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芸能人、やめました。  作者: 風間いろは
高校1年生
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7,朝練

「いってきまーす!」


朝六時、陽斗は自転車に乗って家を出る。


まだ街は薄暗いため、ライトを付けていく。


まだ朝だというのに、陽斗は楽しそうに自転車を立ち漕ぎしながら学校へと向かう。


自転車登校最高ー! 青春だぜー!


そう思いながら、陽斗は静かな街の中を全速力で自転車をとばす。


学校の門を通過し、自転車を自転車置き場において、体育館へと向かう。


体育館のドアを開けると、そこに広がるのはまだ薄暗いバスケットコート。



そう────朝練である。



陽斗はここ最近朝練にハマっている。部活体験の時、結局断りきれずにバスケ部へ入ることになった。実際、楽しいから別にいいのだけど。


中学の時、陽斗は芸能活動で忙しかったため、部活動にたまにしか参加出来なかった。陽斗は部活をしたかった。


体育館で、運動場で、汗水ながして、笑顔で楽しそうにしている部活動生は、きらきら輝いていた。陽斗はいつも、それを羨ましそうに見ていた。


陽斗は今、それが出来る。ならば思う存分やろう! という事で、ここ毎日朝練をしている。


陽斗が一人でシュートの練習をしていると、体育館の入り口に人影が現れた。


「おー、今宮、おはよ。今日も早いなー」


市原があくびをしながら体育館へと入る。


「なあなあ、市原君。購買のパン賭けてスリーポイントシュートしない?」


ここで、陽斗は自分で青春っぽいことを仕掛けてみる。物を賭けて勝負だなんて、青春っぽいくない?


「お、いーぜー! 入部したてのお前なんかに負ける気しないぜ! 今宮くんよ、いいんだぜ? ハンデやっても」


市原が調子に乗って陽斗を挑発する。実際、陽斗はブランクがあって、スリーポイントシュートの確率は高くないのだ。それに市原は油断しまくりである。


コノヤロウ、今にみてろよ!


陽斗の闘志が燃える。


ルールはスリーポイントシュートを三回早く決めた方が勝ち。もし二人とも三回連続入れば、ゲームは続き、シュートを早く外した方が負け。


先手は、調子に乗ってる市原。


放ったボールはリングに当たり、外れた。


「あれ? 余裕じゃなかったの?」


陽斗はニヤニヤして市原を見る。


「ま、まだ寝起きなんだよ!!」


市原 拓也は苦し紛れの言い訳をする。


次は陽斗。華麗に決める。


「いえーい!」

「く、くそ! 負けねえ!」


二周目、市原、陽斗、両者決める。


「よっしゃ! リーチ!」

「くっ······」


三週目、ここで市原が外せば、陽斗の勝ち。


「ここで決めなきゃ男じゃねぇー!!」


市原 拓也が放ったシュートはリングに当たって······入った。


「うお! あぶね!」

「くそ、ここで外れれば良かったのに」


何とか免れた市原。しかし、この後、陽斗が決めれば負けである。


「ここで決めてやるー!」


陽斗は綺麗なフォームでシュートを放つ。そして、ボールは美しい弧をえがき、リングに入る。


「やったー! 購買のパン、ゲットー!」


「だあーー! 今月金欠なのにー!! お前、本番に強すぎだろぉ!」


両手を上げて無邪気に喜ぶ晴斗に対し、市原は両手で頭を抱え込み、膝から崩れ落ちた。


青春だー! 俺は、今それを送れている! 部活って、やっぱりきらきらしてるなー!


陽斗は別の意味でも喜ぶのだった。


この後も二人は一対一などをした。


二人は床にどっと崩れ落ちる。かれこれ30分走りっぱなしであった。二人は涼しい季節だというのに、汗だくである。


そんな二人の間に、二つのドリンクとタオルが割り込んだ。二人がそれを持っている腕を辿ってみると、成美が立っていた。


「おはよう! 二人とも朝早くからお疲れ様!」


成美が朝日のような眩しい笑顔をする。


「お、おはよ、林。ありがとう」


「あ、林さん! おはよう! ありがとー、助かるー」


二人はドリンクとタオルを受け取り、グビっと飲み、汗を拭く。


生き返る二人。汗も引いてきた。陽斗は練習を再開しようと腰をあげようとした。


「青羽 瞬」


市原がぼそっと呟く。陽斗はそれにドキッとする。


え、何で今その名前······。もしかして、バレた!?


