73,剛力の聞き込み調査
耳を疑うような言葉だった。2度も腹を殴られたような衝撃が襲う。
そう言えば、レオが持っている青のリストバンドはアイツも付けていた。どちらも同じ色の刺繍がついている。
「まあ、そうは言っても······」
「そ、それじゃあ!」
レオが何か言いかける前に、陽斗は逃げるようにその場から走り出す。
「え、おい!」
もう、陽斗はわけが分からない。何も聞きたくないし考えたくなかった。
***
その頃、剛力はキョロキョロとしながら会場を歩いていた。
知多の絵は全く参考にはならないが、とりあえずアメリカのユニフォームを着た男の子を探していた。
既に1時間が経っていた。諦めかけようとしたその時、1人の少年が目に入る。
色白の可愛らしい男の子だった。剛力は勘でこの子だと確信する。
「ハ、ハロー!」
たどたどしい英語で男の子に話し掛ける。不審者と思われないようにぎこちない笑みを浮かべながら。しかし、それが逆に怪しい。
現に男の子は突然声を掛けたきた男を前に顔が固まっていた。
「あ、えーと、ドーユーノーハルト?」
男の子は黙ったまま首を振る。
剛力は困った。どう伝えればいいのか分からない。しかし、絶対にこの子だという確信はある。
「眼鏡······じゃない、グラス、アンド、ロングヘアボーイ!」
身振り手振りで何とか伝えようとする。しかし、男の子は首を傾げたままだ。どうしようかと悩んでいた時だった。
「あの、うちの子に何か?」
横から40代くらいの白人男性が怪訝そうな顔をしてこちらを見る。明らかに不審者と思われている。
「パパ!」
男の子はぱっと顔を輝かせて男性に駆け寄る。父親のようだ。
「あ、すみません······って、日本語?」
外国人なのに随分と流暢な日本語を話す男性に剛力は驚く。おそらく、自分の着ている日本のジャージを見たのだろう。
「日本に住んでいた事があるんだ」
男性は懐かしそうにふっと笑う。顔がとても整っている。若い頃はさぞかしモテただろう。
剛力は酷く顔を歪ませる。そのイケメンな顔と何気ないクールな仕草があの憎い星野に重なって見えたのだ。まあ、星野は女子の前でしかかっこづけないのだが。
というか、どこかで見た事がある顔をしている。剛力は思わずじーと男性の顔を見つめる。そして気付く。小さい時、画面越しでよく見ていた顔であることを。NBAでとてつもない活躍をしていたあの人であることを。
「あ、あの! ロイド・ハレスさんですか!?」
剛力は両親の影響でよくバスケの動画を見ていたので知っている。当時、とてつもない活躍をしていた、超スーパープレイヤーだ。何度彼のプレーを見てきたか。
しかもかなりイケメンだったので女性との噂も絶えなかった。
剛力は憧れの人と会えてかなり興奮している様子だった。先程までの嫌そうな顔もきれいさっぱりなくなっている。
「そうだ。よく知ってたな」
ハレスは少し驚いた様に、しかし嬉しそうにするな顔を見せる。
活躍していたのは10年以上も前。その為、今の若い世代は自分を知らない人が多くなってきているのだ。
「もちろんです! ずっと見てましたから! サインお願いします!」
剛力は白色のリストバンドを取り出す。それに快く応じてくれるハレスの素晴らしい性格にも剛力は感動する。
「ありがとうございます! 家宝にします!」
剛力の厳つい顔は今やゆるゆるになっていた。今まで見たことの無いほどの笑顔を見せる。
「それで、息子に何か用があったのか?」
剛力はハッとする。興奮しすぎて本来の目的を忘れかけるところだった。
「はい、今宮陽斗って知ってますか?」
「今宮、陽斗ね······」
ハレスは懐かしそうに、しかし複雑な表情で言う。陽斗を知っているようだ。
剛力はそんなハレスの様子を特に気を留めることもなく話を続ける。
「昨日、息子さんを肩車してませんでした?」
「ああ、してた。眼鏡に髪長めの子だろ?」
「そうです!」
やはり、自分の直感はあっていた。しかし、陽斗が悩むところが全く分からない。
「その子にお礼を言っていてくれるかな? 昨日、迷子になっていた所を助けてくれたんだ。急に顔色を変えて走って行ってしまったから言いそびれてしまってね」
「急に顔色を変えてたってどういう事ですか!?」
剛力はそれを聞いて思わず勢いよく聞き返す。陽斗が落ち込む理由に何か関係があると思ったのだ。
「それが分からないんだ。顔を合わせてから様子が少しおかしくなったんだよ」
「そうですか、わざわざすみません。ありがとうございます」
剛力は律儀にお礼をしてその場を去る。一応陽斗の行動は知ることが出来た。しかし、顔を見るなり逃げるってどういう事なのか全く分からない。
陽斗もロイド・ハレスだと知って緊張するあまり逃げたのか? しかし、それだと落ち込む要素はない。ハレスと陽斗が何か関係があるとも思えない。
剛力は頭で考えを巡らすも全く解決には至らず。とりあえず情報は得ることが出来たので、ひとまず日本チームが集まる場所へと戻って行った。
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