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芸能人、やめました。  作者: 風間いろは
高校2年生
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72,追い討ち

陽斗は目の前の男性を前に、思考が止まっていた。


昔より老いているが、その顔、姿ははっきりと面影があるだ。見間違えなどでは決してない。


目を見開いたまま、黙って"父"を見ていた。


「どうしました?」


そんな陽斗を不思議そうな顔で見る。その声でハッと現実に戻された。


「い、いえ······、何でもないです」


それだけを言うと、2人を残してその場から駆け出す。陽斗の頭は、依然として混乱していた。



その日、陽斗はブラッドとレオがいる、いつものコートに行かず、ホテルの部屋へと戻る。


まさか、ここで父と会うとは思わなかった。今までいないものとして、その存在を頭から消していた。そんな人が急に目の前に現れた。動揺せずにはいられない。


だが、アイツは俺の事を気付いていないだろう。身長も伸びて見た目も変わっているし、何よりも自分の変装を見破れるわけがない。それに、あの反応は分かっていなかったようだった。


時間が経った今、混乱は怒りへと変わっていた。段々と状況を飲み込み、冷静になって思ったのは父への憎しみだ。


母と俺を捨てた男。そのせいで母は倒れた。どれだけ俺達が苦労してきたか。


さっき、マシューという少年は"パパ"と呼んでいた。アイツには新しい家族がいる。俺達を散々苦しめて1人だけ幸せに暮らしている。


その事に言いようもない怒りが頭を支配する。今まで頭の奥に閉まっていた感情が一気に噴出していた。


明日の試合に向けてのミーティングは、陽斗は全く集中出来ないでいた。


「おい、緊張してんのか?」


いつもと様子が違う陽斗に剛力がからかい気味に言う。珍しく緊張していると思ったのだ。普段なら次の試合の事を真剣に考え、楽しそうにしている。それなのに今日は顔が強張り、うわの空だった。


「······今は1人にして」


陽斗は肩に乗せてきた剛力の手を払いのけ、それだけをぶっきらぼうに言い残して部屋から出ていった。


「え、アイツどうしたんだ?」


呆然と立ち尽くす皆。


いつもの明るさが全くなく、まるで別人のようだった。あんな彼は初めてみた。


今日の試合も活躍したし、あそこまで落ち込む要素はないはずなのだ。


だが、明日にはいつものように戻っているだろうと、皆はそこまで深く考えはしなかった。



しかし、その考えは外れた。


次の日、陽斗には明るさがなかった。試合でも陽斗はいつもの調子ではない。全く集中出来ていなかった。監督も流石にマズいと思ったのか、第1クォータで陽斗をベンチに下げる。


「······すみません」


陽斗は小さく皆に謝ると、頭にタオルを被ってベンチに座る。



試合後、陽斗は1人でふらっとどこかへ行ってしまった。


日本はなんとかギリギリで勝利を収めた。


「おい、あいつマジで何があったんだよ」


日本の高校生達は集まって話し合いをしていた。不思議なほど陽斗の様子がおかしく、皆は気になっているのだ。


「何してんだよ······!」


星野は拳を壁に叩きつける。

今回の大会はとても大事だ。世界という舞台に、陽斗は集中していない。ライバルだと思っているだけに許せなかった。


「昨日の試合後に何かあったのかな」


守田はラムネを口に頬張りながら言う。


昨日の試合までは普通だったが、ホテルに帰ってきてから様子がおかしかった。それまでの間に何かが起こったに違いない。


「そーいえば試合の後、男の子ば肩車しとったよ」


知多が思い出したように呟く。


「まじ!? どんな子!?」


「5歳くらいで白人やったよ。アメリカのユニフォーム着とったけん関係者の子供なんかな?」


知多はその男の子の絵を紙に描く。特徴は掴んでいるが、なんとも斬新な絵が出来上がった。


「それだ! とりあえずその男の子を探そう!」


皆はその少年が関与していると思い、会場を探し回る。


***


その頃、陽斗は1人、観客席に座っていた。コートをぼーと見つめる。


バスケのことを考えると、思い出したくもないアイツの顔が頭に浮かぶ。考えたくもないのに。アイツへの嫌悪感が、バスケへと繋がる。そのせいで今日は全く試合に集中出来なかった。


頭では切り替えないといけないと分かっている。だが、心は簡単にそう出来ない。


自分のバスケの原点は父なのだから。


バスケの魅力も楽しさも父から教えてもらった。憧れて、あんな風になりたいという一心で取り組んできたバスケ。


もう、乗り切ったと思っていたけどそれは違った。ただ、その苦い記憶を無いことにしていただけだった。


「······陽斗?」


後ろから声を掛けられ、はっと現実に戻される。


振り返ると、そこにはレオがいた。レオは陽斗の隣に座る。


「今日、どうしたんだ? いつものプレーじゃなかったよな」


レオは今日の日本の試合を見ていたらしい。陽斗を心配して声をかけてくれたようだ。


「あ、あのさ、ロイド・ハレスってどんな人?」


ロイド・ハレスとは父の名前だ。何となく気になって聞いてみた。アメリカのユニフォームを着ていたから関係者だろう。


「凄い人だ。陽斗も知ってるだろ? 前にNBAで大活躍してた人だ」


「うん、知ってる、凄く」


「俺は全てを含めて尊敬している。今のチームの監督だからとてもお世話になっている」


レオの目は、彼を慕い憧れているようだった。陽斗はなんとも複雑な気持ちになる。


「俺の()でもあるし」


レオは手首にはめている青のリストバンドを握りながら、そう言う。


陽斗は一瞬何を言っているのか分からなくなった。それは、信じられない言葉だった。


「え、レオの、父なの······?」


陽斗は途切れ途切れに声を絞り出すのがやっとだった。


「そうだ」


レオは陽斗の目を真っ直ぐ見つめながらそう言った。


読んで下さり、ありがとうございます꧁˙꒳˙꧂

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