69,レオとブラッド
ジェットコースターのような浮遊感が続く。
それを楽しむ者もいれば怖がる人もいるもので。
陽斗の隣にいる知多は激しく怯えている。
「······ラムネいります?」
「お、おお、サンキュ······」
珍しく守田が知多に気を使う。
それほどまでに知多は弱っていた。
今、世界高校バスケ大会の開催国であるアメリカに向かっていた。
天気は良くなく、雨風が酷い。
まるで悪いことの前触れかのような、そんな天気だった。
目の前に広がる銀色に光る巨大な建物。今回の大会の会場だ。
何でもNBAの選手が試合することもあるらしい。
日本代表メンバーのテンションは爆上がりだ。
今日は試合ではなく下見だ。合間を縫って来たのだ。
本当の試合は明後日からだ。
周りを歩いていると、ストリートコートが目に入ってきた。
陽斗は思わず近くに近寄る。
広々としたコートに多くの人達がバスケをしている。
日本では中々見られない光景に、陽斗は高揚する。
ここに来てようやく海外に来たのだと実感する。
すると横から大きな声が聞こえてきた。思わず陽斗はビクッとする。
そちらへ顔を向けると、3人の背の高い男が1人に罵声を浴びせていた。反抗して言い返すも、男達はバカにしたように笑って突き飛ばす。
少年は突き飛ばされ、派手に尻もちをする。
それを見た陽斗の中で何かが弾けた。
「ちょっと!」
「おい」
思わず男達に向かって叫び声を上げた陽斗だが、隣からも同時に声が発せられる。
全く同じタイミングだった。2人は驚いて顔を見つめ合う。
その少年は白人だった。身長は高く、恐らく陽斗と歳は変わらないだろう。
手首に青色の名前入りのリストバンドが印象的だ。
「おい! 何だ、お前ら!?」
男達がこちらを睨んでくる。
「それはこっちのセリフだ! 1人相手に何してだよ!」
陽斗と少年はコートの中へと入る。
「コートを譲ってもらってるだけだ! それが何だよ!」
「どうみても無理やりにしか見えないんだけど?」
少年は氷のような目で男達を見る。そのプレッシャーに男達も、座り込む少年も、そして陽斗までもが圧倒される。
「じゃあ、俺たちに勝てたら譲ってやるよ! それでいいだろ?」
男達は少し怖気ながらも強がった態度を取る。
「分かった」
少年は1歩前に出る。
「俺もやるよ! 相手は3人でしょ?」
少年1人ではさせられない。3対1なんてあんまりだ。
「お前、バスケ上手いの?」
「見た目よりは!」
「足引っ張ったらすぐ外すから」
「分かった!」
2人は揃ってコートへ入ってく。
この男達を倒さないと、腹の虫が治まらない。
「ぼ、僕も!」
コートに座り込んでいた少年が自分も参戦したいと言ってきた。
幼めの顔をしているから年下だろうか。
彼は自分が招いたことなのだから2人に任せるのは悪いという。
「足引っ張んなよ」
「はい!」
これで人数は揃った。
「名前なんって言うの?」
「レオ」
「ブラッドだよ」
クールな少年がレオで、幼めの少年がブラッドだ。
「きみは?」
「俺は陽斗。よろしく!」
3人は軽く握手をする。そして、男達の前に行く。
「お前達から来いよ」
男たちは舐めきった態度で陽斗達を見る。
陽斗たちはさっき出会ったばかりの即席チーム。お互いの実力も何も知らない。
試合にならないと思っているのだろう。
ブラッドの為にも、こいつらをボコボコに倒したいと陽斗は強く思った。
レオがボールを持つ。そしてすぐに突っ込む。
そして簡単に男達を抜くと、シュートを決める。あっという間の出来事だった。
陽斗は驚いた。それは、今まで見てきたドリブルよりもうまかったからだ。
レオが只者ではないとハッキリ分かるほどのプレーだった。試合前のプレッシャーで強そうだと思っていたが、これ程とは。
「レオって何者!?」
陽斗は目を輝かせながら詰め寄る。
「······高校のアメリカ代表」
「やっぱり!」
陽斗と同じくらいでこれほど強いのなら、今回の大会の選手じゃないか察していた。
そんなレオと本気の闘いをしてみたいと思った。とても面白くなりそうだ。
「次は俺ね!」
レオばっかりいい格好させられない。
陽斗も突っ込む。ターンをして相手を1人抜く。そして、ジャンプする。
目の前にいる敵。
陽斗はそれを空中で交わし、ボールをリングへと放る。それは危なげながらも入った。
「2本目!」
陽斗はドヤ顔でレオ達の元へ戻る。
唖然とする敵。
「陽斗って何者!?」
2人は予想外にもしない陽斗の実力に驚いていた。
「日本代表メンバー! 高校のね!」
既に陽斗たちは2本を決めた。敵は口ほどにもないようだ。
「じゃあ、僕も行きます!」
ブラッドが前へ出る。敵も釣られて動く。
しかし、それはフェイント。
ブラッドは後ろへ素早く戻ってシュートする。
ボールは綺麗な弧をえがいてリングへと入る。
「おおおおー! ブラッド!」
陽斗は思わずハイテンションでブラッドの元へ駆け寄る。
レオも驚いた様子でくる。
ブラッドのシュートは本当に美しかったのだ。
「ブラッドってバスケ上手いね!」
「一応、イギリス代表なんだ······」
照れくさそうに笑うブラッド。
まさか、レオもブラッドもそれぞれの代表選手だったなんて。
──────それなら、負けられない!
3人は争うようにしてボールを持てば攻める。
お互い母国代表だ。他の国の、しかも同年代に負ける訳には行かない。プライドが許さないのだ。
このゲームを仕掛けた側の男達はもはや蚊帳の外。
文字通り、ボッコボコにされたのだった。
読んで下さり、ありがとうございます(ノ-_-)ノ




