81,決勝のゆくえ
今までと自分が違うみたいだ。
試合の際、レオは漠然とそう感じていた。
コート全ての状況がスローのように見える。自分の動きもいつもより鋭く、洗練されている。
自分の本来のスタイルはこれだったんだと、バスケを10年以上もやっていたのに今更気づいた。
その変化を思ったのは準決勝の時だった。父から衝撃の事実を告げられ、陽斗と話し込んだ次の日からだ。
決勝トーナメントが始まる前の前日、大事な話があると父から俺と母は呼び出された。
それは何か鈍器のようなもので頭を殴られるほどの衝撃的な話だった。最初は全く父が話している事が全く理解できないほどに。
父が話終わらないうちに母は取り乱した。結婚する前に夫に家族がいただなんて、思ってもみなかっただろう。
自分はただ下を向いて黙りこむだけで、母を慰める余裕もなかった。
なんとか最後まで話を聞く事が出来たが、ショックで何も言えなかった。何よりも、父と陽斗が家族だなんてことは。
今思えば、陽斗の様子がおかしかったのはこれが原因だったのだろうと気づいた。そりゃ自分を避けるわけだ。
陽斗とは出会いはまだ浅いが、数少ない心を許せる友達だ。そんな彼が自分の父の実の息子だなんて信じれるわけがないし信じたくもない。
母は泣きながら色んなことを父に問い詰め始めた。長年一緒にいて初めて知ったわけだからショックも大きいだろう。
その時は、この家族は壊れるんじゃないかと怖くなった。
また、陽斗から幸せを奪ったという罪悪感や憧れの父の血を持つという妬みの思いが強くなった。これから彼とどう接すればいいかわからない。
しかしそんな沈んだ心も次の日、陽斗と話した事でかなり楽になる。
陽斗はもう、前へ進んでいたのだ。純粋に自分のバスケを楽しんでいた。
それに比べて自分のバスケは暗く、狭かった。
父のバスケを追い求め、周りの目を気にして、苦しかった日々。自分の道を開こうとはせずに父にしがみ続けた。
だが、今はもう違う。
陽斗と心をさらけ出したからか、気持ちがふわりと軽くなった。
レオはレオだと、陽斗はまっすぐ見て言ってくれた。父とは関係なしに強くて憧れる存在だと。
その一言にどれだけ救われたか。
長い長いトンネルを抜けたかのような気持ちになった。
眩しいほど光に照らされたコートの中で、レオは楽しそうに笑っていた。
***
それはまた、陽斗もであった。
負けているのにも関わらず、焦りよりも楽しさが勝る。
観客達の熱、敵からのプレッシャー、仲間の存在、会場にある全てが陽斗を鼓舞する。
それはレオの存在も大きい。
今目の前にいる彼は以前とは変わっていた。
前は淡々とバスケをしているようだったのに、今は獅子奮迅の勢いだ。纏うオーラが全く違う。
友であり敵でもある彼の成長、そして本気で戦えるのことを陽斗は嬉しく思う。
今日は特に周りがよく見える。それに体も軽い。
陽斗の調子も後半になり、さらに上がってきた。
前半で思うように入らなかったシュートが徐々に入り始める。また、敵は陽斗の動きについていくのに苦戦する。速すぎて、止めようにもファールになってしまうのだ。
糸のままにボールを操る技術にスピードがついた陽斗は半端なく強かった。彼自身、今の状態はゾーンに入っていると感じていた。
1人では陽斗を止めるのは厳しい。だが、2人でそうすればゴール下の守備が薄くなる。レオがいるとしても、全ては防げるわけがない。
日本チーム全体のパフォーマンスも上がってきており、段々と点差は縮まっていく。
そうして試合もとうとう終盤。
陽斗とレオはお互いに睨み合う。
陽斗がレオの動きを読んでボールをカットし、そのまま速攻で点を決めた。すると次はレオが陽斗の動きを見抜いて止める。
そんな2人の全く譲らない熱い戦いは、観客だけでなく会場をも飲み込む。
ついに試合時間が1分を切る。以前アメリカのリード。その差は僅か1点。どちらに転ぶか分からない。
見ているもの達はそれぞれに固唾を飲んで見守る。
ここで日本の攻めに切り替わる。
ここを攻め切れれば日本の勝ち。逆に守りを破ることが出来なければ負け。
しかし、相手も意地になって止めにくるため隙がない。
必死に勝機を探る。
だがもう時間が無い。すでに10秒を切っていた。
ここで陽斗にボールが回る。
目の前には2人の敵。そのうちの一人はレオだ。
陽斗は体制を崩しながら、倒れながらも無理やりシュートを放つ。
陽斗の手からボールが離れた瞬間、会場にブザーが響き渡る。
レオは何とか手を伸ばすが、ボールはその数センチ上をいく。
陽斗が放ったボールはリングに当たり、そして────
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