76,後押し
ついに世界高校生バスケ大会、決勝トーナメント1日目を迎える。そこに進んだのは、16カ国中、半分の8カ国。
もちろん第1シードはアメリカ。第2シードはイギリス、第3シードが日本となっていた。イギリスと戦うには1勝、アメリカなら2勝して決勝までたどり着く必要がある。
日本チームの試合は明日なので夜のミーティング以外は基本自由行動だ。多くの人達は、今日あるアメリカの試合を見に行っていた。
そんな中、陽斗は1人自室にこもる。すると、突然ドアがドンドンと叩かれる。
「おい、今宮! いるかー?」
剛力の声だった。しかし、陽斗はその場から動かなかった。
その時、ドアの方でピッと音が鳴ったかと思うと、剛力が部屋の中へと入ってきた。
「やっぱいるじゃん。返事しろよなー」
「え、なんで!?」
陽斗は思わず毛布を手に取って被る。そんな陽斗に剛力は自慢げに部屋のカードキーを見せつける。陽斗が絶対に部屋から出てこないと思った剛力は、前もってカウンターから借りてきたのだ。
「冴木から全部聞いた。ロイド・ハレスが父親なんだってな」
剛力は陽斗のいるベッドの目の前にある椅子に座る。その言葉を聞いた陽斗の表情が固まった。
「で、どうすんの?」
「え?」
「え、じゃねえよ。お前はこれからどうしたいの? このまま籠るわけにもいかねえだろ」
陽斗はその言葉に顔を俯かせ、黙った。まだ気持ちが整理出来ていないようだった。
「じゃあ、父親に会いに行くぞ!」
「······は?」
「それがいいと思う! うん」
剛力は1人でウンウンと頷いて、そのままドアの方へ向かおうとする。聞いてきたのに勝手に自己解決している。
「いやいやいや、ちょっと待って!」
陽斗は慌てて剛力の手を掴む。陽斗には剛力のする事が目に見えた。
「なんだよ。本人から直接聞きたいだろ?」
「そ、そうだけど」
「なら、それで決定な。お前が立ち直らないと俺が冴木に殺されんだよ!」
剛力は再びドアへと歩いていく。冴木の事を随分と恐れているようだった。
「待ってってば!」
陽斗の意見など全く聞こうとしない剛力に、陽斗は思はず叫ぶ。アイツと話したいという気持ちはあるが、自分にはまだ心の準備が出来ていない。
「今宮、ずっとウジウジしてもなにも変わんねえよ。そろそろ前を向け。俺が後押ししてやっから!」
剛力はそれだけを言うと、そのままの勢いで部屋を出ていった。
「えー······」
1人取り残された陽斗は、ただ呆然として剛力が出ていったばかりのドアを見つめていた。
***
「今日も来ないね」
ブラッドは寂しそうに呟く。
ブラッドとレオの2人はいつものコートにいた。ここ最近、何故か陽斗の姿がない。連絡をしても通じないのだ。
ちなみに、レオのいるアメリカチームは決勝トーナメントの1回戦を突破した。ブラッドのいるイギリスチームの試合は明日である。
「俺、陽斗に避けられてるんだ」
「え、喧嘩したの?」
「してない。俺もなんでか分からないんだ」
ブラッドはその事がとても信じられなかった。レオと陽斗はとても会話が多い訳じゃないが、心の中で通じ合っている様だった。そんな2人を羨ましく思っていたが、まさかそんなことがあるとは。
「もう1回、陽斗と会って話そう!」
「それが、連絡つかないんだ」
そういえば、ブラッドも陽斗に連絡していたが返事が来ていない。何日か会ってないこともあって、彼の身に何かあったのか不安になる。
「ヘーイ!」
その時、男性がこちらへ向かってくきた。よく見ると、日本チームのメンバーの人だった。
「あ、えーと、アイム ハルトズフレンド!」
レオとブラッドは"陽斗"という名前に反応した。突如現れた男にも関わらず、剛力の話に耳を傾けることにした。
剛力は学校で習った英語を駆使して、なんとか陽斗がハレス・ロイドに会いたいという趣旨を伝える。とにかく、その息子のレオに取り次いでもらおうと思っているのだ。
2人は少し驚いたようだったが、バスケで悩んだ陽斗が話を聞きたたいものだと思ったみたいだ。
レオは「分かった」と言うと、携帯を取り出して電話し出す。父に連絡をとってくれているようだ。
数分後、レオが耳元から電話を下ろす。なんと、20時からなら大丈夫らしい。
「ベリベリセンキュー!」
剛力はレオにペコペコとお辞儀をして去ろうとする。だが、それをレオが止める。何か言いにくそうに口をもごもごとさせながら話している。恐らく、陽斗の事を色々と心配しているのだろう。
陽斗がレオを嫌っている訳では無いという事は何とか伝える。レオは分かってくれたようで、少し安心したようだった。
***
その頃、陽斗は1人ソワソワとして自室にいた。心は整いつつあるが、全く落ち着かない。その時、横にあった携帯の音が鳴り出す。驚いて画面を見ると、剛力からの電話であった。
「······もしもし」
「ロイド・ハレスとの約束取り付けたぞ!」
剛力は嬉々とした声色だ。正直、急なとこであったし厳しいと思っていた。剛力の突発的な行動には拍手を送らなければならない。
「20時だ。絶対に行けよ!」
「······分かった。ありがとう」
陽斗は電話を着ると、大きく深呼吸をする。
ずっと現実から逃げてきた。人に言っといて自分は守らないだなんて、本当に口だけ野郎だ。
だが、もう前へ進もう。クヨクヨしてたって、何も変わらない。
陽斗は勢いよくドアを開け、部屋を出ていった。
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