表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
芸能人、やめました。  作者: 風間いろは
高校2年生

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

84/138

77,前へ

陽斗は1人、暗い道を歩く。もうすっかり日は沈んでいて、街灯だけがついていた。


そして、公園の入口の前に立つ。うっすらとだけしか覚えていないが見覚えのある懐かしい景色。


感慨に浸るも、すぐに気持ちは切り替わる。今からずっと避けてきた道を進む。陽斗は覚悟を決めて、中へと入っていった。


ちょっと進んで、ふと陽斗の足が止まる。


「······父さん」


その声に、ベンチに座っていた男性がこちらへ振り返る。


「瞬······いや、陽斗くんだな」


男性は苦笑いをして、少し気まずそうに笑う。


陽斗は待ち合わせ場所を、よく思い出のある公園へ指定した。さすがに、この時点で"今宮陽斗"が息子だと悟っただろう。


「とりあえず、座りな」


"父"は自分の隣に陽斗を招く。そして、2人の間に沈黙が流れる。思いがけない再会に、どう話を切り出せばいいか分からない。


「バスケ、上手くなったな」


父は咄嗟にそう切り出す。だが、これは本心で、実際に見た時は驚いたのだ。それが息子だとわかって更にびっくりした。バスケを続けているなんて思わなかった。その嬉しい反面、心が鉛のように重かった。


陽斗は「うん」とだけ小さく答えた。


そして、ついに話を切り出す。


「なんで、俺たちを捨てたの?」


陽斗はずっと、これが聞きたかった。優しかった父がなぜ俺たちを日本に置いていったのか、それが知りたかった。


父の肩がピクっと動く。そして、覚悟を決めたように全てを話し出した。


みるみるうちに陽斗の顔が歪んでいく。


「な、なにそれ······!」


話終わらない内に、陽斗が急にベンチから立ち上がる。


何か深い事情があったのだと、そう信じていた。簡単に家族を捨てるような人ではないと。だが、真実は思っていたより拍子抜けなものだった。


「すまん······」


父はただ俯いて謝るだけだった。


陽斗は目の前にいる父が憎くて憎くて仕方がなかった。今まで溜まったものが怒りに変わり、溢れ出そうだ。


しかし、わざわざここに来たのは過去の自分に決着をつけるため。怒鳴って今目の前の人にぶつけても何の解決にもならない。


陽斗は深く深呼吸をする。


「俺は、お前を許さない」


陽斗は震えるように一言吐き出す。これに全ての思いが乗っているかと思うほどの重い声だった。


「本当に、すまなかった」


父は複雑な顔で俯く。自分がしてきたことを思えば妥当な一言。許されるなんて思ってもない。


そして、陽斗も自分の事を話し出した。父がいなくなってからのこと、母が倒れたこと、芸能界をやめて一般人として生活していること、全てだ。


「ごめん、本当にごめん」


父は顔を手で覆ってか細い声を出す。自分のせいでこんなに苦しめたのかと思うと、どうしようもない自責の念にかられる。


「今謝られても、お前のしたことは最低だ」


陽斗は肩をふるわす父を冷めた目で見つめる。今更後悔したって意味が無い。憎み続けた人を許せる気持ちになんてなれない。


しかし目の前で謝り続ける父が、何となく憐れにも思えてきた。今まで恨み、憎んできたのに、心のどこかでは許したいと思う自分もいる。


今の自分は幸せだ。友達にも恵まれ、楽しい毎日をすごしている。苦しかった事も、今はもう既に終わったこと。今はそれにとらわれ続けるのではなく、前に進まなくてはならない、そう思った。


「だけど、もうそれは過去の事だから」


その言葉に、父はばっと顔を上げて陽斗を見つめる。その言葉が予想外だったのだろう。


陽斗はこんなクズ野郎に苦しめられてきたと思うと、段々自分に腹が立ってきた。こんな奴に散々振り回されてきたなんて、今更ながら自分は馬鹿だと思う。


「でも、一生許す事はないしお前を父だとも思わない」


これは陽斗の本心だ。お互い他人として接していきたい。正直、これからはあまり関わりたくなかった。


「······分かった。本当にすまなかった」


陽斗の言葉は冷たかったが、寛大だとも思った。普通なら罵声をあびせられ、殴られてもしょうがない事をした。冷静に気持ちを保つ事なんで出来ないはずだ。それを堪え、前へ進もうとしているのだ。


父は息子の成長をヒシヒシと感じた。


「俺に何か出来ることがあればなんでも言ってくれ」


「うん」


陽斗はそう呟くと、ベンチから立ち出口の方へと足を向ける。


「······今までありがとう。俺を産んでくれて、バスケを教えてくれて、それだけは感謝してる」


陽斗は父に背を向けながら言うと、その場から立ち去る。


父は息子の背中を驚いたように見つめる。そして大きな手で顔をすっぽりと覆うと、手の隙間から一筋の雫がこぼれ出た。


***


「はあ!? 今宮が試合出るってどういう事だ!」


勢いよく席から立ち上がった星野が騒ぎだす。


陽斗がいないまま進んだミーティングで、監督は陽斗を試合に出す前提で明日の作戦を話し出したのだ。それに星野はもちろん納得いくはずがない。


「アイツは今、何の役にも立たねえのになんで!?」


「今宮くんが今日、私の元に今からケジメをつけてくるって言ってきたんだよ」


「そんなの信じれるわけ······」


「私が保証する」


監督はハッキリと言い切った。その言葉に冴木の口が止まる。


今日の夕方、陽斗がとつぜん部屋にやって来たのだ。「けじめをつけてくる」と言った彼の顔に嘘偽りなどなかった。その表情に監督は、もう大丈夫だと悟った。


「······分かりました。でも、足を引っ張るようだったら試合には出さないでもらえますか」


「ああ、もちろん」


星野はなんとか引き下がった。試合に集中していないやつと一緒にプレーしたくないが、陽斗は日本チームで大きな存在となっていた。日本が勝ち進むために出て欲しいという思いはあるのだ。


そうして、日本の明日に向けての試合の最後の準備が終わる。



翌日、ついに日本の世界高校生バスケ大会決勝トーナメントが始まる──────


読んで下さり、ありがとうございます(°▹。 )

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