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芸能人、やめました。  作者: 風間いろは
高校2年生
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番外編 日本では

陽斗がアメリカで頑張っている中、日本に残る人々の夏の生活の一部です!

「おい高柳、起きろ!」


「······フガッ!」


5組担任の葉山修が高柳の頭を教科書で叩く。気持ちよさそうにうつ伏せになっていた高柳は驚いて飛び上がる。


「酷いっすよ。いい夢見てたのに······」


今、高柳は夏期補習の真っ最中。テストの点数が悪い人達を学校に呼んで先生達とお勉強するのだ。個々の苦手分野を克服する為である。


1週間限定で午前中だけである。


生徒はとても嫌そうだが、先生も嫌なのである。学校で決められていることなのでしょうがない。


「どんな夢だったんだ?」


「モテまくる夢!」


高柳はその夢を思い出したのか、鼻を伸ばしてニヤニヤする。相当いい夢だったのだろう。


「宿題追加な」


「え!? そんなのあんまりですよ!」


高柳は葉山の残酷な宣告に机の上でげんなりする。

ただでさえ補習のせいで部活が出来ないというのに。それに夏の宿題もまだ全然終わっていない。


涙目で机に向かうこととなった。


***


成宮高校バスケ部は狼北高校にいた。なんと、他の強豪校を交えての練習試合に呼んでもらったのである。


ウィンターカップやインターハイの成績が評価されたのだ。非常に有難いお話だ。


だが、成宮高校にはエースの今宮は不在。他の強豪校もまたそう。


「今宮がいなくても俺達はやる!」


成宮高校バスケ部の新キャプテン、市原はとても気合いが入っていた。エースがいない中キャプテンがチームを引っ張らないといけないと、強く思っていた。


しかし、その気持ちとは裏腹にミスが多くファールも出してしまう。


市原は焦っていた。"キャプテン"なのに足を引っ張っているという現実に。


試合後、市原は非常に落ち込んでいた。結局自分のせいで負けたのだ。


"キャプテン"として情けないと悔やんでいた。


その時、首元に冷たい何かが当てられる。


「ぬわっ! 冷たっ!」


市原は驚いて立ち上がる。後ろをむくと、そこにはにこやかに笑う西島の姿があった。


「急に何すんだよ」


「まあ、慰めに?」


西島はそう言うと、市原の隣に静かに座る。自分を責めることなく黙っている。


「俺、キャプテンなのにダメだよな」


「そうだね」


「おい! そこは否定してくれよ!」


「どうせ、キャプテンだからって1人で抱えてるんでしょ?」


西島はじっと市原を見る。市原の事を全て見透かしているような目だ。


「なんで1人でやろうとするのさ。俺達がいるじゃん」


西島は全てを受け止めてくれるかのような、そんな柔らかな笑顔で高柳を見つめる。その笑顔は、市原がひとりでに抱えていた枷を溶かしてくれる程だった。


市原は、焦って周りが見えていないことに今更ながら気づく。


「俺は、市原を頼りにしてるから」


西島はそう言うと、その場から去っていく。


先程まで澱んでいた気持ちは、不思議なほど全くなかった。

弱い自分を受止め前へ進もう。


市原は数十分前とは全く違う顔つきでベンチから立ち上がった。


***


成美はぼーとしてバスケコートの外に立っていた。

今、部活のゲームの真っ最中なのだ。


そのため、部員が弾いたボールがこちらに向かってきていることに気付くのが遅れた。


成美は慌てて手でガードをする。頭に当たることは危うく免れた。


「す、すみません! 大丈夫ですか!?」


ボールを弾いた1年の子が慌てて駆け寄る。


「成美ちゃんが怪我した!」

「きゅ、救急車を呼べ!」


体育館内は騒然とする。

皆が慌てふためき、成美の安否を気にする。


そんな中でも1人だけ冷静な人がいた。


「ボールが当たって赤くなってる。氷のうを持って来て」

「はい!」


西島の冷静な指示に皆が従い、落ち着きを取り戻していった。


「ごめんなさい、ちょっと考え事をしていて······」


成美は迷惑を掛けたことに申し訳なさそうに言う。反射神経はいいのでいつもなら避けられるのだ。


「考え事······? ま、まさか今宮の事か!?」


その部員の言葉に成美は受け答えができなかった。だって、実際そうなのだから。イエスと言えば部活中に何考えてんだと思われるし、ノーと言えば皆に嘘つく事になるから嫌だ。


