番外編 林 成美
番外編です! 成美ちゃんの話です!
朝七時、ある平日、私は少し赤くなった顔でバスケ部のユニフォームを洗っていた。ぼんやりとして、さっきの出来事を思い出す。
今宮くんの、優しい手、真っ直ぐな目、「綺麗な手であって欲しい」という言葉。
ドキッとした。だって、今までと違う雰囲気だったから。
あの時、顔が赤くなってしまったのを、絶対に見られてしまっただろう。恥ずかしくて死にそう。
心の中で悶絶し、ユニフォームを洗う力がつい強くなる。
私は林成美。成宮高校一年で、バスケ部のマネージャーをしている。
今宮君とは、最近転校してきてバスケ部に入部した人。無邪気な顔が可愛い子供のような男の子。バスケは超上手であった。
高い技術、半端ないスピードとジャンプ力、そしてキレイなフォーム。
最初見た時、私は驚きとともに尊敬した。
それに、今宮君は、どんな時もすっごく楽しそうにバスケをする。長い前髪と眼鏡の間から見える顔はキラキラとして、かっこよかった。
前髪もっと切ってコンタクトにすればいいのに、と成美は密かに思っている。
成美は自分の荒れた手と今宮君から貰ったハンドクリームを見る。
同じような事、前もあったなー······
***
成美が小学生六年生の時、その時も成美の手は荒れていた。
実は、成美は父子家庭である。母は自分が幼い時に病気で亡くなった。それ以来、父の負担をなくすため、自分で出来る家事はやってきた。洗濯、食器洗いなど。
仕事で大変な父に物をねだろうとは思わず、成美の手は荒れたままだった。
そんな時、成美はバスケの試合に出ていた。
「キャーーーー!」
バスケットコートに黄色い声援が飛び交う。成美がそちらに目を向けると、そこは男子コートであった。一人の少年が凄まじい活躍をしていた。
その少年とは、"青羽 瞬"である。
芸能界でも活躍しており、顔は超美少年。白い肌に、少し堀が深く、目はぱっちり二重。外人の血が入っているハーフの顔である。
彼がいるコートはたくさんの人で囲まれていた。ファンの人も見に来ているのだろうと思う。
まあ、いつもの事だ、と成美は次の試合に集中する。
成美は、試合の前になり、トイレをすます。冷水で手を洗ったため、荒れた手は赤くなり、少し痛みが広がる。
これくらい大丈夫だと思って、成美は手を軽くぎゅっと握りながら、コートへと向かう。
「君、手荒れてるね」
横から声を掛けられた。
成美が声がした方に目をやると、そこには"青羽 瞬"が立っていた。彼は心配そうに成美の荒れた手を見ている。
すると、彼は急にハッと何かを思い出して、リュックから何かを取り出し、成美に渡す。そこには、未使用のハンドクリームがあった。
「それ、俺使わないから使って!」
彼は無邪気に笑う。
成美はドキッとする。こんな破壊力な笑顔、間近で見るのは眩しすぎる。
「い、いや、貰えないよ」
「いいから貰って! じゃ!」
「え、あ、待って!」
成美は呼び止めるまもなく、彼は走り去っていた。
成美の手に残されたハンドクリーム。
成美は少し放心する。そして、さっきの彼の笑顔を思い出して顔を赤くする。
成美は彼がくれたハンドクリームを嬉しそうにぎゅっと握った。
それから成美は中学校へ入学し、彼が芸能界で活躍している事を知った。彼が出ているドラマ、バラエティー、雑誌はたくさん見た。成美は、"青羽 瞬"の隠れファンであった。
だから、彼が芸能界を辞める時は悲しかった。もう、あの笑顔が見れなくなるのが寂しかった。
でも、彼は今もどこかにいる。いつか、彼にまた会いたいと願った。
***
成美は懐かしく当時を振り返る。
何故か、今宮くんが彼と重なる。あの無邪気な笑顔は、長い前髪と眼鏡でよく見えないけれど、似ているように感じるのだ。
まあ、彼が今宮君なわけないよね。こんなとこにいるとも思わないし。
成美はユニフォームを洗い終わり、荒れた手をハンカチで優しく拭く。そして、陽斗から貰ったハンドクリームを開ける。ふわっと漂ってきた優しく甘い匂いは、あの時と同じだった。
読んで下さり、ありがとうございます(●︎´▽︎`●︎)
これからも是非暇がありましたら読んで下さい!