70,世界大会開幕!
「先程はありがとうございました!」
ブラッドが陽斗とレオの2人に頭を下げる。
1人で自主練習していた所、奴らがやってきたらしい。他のコートは埋まっていたので、1人で練習する気弱そうなブラッドに声をかけたのだろう。
最初は威勢が良かったものの、気づけばしっぽを巻いて逃げ出していた。なんとも拍子抜けな奴らだ。
「だが、お前らも代表メンバーだったとはな」
「こんな偶然もあるんだね!」
こんな形で、こんな風にお互いが出会うとは誰も思わなかった。
話を聞けば、レオは陽斗と同じ歳でブラッドは1つ下らしい。
この2人の実力を肌に感じ、改めて世界は広いことを知った陽斗。
こんなやつがゴロゴロいるのかと思うと気持ちが高ぶる。
世界大会に参加出来ることに心から感謝する。
これからどんな戦いが待っているのだろうか。
楽しみでならない。
「じゃあ、俺行くな」
気づけば、結構時間が過ぎていた。
色んな他国の話は興味深くて、時間を忘れて楽しんでいたらしい。
「あ、せっかくだから連絡交換しとこう」
3人は敵同士ながらも、すっかり打ち解けていた。
「じゃあ、明後日会いましょう!」
「ああ」
「じゃあね!」
3人はそれぞれ帰路につく。
次は友達ではなく敵同士として会うだろう。お互いが闘志を燃やしながら、その場を離れていった。
この後、陽斗を探していた日本チームと合流できた。
この話をすれば皆から僻まれた。
「そんな面白そうな事をしていたのか!」
「1人で抜けがけなんてずるいぞ!」
血の気が多い日本代表である。
そうして、遂に試合当日。
下見できた時より凄い盛り上がりようだ。
人が多いし、バスケ関係者も見に来るらしい。
今回の出場国は16ヶ国。
いずれもそれぞれの国の名だたるエース達ばかり。身長は2メートル越えなどざらにいる。
陽斗は試合が楽しみでならない。こんな強い人達と戦えるのは最高としかいえない。
「おい、何にやにやしてんだよ。気持ちわりぃ」
無意識にニヤニヤしていた所を剛力に指摘される。
心の気持ちが顔に出てしまっていたようだ。
陽斗は急いで顔を元に戻す。
「あれ、ブラッドじゃん!」
下を向いて壁に寄りかかっているブラッドに気付く陽斗。
「あ、陽斗さん。こんにちは」
顔を上げたブラッドの顔はとても青白かった。
「え、ちょっと、どうしたの!? 大丈夫?」
「試合、緊張して胃が飛び出てきそうです······」
試合の事を考えてプレッシャーを感じてしまったようだ。
ブラッドは口を手で抑える。今にも吐きそうだ。
陽斗がどうしようかと迷っている時、親切にも横からビニール袋がスっと差し出される。
「あ、ありがとうございます······って、レオじゃん!」
その優しい人は、まさかのレオだった。
今日も青色のリストバンドをはめている。丁重に扱っているところを見ると、大切な人から貰ったものなのだろうか。
「······ったく」
涙目になりながら袋に吐き出すブラッドを呆れたように見るレオ。
「度々本当にすみません!」
ブラッドはまたまた迷惑を掛けてしまったことを詫びる。
先程吐いて、多少スッキリしたようだった。
「ブラッドは強いんだからもっと自信持てよ」
レオはブラッドの頭に手をポンポンと載せる。
「あ、ありがとうございます!」
3人はあの一件以来すっかり仲良しだ。3人を繋げるきっかけとなったバスケは偉大だ。
「絶対勝ち残ろう! それで戦おう!」
今大会は4つのグループに別れて総当たり戦。その中で上位2カ国が決勝トーナメントにいけるのだ。
アメリカも日本もイギリスもそれぞれ違うグループ。当たるには決勝トーナメントまで勝ち進むしかないのだ。
「途中で負けたらご馳走しろよ」
「いいよ、乗った!」
「絶対に負けません!」
3人は各々誓ってこの場から去っていった。
「今宮! アメリカのエースと知り合いだったのか!?」
「アイツ、イギリスのNO.1シューターって言われてるやつじゃね!?」
「というか、お前英語流暢すぎるだろ!」
日本チームに詰め寄られる陽斗。
どうやら、レオとブラッドはかなり有名人だった。
話は聞いていたが、まさかそれがあの2人だったとは。
英語が滑らかなのは、小さい頃、家の中では英語を使っていたからだ。今はもちろんないのだが。
生きた英語を習得できたのは感謝する。
時間は午後を回った。
眩しいほどの光で照らされ、多くの観客に囲まれているコート。そこに日本代表メンバーが入っていく。
遂に日本の第1回戦が始まろうとしていた。
今頃、日本でテレビをつけている人もいるのではないだろうか。
今日の日本の試合はメイン会場に隣接されているサブ会場で行われる。メイン会場よりは狭いものの、規模はさほど変わらない。
陽斗はコートの中央に立って目を瞑り、息を大きく吸う。
新しい舞台、新しい景色、何もかも新鮮だ。
芸能人をやめて、今自分がこんな所にいるのが正直まだ信じられない。
苦しく、悩んだ日々。自分がしたい事を抑えてピエロになり続ける毎日。
それが今は熱中出来るものがあるという事がどれほど幸せか。
陽斗はそれを今、ここでかみ締めていた。
「イエローモンキーだなんて楽勝だろ」
「スモールモンキーに俺らが負けるわけがない!」
「勝ち星は決まりだな!」
英語で日本を馬鹿にする声が聞こえてきた。
今から戦う敵チームだ。
「くそ、アイツら俺を舐めやがって!」
「今に見てろよ······!」
日本チームもそれに気づいて殺気立つ。
しかし、よく見るとそのうちの3人が非常に見覚えのある顔だ。
ブラッドをいじめていたヤツらだ。
陽斗は相手サイドへと歩み寄る。
「何だ、お前······ッハ!」
突然こちらに向かってくる日本人に不信感を持つ。しかし、3人はあの時ボコボコにしてきた奴だと気づいて顔を強ばらせる。
日本代表チームの1人だったのかと驚いている。
「今日の試合も楽しみですね。あはは」
顔は笑っているが、とてもそうは見えない。どす黒いオーラが感じ取れる。
3人の顔が青ざめたところで合図がかかる。
陽斗はニコニコとしながら整列し、敵の3人は顔を強ばらせていた。
「今宮って何気に強気やね······」
「そうかな?」
「自覚ないんかよ。恐ろしいヤツめ」
知多は陽斗をこれから怒らせないようにしようと誓ったのだった。
そして、日本は無事に初戦に勝ち星を付けたのだった。
読んで下さり、ありがとうございます⁽˙³˙⁾