「今宮め! 成美ちゃんをこんな風にしやがって!」

「帰ってきたら潰す!」


部員たちは成実を奪った陽斗に激しく嫉妬した。


実は皆は、陽斗が成美に告った事を知っている。

海で陽斗と成美の様子がおかしかったので、高柳はそれを察して今宮が成美に告白したと皆に言いふらしていた。


お陰で2人が知らない間に学校中にあっという間に広まっていたのだ。


今宮が帰ってきた後、高柳は陽斗に怒られ高級ケーキを奢らされることとなった。



そしてその日は成美は、早めに帰宅させられた。大した怪我ではないのに。


成美は携帯にふと目を移す。

陽斗がアメリカに行ってからというもの、連絡は毎日取っていた。だが、この日はまだ返信が来ていない。向こうで忙しいんだろうと、携帯をバックにしまった時だった。


「あの! 林成美さんだよね?」


後ろから声を掛けられる。成美は後ろを振り返る。


そこには、茶髪でセミロングの長さの可愛らしい女性がいた。

よく見ると、前に陽斗に屋上で告白していた人だ。確か下の名前は、"花奈"だったはずだ。


話したことは無いので何事かと、成美は花奈が話すまで待っていた。


「今宮くんがあなたに告白したって本当!?」


花奈は慌てたように成美に迫る。恐らく高柳が言いふらした噂を聞いたのだろう。


「え、えっと······」


成美は花奈の顔が見れず気まずそうに目を泳がせる。


「それでも、私はまだ諦めないから!」


花奈はそう言い捨てると、走ってその場から去る。


成美の反応を見て花奈は、陽斗と成美がお互い好きである事を確信した。前から2人が仲良しだったがそれは友達関係だと思っていた。それが恋仲に近い関係にあると知り、耐えられなくなって思わず逃げ出したのだ。


成美は花奈の後ろ姿を複雑な表情で見つめる。泣いていたのを見てしまったのだ。

そんなに好きなのかと、成美はなんとも言えない感情になる。


成美はふと陽斗の顔を思い浮かべる。


インターハイで陽斗が眼鏡を取った時、長い髪でよく見えなかったがそれはあの人に、ずっと応援していたあの人にそっくりだった。


あの彼がこんなところにいるはずがない。だが、今思えばいくつか当てはまる点があるのだ。


「あなたは誰なの······?」


成美は遠くにいる今宮に、そう問いかけるのだった。


***


「よし、日本はこれで2勝だな!」


パソコンに嬉しそうな笑みを浮かべる男性。去年のウィンターカップで陽斗に声を掛けた、JBA関係者の橋本だ。


まさか日本が2連勝するとは思わなかった。今まではかなり苦い思い出をしてきたのだ。


やはり、彼のお陰だろうか。彼が加わって機動力が更に上がった。ウィンターカップで見た時よりかなり成長している。


受験して大学に入るといっていたが本当なのだろうか。将来は日本を支えていって欲しいのだがな。


「おとうさーん! 私のパーカー知らない?」


リビングでパソコンを見ていた三浦に長女が声を掛ける。身長は自分に似て随分と高い。


()()はサイズデカいから、お母さんが間違って俺の部屋に置いてるんじゃないか?」


「あ、そうかも」


娘はすぐさま走って階段を上っていく。


橋本は再びパソコンに目を移した。


読んで下さりありがとうございます٩(๑´3`๑)۶

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