71,父
長めです!
無事、第1回戦に白星を付けた日本。
試合が終わり、陽斗とブラッドはアメリカの試合を見ていた。
メイン会場へ向かっていた時、たまたまブラッドと出会ったのだ。彼もアメリカの試合を見るということで、一緒に観戦しているのだ。
イギリスも勝ったようだ。
それに、ブラッドは気持ちを立て直してかなり活躍したらしかった。
陽斗はコート駆け巡るレオの姿を見つめる。
「レオさん、凄いですね! あ、またシュート決まった!」
レオがスリーポイントシュートを決める。彼はなんでもこなせる。ボール運びも、シュートも、ディフェンスまで出来る。頭もキレるらしい。
バスケをする為に産まれてきた、そんな存在だ。
「やっぱり、アメリカって凄いよね」
陽斗は試合を見つめながら呟く。試合はもう終盤。かなり差がついていた。
アメリカというか、他の国の出場選手は殆どが2メートル越えだ。しかし、でかいからといって動きが遅いなんてことは全くない。
やはり、世界は広い。
「あ、終わりましたね」
アメリカも無事に勝つ。
「そうだ、今から少しだけバスケしません?」
ブラッドがボール片手に陽斗にそう提案してくる。
今の時刻は16時。ミーティングは19時からだ。ここからホテルは近いし、時間に余裕がある。帰ってから特にやる事も無い。陽斗は快く承諾した。
ストリートコートで2人の少年が楽しくバスケをしていた。そこに1人の男性が近付く。
「あ、レオじゃん! お疲れ!」
アメリカのジャージを着たレオだった。
「ここにいると思った」
彼は2人がいると思ってやってきたらしい。
恐ろしい。レオはエスパーなのだろうか。
「2人ともかなり活躍したんだってな。噂になってたぞ」
シュートを決めながらそう言うレオ。綺麗なフォームだ。
「レオの方こそ。得点王になれるんじゃない?」
「いや、得点王になるのは僕です!」
レオに負けじとシュートし始めるブラッド。
「なら、今から勝負しない? 先にシュートを外した方が負け」
「いいですよ! 負けません!」
「なら俺もやる!」
気が弱そうに見えて以外にも負けず嫌いなブラッド。だが、バスケになると何故か強気になれるらしい。
こうして、3人は試合後も火花を散らし合うのであった。
次の日の2回戦目、日本は接戦を強いられる。
相手は殆ど2メートル越え。高さでは劣っている。
しかし、必死に食らいつく日本チーム。
陽斗がボールを持つ。
だが、どこにもパスが出来ない。
味方がボールを貰おうにも、敵にブロックされるのだ。
陽斗は目の前に立つ敵の前で細かいドリブルをつく。相手の視線がボールに集中したところで、敵の股にボールを通して一気に抜かす。
相手は全く動けない。まるで消えたように錯覚するほど速かった。
そのままの勢いでゴールへ向かい、豪快にダンクする。
そんな映えるプレーに観客が沸く。
日本は今まで苦しめられていた。敵は守りが硬く、点を入れるのが難しかった。
しかし、陽斗がそこを突破した。日本チームの士気が上がる。
陽斗は今までドリブルに力を入れて練習していた。突破力が足りないと思っていたのだ。
ドリブルが上手ければ相手を抜けれるし、ボール運びだってできる。
陽斗は体とボールが一体化したようなドリブルをめざしていた。
毎日のように部活終わりも剛力と白石と一緒に1on1をし続け、次第に生きたハンドリングが身についていったのだ。
日々の努力が、今ここで発揮する事が出来ていた。
そうして、日本は接戦を制した。
これで2勝。決勝トーナメントはほぼ確だ。
「今宮のドリブルってほんと凄かね!」
試合が終わって野生児代表、知多が目を輝かせてやって来る。
「まあ、今回かりは助けられた」
「だね、今回は」
「何でそんなに今回って強調するの!」
星野と日向牙は自分たちが足を引っ張ってしまった事を悔しがっていた。そんな中、陽斗が自分達を立て直してくれた。それを事実とはいえ認めたくないのだ。それが陽斗となれば特に。
「よく耐えたな。だが、個々でしっかりと反省するようにな」
監督は良くやったと、選手たちを労う。接戦を勝利できた事はかなりでかいのだ。
正直なところ、負ける確率が高いと思っていた。元々格上の国でもあるし。
今までの日本チームは何か足りないと思っていた。それを陽斗が埋めてくれた。
勝ちへの欲求が強い。また、強い相手と対峙しても怖気つかないどころか立ち向かっていくのだ。
怪我もなく、このまま順調に育って行ってほしい。
監督は暖かい眼差しで陽斗を見るのだった。
「日本も勝ちましたね」
「ああ」
ブラッドとレオはメイン会場の観客席に座っていた。
「あんな選手が日本にいるとはな」
「監督達も陽斗くんを注目してました」
今、陽斗は海外で少し目立っていた。
以前NBAで活躍したが怪我の影響で若くして引退した、怪物と言われていた人の影を彷彿とさせるのだ。
「なんで陽斗の方が? それは俺のはずだ······!」
レオは青色のリストバンドを握りながら、ブラッドに聞こえないようにそう呟いた。
陽斗はルンルンでトイレを済ます。先程の試合で自分の成長を感じ嬉しく思っているのだ。
廊下へ出ると、小さな男の子が視界に入る。辺りを不安そうな顔で見回している。泣き目なところを見ると、迷子なのだろうか。
「僕、どうしたの?」
陽斗は優しく男の子に話し掛ける。こんな状況を見過ごすのは無理だ。
「パパとはぐれちゃった······」
男の子は泣きそうになりながら話す。
「なら、お兄ちゃんと一緒に探そう? お父さんもとても心配してると思うよ」
「うん······」
陽斗は男の子の前に後ろ向きにしゃがむ。
「僕の肩に乗ってくれる?」
「······分かった」
陽斗は男の子を肩車する。こっちの方がこの子のお父さんを見つけやすいと思ったのだ。
「名前なんって言うの?」
「······マシュー」
「いい名前だね! マシュー、お父さんを上から探そう! よく見えるでしょ?」
「うん、ありがとう、お兄ちゃん!」
2人は話しながら会場を歩き回る。マシューも次第に明るくなってきた。
「あっ! パパ!」
マシューが指さす先にはジャージを着た身長が高い男性。手首には青色のリストバンドをはめている。後ろを向いているため顔はよくわからない。
陽斗はマシューを地面におろす。
マシューは小さな足で走って1人の男性の元へと向かう。
「パパー!」
マシューは男性の足をガシッと掴む。
「あ、マシュー! 良かった、見つかって······」
マシューの父らしき人は大事そうに息子を抱く。
陽斗はそれを暖かい眼差しで見つめる。
「あのお兄ちゃんが助けてくれたんだ!」
マシューが陽斗を指差す。
男性がゆっくりとこちらに顔を向ける。
その顔を見た瞬間、陽斗の思考が止まる。
「·········お、お父さん」
その男性の顔は懐かしい、そして大っ嫌いなあの人にそっくりだった。
読んで下さり、ありがとうございます(d・ิω・ิd)
2019,6月「14話 陽斗の過去」と「番外編 白石廉」の内容を付け加えましたので、お暇があれば是非お立ち寄りくださいませ。
14→番外編の順をおすすめします!




