68,日本代表メンバー
インターハイ勢がわんさか出てきます
すごい速さで通り過ぎていく景色。陽斗は頬杖をついてそれを眺めていた。
「ふあ~」
陽斗の目の前に座っていた剛力が豪快に欠伸をする。
「着いた?」
「あと少しだよ」
2人は新幹線に乗って東京へと向かっていた。
高校世界大会は間近に迫っている。それに備えて選抜メンバー皆で集まって練習するのだ。
陽斗と剛力はスムーズに体育館に着く。既に何回か練習は行われていた。
「よー! 今宮にうるさいの」
大きめの荷物をおろし、腰を下ろした2人に手を振りながら向かってくる星野。
「おい、テメー、俺の名前は剛力だっつってんだろ!」
星野からの呼び名に不満があったのか、剛力は非常に不機嫌な顔になる。
「あー、第一声からうっせーな。小物は失せろ」
「小物だと!? 舐めやがって!」
2人はお互いにいがみ合う。今は味方同士なのに火花を散らし合う。
星野は剛力を名前で呼ばないし、剛力は星野に対しての敵対心が凄い。星野は半分剛力を面白がっているのだが。
いつもこの2人が出逢えばこうなってしまう。
「あ、守田くん」
いつの間にか隣にいた守田に気づく陽斗。
今年のインターハイの準々決勝で当たった相手であり、高校最強ディフェンダーと謳われる存在だ。
「······ラムネいる?」
守田はリュックからラムネを取り出して食べ始めた。よく見ると、リュックの中はそれが大量に入っている。
「いるー! 守田くんって本当にラムネ好きだね」
最初はその量にとても驚いた。また、そのギャップにも。
しかし、バスケになるとその雰囲気はガラッと変わる。とてつもなく頼れる存在となるのだ。
「やっほー、今宮に守田!」
後ろから元気でどデカい声が聞こえる。
楽山高校の野生児を率いるキャプテン、知多 京介だ。全く読めないプレーをする、動物のような人である。
「知多さん! こんにちは!」
「こんちゃす」
「よお! あ、俺にもラムネ頂戴!」
「え、嫌です」
守田は知多を毛嫌うように見て、ラムネを取られないように守る。
「何でさ! 今宮にはあげてたやん!」
「知多さんは汚いから」
「汚い!? 俺はいつも清潔だ!」
知多を無視してラムネを口に運び続ける守田に痺れを切らす。
ラムネを奪おうと襲いかかるが、華麗に避けられ続ける。
まあ実際、知多は結構汗臭い。特に練習終わりは近づけないほどに。
「おーい、今宮ー! 1on1しようぜ!」
向こうから日向牙が大声で声を掛けてきた。
高校生の中で星野の次に天才と言われている彼だ。それを本人の前で言ったらめっちゃ怒られるが。
「いいですよ! かかってこい!」
2人は着いてそうそう火花を散らす。
何故か日向牙は会えば毎回陽斗に1on1を仕掛けてくる。まあ、楽しいからいいのだが。
「はーい、皆さん、集まって下さーい」
時間になり続々と集まる日本代表メンバー達。大体15人くらいだろうか。
そして今回日本チームを指揮するのは狼北高校の監督、大上 統久だ。
狼北高校を何度も日本一にしてきた、敏腕監督である。
「今日は本物のプロの方々に来てもらいました」
大上監督の後ろにたつ強靭な選手達。
憧れの人達だ。高校生は皆、キラキラとした眼差しで見る。
「この方々に指導してもらおうと思う。時間を無駄にするなよ」
「「「はい!」」」
「君が今宮か?」
「あ、はい······うお! でかっ!」
後から声を掛けられ陽斗が振り返ると、そこには巨人がいた。おそらく2メートルは超えている。
こんなに人を見上げるのは2度目だ。
見た事の無い顔なのでプロの選手だろう。
「俺、206センチあるんだぜ」
「ほおおー! 凄いですねー!」
陽斗はキラキラとした目で彼を見る。高身長はそれだけで憧れる。
しかし、どこかで見たような気がする。
陽斗は思わず顔をマジマジと見つめる。
「あの、どこかで会った事······ありませんか?」
「いや、初めてだぞ? あ! 伸夫の事じゃね? 巨谷って知ってるだろ? お前の一個下」
「あ! そうだ!」
目の前の男は、インターハイ予選で戦った大男の巨谷と似ている。
「あいつと従兄弟なんだよ。似てるってよく言われる」
「え!? 従兄弟!?」
巨谷の面影があると思ったらまさかの親戚。巨谷家の高身長DNAは強い。
「それじゃあ、ゲームするぞー」
監督の言葉に皆がコートに入る。
高校生代表チームはなんと、今からプロの選手と戦う。
今まで世界の相手に向けて沢山対策を練って練習してきた。それを旅立つ前に試そうということだった。
監督からは、「今までやって来たことを信じて全力で戦え」との事だった。
勝つにしろ負けるにしろ、自分の実力を出せという意味だ。
高校生のスタートメンバーは陽斗、星野、日向牙、守田、知多だ。剛力はムスッとした顔でベンチに控えていた。
そうして、体育館に始まりのブザーが響く。
陽斗の目の前に立つ巨人がいた。巨谷 将輝だ。なんでもJBAの中で凄い存在らしい。
陽斗はこの試合、終始ワクワクしていた。
もちろん実力も経験も劣っている。だが、それでも強い人と戦えるのは楽しい。
陽斗は状況を冷静に見渡す。
星野が飛び出してくる。陽斗はそれを見ずに素早いパスを出す。まるで横にも目があるような、正確なパスだ。
星野を止めようと敵が向かうが、それを守田が阻む。
そして、そのまま豪快にシュートする。
「おいおい、すっげーな」
巨谷は面白そうにニヤッと笑う。
巨谷は天才ともいえる人だ。バスケのセンスは半端なく凄い。まるでボールと一体化しているようなテクニック。
何もかも圧倒される。
高校生チームは必死に食らいつく。
日向牙がシュートを決めに行くと思いきや、スリーポイントシュートを打つ。
知多は負けずにリバウンドをしてくれる。
本当に心強いチームだ。
終了のブザーが鳴り響く。
もちろん、高校生チームは負けた。
しかしへこたれる人は誰もいない。むしろ、プロ相手に自分はここまでやれたんだと嬉しい気持ちだ。
「凄くいいチームじゃないですか」
「だろ? 世界相手にどこまでやってくれるか、楽しみだよ」
高校生達はもう反省会をしている。今季のチームは一人一人のハングリー精神が強い。
巨谷と大上監督はそんな様子を微笑ましく見つめるのだった。
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