陽斗は慌てる。


「知ってるよな? 最近芸能界引退したやつ」


「あ、うん、知ってるけど······」


「小学校の時、そいつバスケしてて、俺一回県大会の決勝で戦ったことがあってよ、ボッコボコに倒された。もう、格が違うって思ったんだよ」


それを聞いて、ほっとする陽斗。良かった、バレてるわけじゃない······。


「今宮と戦ってて、なんかそいつ思い出した」


陽斗は市原の言葉に、再びドキッとする。


陽斗は実際、小学校のクラブチームでがっつりバスケをしていた。全国ベスト4になったこともある程の実績である。


バレてないけど、同一人物だからそう思ったのかな? 市原君の感性鋭いな······


陽斗は市原の感性を恐ろしく思うのだった。


「俺、中学校になったら倒そうって思ってたのに、芸能界に行きやがって。と思ったら、引退しやがってよ! 才能無駄遣いし過ぎだろ!」


いや、あの、市原君、本人目の前にいるんですけど。悪口は控えて······?


「あいつ、バスケットやってねえかな。次はぶった切ってやんのに!」


市原は熱く語る。


市原君、残念だけど、君は既にその青羽 瞬に倒されてますけど······。まあ、言わないけど。


「私も小学校の頃、見た事あるよ! すっごい強かったよね。芸能界に行ったって聞いた時は、私もびっくりしたもん」


「え? 林さん、知ってるの?」


「うん、私、小学校からバスケしててね、凄いイケメンで、バスケも上手い子がいるって噂になってたから」


え!? 噂になってたんだ······。知らなかった。


というか、二人の目の前に本人いるのに、全然気づかないなーと逆に悲しくなる陽斗だった。



「そういえば、林さんは今日、何でそんなに早いの?」


俺はずっと気になっていた質問を聞く。


「えっとね、ユニフォームを干しにきたの。放課後に間に合うように」


「へぇー、マネージャーも大変だね」


「ううん、これが仕事だから! 皆頑張ってるし!」


成美は明るく言う。しかしよく見ると、成美の手は少し荒れている。バスケ部のドリンクやらユニフォームやらで毎日冷水に晒されているからだろうか。


陽斗は成美の手を優しく取る。


「え、な、今宮君······?」


陽斗の突然の行動に、成美が顔を少し赤らめる。


「林さんの手、少し荒れてるね」


「え? うん、ハンドクリームきれちゃって······」


「なら、俺のあげる」


陽斗はリュックから未使用のハンドクリームを取り出し、成美に渡す。


「これ貰いもので、俺使わないから、林さんが使って」


「いや、いいよ······って、これ高いのだよ! 使えない!」


成美は頭をブンブンと振り、陽斗に返そうとする。


「受け取って。俺、部活でもクラスでも林さんにお世話になっているし」


「で、でも······」


「女の子の手が荒れているの、俺、嫌だから。林さんの手はずっと綺麗なままであって欲しい」


陽斗は真っ直ぐ成美を見る。


「分かった。あ、ありがとう。じゃ、じゃあ、私、ユニフォーム洗ってくる!」


成美は顔を赤らめて、その場から立ち去る。


陽斗は成美が受け取ってくれて安心する。それに、あのハンドクリームは芸能人の友人に貰ったもので、使い道が分からずリュックに入れていたものだ。役に立ってよかった。


「じゃあ、市原君、続きし······」


陽斗は練習を再開しようとし、市原を振り返ると、そこには顔を俯かせて、肩を震わす市原の姿があった。よく見ると、体育館の入り口付近にバスケ部員も何人か、肩を震わせて立っている。


「な、なに? 皆、どうしたの?」


陽斗は何が何だか分からず、恐る恐る聞く。


「な、何って? お前がじゃーー!!!!」

「コノヤロウ! 成美ちゃんを口説きやがって!」

「今宮! それがお前の本性か!?」


皆が陽斗に寄ってたかり怒る。


「え、な、違うよ! 誤解だって!」


「「「何が誤解だ!」」」


そうして、陽斗は、キャプテンが来るまで、部員達に軽くボコられるのだった。

読んで下さり、ありがとうございます!


今回は結構長くなってしまいましたが。


感想いただけたら嬉しいです(●︎´▽︎`●︎)

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