79,vsブラッド
世界大会決勝トーナメント、3日目。16あった国は今や4つ。その中に日本は残っていた。
これは日本内で大盛り上がりだった。予選リーグ1位通過、そして決勝トーナメントの準決勝進出。
この予想にもしなかった高校生たちの大進撃は、本人達も知らぬ間にテレビでも新聞でも大々的に取り上げられた。この準決勝の生中継がテレビで流されることが決まるほどに。
日本の試合が始まろうとする中、多くの人達がテレビの前に集まる。
陽斗とブラッドはコート内で向かい合っていた。
それぞれ決勝トーナメント1回戦を勝ち抜き、友は敵として目の前に立ちはだかる。2人は闘争心を燃やすと共に、戦えることに喜んでいた。負けたら終わりの試合で、全力でぶつかり合えることを。
試合は五分五分の状態で進み始める。
しかし、やや日本は押されつつあった。
特にブラッドに苦戦しつつあった。彼は今大会でNO.1のスリーポイントシュート率を誇る。また、ドリブルもうまい。シュートをすると見せかけて前に突っ込んだり、その逆もある。
彼を乗らせたことでさらに相手チームに勢いを与えてしまう。
第2クオーターを終え、点差は徐々にひらいていく。
ブラッドは本当に凄いと、陽斗は心の中で称えた。いつも身近で感じていたが、試合になると更にだ。
自分も負けられない。
ただ前を見据えて、集中力を高める。
今試合で1番の活躍を見せたのは、日本の高校生の中で1番ディフェンダーがうまいと言われている守田だった。
ブラッドが波に乗り、敵チームを更に調子づかせてしまった。
しかし、この試合を通してそのエースにずっとプレッシャーを与えてきた。
そして今、第3クォータに入り、ブラッドがボールを持つ。
彼はシュートを打つと見せかけてテキをかわし、中に入ろうとしてきた。しかし、前には守田がいた。
味方にパスをしようにも、どこもパスルートは無かった。
ブラッドは苦し紛れに無理な体勢でシュートを打つ。
しかし、ぶれた軌道を描いたボールはリングに当たる。
知多がリバウンドを取ると、既にコートの真ん中付近にいた星野へと素早くパスを回す。
速攻だ。
星野はそのままの勢いでダンクする。
会場は一気に盛り上がる。
先程のハーフタイムの時に、守田は仲間を集めて作戦について話したのだ。少しばかり変えて、それがピタリとはまった。
守田の口角が上がる。
この相手を追い詰めていく時の感覚が半端なく気持ちいい。これだからバスケは楽しいのだ。
ついに第4クオーターへと突入。敵の前半のような勢いは弱まり、点差は徐々に縮まっていく。
陽斗がボールを持つ。
手元で素早くボールを左右に変えて目の前の敵を抜かそうとする。
しかしそれはフェイント。
あまりの緩急に相手はそれにつられてバランスを崩す。
その隙に陽斗は再びボールを左右に切り替えて前へ突き進む。
まるで、ボールと一体化しているようなドリブル。取れそうにも全く取れない。
陽斗のドリブルは進化していた。以前よりもボールと心が通じあっているかのように、くっついて離れない。
陽斗はスピードに乗ったまま突っ込み、ボールをリングへとほうる。
その瞬間、会場から大歓声が巻き起こる。
ここで日本が逆転する。
しかし、敵も負けたままではなくすぐにやり返す。
ブラッドも負けじと体勢を崩されようと、シュートを決めてくる。
どちらも互角の試合はもつれにもつれる。
そして、ついに会場に終わりのブザーが鳴り響く。
その瞬間、日本側から歓声が巻き起こる。
この激闘に勝利したのは日本だった。
皆はそれぞれに喜び、抱き合う。
その光景をブラッドは口をかみ締めて見ていた。
前半はこちらが押していただけに悔しい。
普段の自分は内気で弱虫だ。だが、バスケに出会ってからは自分に自信を持てるようになった。バスケをしている時だけは自分が輝いているように思えるのだ。
バスケは自分にとってはかけがえのないもの。人生だと言っても過言ではない。
それなのに負けた。自分が大好きで、誇りに思っているもので。
負けはある。これからもたくさん。
だが、この1つの負けがしょうがなく悔しい。自分の力は出し切れたし、思い残す事もない。単に自分が弱いから負けたのだ。
もっと、強くならなくてはいけない。この、愛するバスケで頂点へと登り詰めるために。
1人の弱虫な少年は、この悔しさを糧に新たな一歩を踏み出した。
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