、手が空いた人は何か手伝わなければならなかった。
「それなら、そのダンボールにこの色で塗って欲しい」
白石はそれらを指で指し簡潔に説明すると、すぐに自分の作業へと戻る。
2人は言われた通りに、白石の横で塗り始めた。
少しして、白石の後ろから声が掛かる。
「ねえ、白石くん、それ後どのくらいで終わりそう?」
白石が首だけをそちらへ向けると、そこには白石と同じく大道具担当であり、そのリーダーの女子がいた。
「もう終わる」
「え、はやっ!」
その女子は白石が塗っているダンボールを見ると、驚いた顔になる。
白石は手際がいいらしく、彼のおかげで大道具は思ったよりもスムーズに進んでいるらしい。
「それなら、次はあれ頼んでもいい? 1人でするのは大変かもだけど······」
「わかった」
「それじゃあ、よろしくね。何かあったら頼ってね」
女の子はそれだけを言うと、少し離れたところにいた数人の女子達の方へ早足で駆け寄り、何やら照れたような、嬉しそうな表情で話している。
その様子を見ていた陽斗と市原は顔を見合わせる。
「ねえ、あれ、そういう事だよね」
「ああ、多分そうだと思う」
おそらく、2人の思っていることは同じのようだ。
2人はふと白石の方へ目を向けるが、彼は黙々と作業をしている。
白石はこの文化祭でさらにクラスの人と打ち解けていた。雰囲気は怖いが、話せば普通に返してくれるし、やる事はやるし、普通に優しい。
また、彼は普通に顔が整っているので、最近は女子達の人気も急上昇しているらしい。彼の近寄り難いオーラもまたその株を上げているのだとか。
まあ、彼は他人に興味がないので全く気づいていないだろうが。
「皆、白石くんの魅力に気づくの遅すぎなんだよ!」
「いや、お前誰目線だよ」
市原は陽斗に突っ込むが、陽斗の方こそ自分の魅力に気づいていないだろうと、心の中で思った。
3人は話しながらも作業を進める。だが、突然聞こえてきた大きな声でその手は止まった。
「なあなあなあ! これめっちゃ似合ってない!?」
廊下で作業をしていた3人は、その聞き覚えのある声に目を向ける。そこには、メイド服を着て胸までの長さの黒髪のカツラをかぶった高柳の姿があった。顔には軽く化粧が施されていた。
「ぶははははっ! お前何その格好! 似合って無さすぎだろ!」
「ぶ······くくく、やばすぎ······ぶふっ」
ゴツゴツとした体に日焼けし、ゴツゴツとした濃ゆい顔にはメイド服は全くといっていいほど似合っていなかった。むしろきつい。化粧は逆にいい味が出ているのではないか。
陽斗と市原の2人は笑いが止まらなかった。
「気持ち悪っ······」
「気持ち悪いってなんだよ! 失礼な!」
そんな2人に反して白石は顔が酷く引きつっていた。まるで嫌なものを見たというような表情だ。正直、スカートから出ている手足には毛が見え、見苦しいものがあったのも確かだ。
「ちょっと、煩いよ。隣の教室まで声聞こえてるんだけど」
4人がというか、高柳が主に騒いでいると、隣の5組の教室からまたもやメイド服を着た人物が出てきた。
その瞬間、その場にいた者は皆、その人物の容姿を見ると思わず口をポカンとさせる。
美を感じさせる上品な顔、スタイルは抜群でメイド服から見える手足は長く細い。あまりにも美しすぎるその容姿に、廊下にいた者は全員惹き付けられた。その高すぎる身長が気にならなくなるほどに。
こんな女性がこの学校にいただろうか。
皆はほうっとその人物に見惚れる。
「······ちょっと、なんで皆黙るの?」
だが、その人物から出た声は透き通っていて美しいものの、女性にしては低く、正真正銘男性の声だった。それに、何だか聞き覚えのある声。皆は一瞬にして目の前の人物が誰なのかを悟った。
「何だよ、西島かよ」
「え、待って! 似合いすぎる!」
陽斗と市原はよくよく見れば、その人物の顔はそのまんま西島だった。あまりにもメイド服と違和感が無さすぎて一瞬気付けなかった。
「というか、女子よりもメイド服似合うて、ある意味キモイわ」
「ね、俺も思った」
自他ともに認めるその美貌。西島は割と中性的な顔で、かっこいいよりは美しいというような顔だ。女装は似合うだろうと思っていたが、まさかここまでとは。その辺の女子より美人だと誰もが思った。
彼がメイド服で学校を歩くもんなら、男子が顔を赤らめてその姿を追う。男子だけでなく、その場にいた女子も含めてみな、彼に見惚れる。
そのおかげで、西島は女子だけでなく男子の人気を大いに集めてしまった。
***
その日橋本が何やらダンボールを抱えて廊下をフラフラと歩いていた。
職員室の前を通った時太陽先生にパシられ、ミュージカルで使う道具を教室へと運んでいた。
太陽先生は「仕事が忙しいから」と言っていたが、荷物を自分に預けた後の隠せていないにやけ顔をハッキリとこの目で見た。
しかも、そのダンボールがとにかく重い。女子1人に預けるような重さじゃない。
絶対にアイツは私のことを男だと思っているだろう。実際、髪は短いし背も高いし、よく男よりも男らしいと言われる。
だからといってこれはないだろうと、心の中で太陽先生に恨み言を言いながらようやく階段の前まで辿り着く。
ここから1階登って長い廊下を行かねばならない。
橋本はため息をつきながらも、再びダンボールを持ち上げようとした。
「あれ、橋本じゃん。何してんの?」
後ろから声を掛けられ、振り向くとそこには市原がいた。
「太陽先生にパシられた」
「うわー、女子をパシるとか先生失格だろ」
市原はそう言うと、橋本の前にあったダンボールをヒョイっと持つ。
「重っ! これよくここまで持ってきたな」
市原はダンボールを抱えて階段を上り始めた。
「え、ちょ、いいって。私が運ぶよ」
橋本は慌てて市原を止めようとする。それは自分が頼まれたもので市原は関係がないのだ。
「私男みたいだし、筋肉も普通の女子よりあるからこんなの平気」
「いや、そんなほっそい身体で持ったら骨折れるだろ。女の子なんだから男に任せろ」
市原は笑って軽々とダンボールを運んでいく。
橋本は聞きなれない言葉に一瞬固まった。
「女の子」だなんて言われたのはいつぶりだろうか。
身長は170センチ越えで性格も男らしくて、全く女の子らしくないというのは自分でも自覚している。
今まで何度「男みたい」だとからかわれてきただろう。
目の前を歩く背中は心強くて自分よりも二回りも大きい。
なぜだか分からないが、頼ってしまいたくなる。
「おい、何ボーとしてんだ? 行くぞー」
階段を既に半分上った市原がまだ1段も登っていない橋本に上から声を掛ける。
「あ、うん」
橋本はハッと我に返って、すぐ彼の後ろを追い掛ける。
彼女の心には感じたことのない暖かさが残っていた。
読んで下さり、ありがとうございます( לּ_לּ)




