82,帰国
『ただいま、高校バスケ代表選手らが空港に姿を見せました! 空港には多くの人達が集まっています!』
カメラが移す先には、世界高校バスケ大会を終え日本へ戻ってきた高校生のバスケットボール選手たちが。
ファン達は歓声を上げ、選手たちにサインを求める。記者やカメラマンも多く見られる。
思っていたよりも日本の盛り上がりように、陽斗たちは驚いた。
それもそのはず、彼らは世界大会優勝という偉業を成し遂げたからだ。しかも最後のブザービーターでの逆転勝ちには、見ている誰しもが飛び跳ね奇声を発して喜んだものだ。
そんな時の人となった彼らはたくさんの取材を受けた。特にイケメン枠の星野や優勝を決めたシュート打った陽斗に集中する。
知り合いの記者やカメラマン、共演した事のあるアナウンサーなどがいて、陽斗は終始緊張しっぱなしだった。
こんなにたくさんカメラを向けられ、フレッシュをたかられ、変装に自信があっても正体がバレてしまうんじゃないかと恐ろしい。
そんなこんなで、陽斗は大量の脂汗をかいた。
そして、全てやることを終え陽斗たちは解散する。長い期間を共に戦ってきた仲であるので、別れを偲ぶ者も多い。しかし、次会う時は敵同士であるので、皆はそれぞれ前を見て歩き出した。
「おーい、陽斗!」
空港を出て少し歩いたとこに、冴木がこちらに手を振りながら立っていた。
「あ、亮くん!」
陽斗は冴木の元へ駆け寄る。その後ろには剛力の姿もあった。
「優勝おめでとう! マジで感動したよ! ついでに剛力も」
「オマケみたいに言うなよ! 俺だって試合出たんだからな」
「ま、とりあえず、2人ともお疲れさん」
冴木はにかっと笑って2人に何やら袋を差し出す。その中には、最近2人がハマっている老舗のお団子が入っていた。
「うおー! これ、食べたかったんだよー!」
「まじナイス!」
2人は我よ我よとお団子に群がる。
「うーん! このモチモチ感たまらない!」
「このみたらしの味もまた絶妙だ!」
2人は冴木が運転する車に乗りながら幸せそうに頬張る。あっという間にお団子が2人の胃袋の中へと消えてゆく。
「そういえば、免許取ったんだったね」
「そうそう。上手だろ?」
冴木は今年高校を卒業し、車の運転免許を取得していた。何と19歳にしてすでにマイカーも持っていて、非常に良い車に乗っている。
今年はドラマや映画、バラエティーまでも多数出演予定である。何事も積極的に体当たりする姿がまた好感が持て、老若男女問わず人気である。
この男は、どんだけ稼ぐのだろうか。
「あの、亮くん。色々とごめんね」
お団子を食べ終え車内が落ち着き出した時、陽斗がポツリと言葉をこぼす。
父関係で陽斗が悩んでいた時、冴木にはまた心配をかけてしまったのだ。また同じ過ちを繰り返して、1人で抱えて閉じこもった。
母が倒れ1人でさまよっていた時のようにはならないと、冴木と約束したのにも関わらずに。
「全くだよ、俺は寂しい! 少しは頼ってくれよな!」
冴木は少し怒っているようだ。頼ってと言っているのに、いつも相談してくれない。ちょっと拗ねていた。
「でもまあ、前を向けたようで良かったよ、本当に」
「······うん、ありがとう」
2人は笑い合う。
お互いを自分の事のように思い合える、なんとも美しい友情だ。
「おーい、そこの超有名人と元有名人ども。俺にも感謝しろよな」
1人空気になっていた剛力が口を挟む。なんといっても、自分が1番の功労者だと自負している。陽斗のためにあちこちと動き回ったのだ。正直、他人をこんなに助けたのは初めてだと思う。
「剛力くんには本当に今回助けられたよ。まじ感謝してる! 今度なにかお詫びさせて!」
「いや、いつもバスケ練習に付き合ってくれてるから、それでチャラな」
「それは俺が楽しんでやってるから! 別の形でなにか!」
「だからいいって! もうお前にこれ以上借り作りたくねーよ!」
「······これ以上? 剛力、陽斗に借りたくさん作ってんだ」
そんな2人の言い争いを聞いていた冴木が、ニヤニヤと笑いながら剛力をからかい出す。この男はちょっとした事でも聞き漏らさないのだ。
「ん、いや、まあな」
剛力は思わず失言したと焦る。その借りというのは、小学校の時と陽斗と初めて戦った時である。勝手に1人で陽斗を目の敵にしてただなんて、自分のプライド的に言いたくない。
「ま、剛力も陽斗のためにありがとう。お陰で人を殺さずに済んだよ」
そんな冴木の言葉に陽斗と剛力の2人は耳を疑った。聞き漏らしてはいけないものがあった。
冗談だと思ったが、何故か全くそう思えない。むしろ、空気が凍りついたかのように体の震えが止まらない。
陽斗が立ち直ってくれて本当によかったと、剛力は心から安堵した。もしそうじゃなかったら、今自分の命はなかったし、恐らく陽斗パパもだろう。
冴木は陽斗のためなら何でもするのだと、剛力は改めて実感する。なぜ冴木はそこまでするのか、自分には全くわからない。だが、今回の事で陽斗の件に対して冴木を怒らせるのは気を付けようと、心から誓った。
***
「亮くん、家まで送ってくれてありがとう」
「いいよ、いつも家にお邪魔させて貰ってるから。それじゃ、親子でちゃんと話してきなよ」
実は、父とアメリカで会ったことはまだ母には話していない。母には電話やLIMEではなく、直接自分の口から言いたかったのだ。
本当は話したくない。母がそれを聞いてショックを受けて、また倒れてしまうんじゃないかと怖いのだ。
しかし、陽斗は心を決めた。母に隠し続けるのはそれはそれで嫌だ。
「······うん、行ってきます!」
陽斗は自宅の方へと歩いていく。
「なんかあったら、俺に言えよ」
冴木は心配そうに、だがそれを見せずに陽斗を見送る。
陽斗に何かあれば自分はいつでもどんな時でも助けると、あの時からずっと心に決めているのだから。
陽斗はドアの前で深呼吸をする。そして、3週間ぶりの扉を開けた。
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