67,海
海行きたいけど、焼けたくないなぁ( ´ー`)
「海だー!」
高柳の元気な声の前に広がる青く透き通った海。
「はしゃぎすぎだっつー······」
「ひゃっほー!」
大人なっぽい雰囲気を装う市原をよそに今宮が浜辺へ駆け出す。そしてそれに続く高柳。
「あ、ちょ! フライングだぞ!」
我が先に走り出した2人を慌てて追い掛ける市原。
そんな無邪気な3人を見つめる西島と白石。
「じゃ、俺達も行こうか」
「おう」
2人は散らばった荷物を拾って、既に海ではしゃいでいる3人の元へ向かった。
季節は真夏。
夏休みに入り、部活の合間を縫って海水浴へとやってきた。
「へい、そこの可愛いお姉ちゃん! 俺と一緒に遊ばない?」
高柳はガツガツと女性に声をかけにいく。全て断られていたが。
高柳曰く、「海といったらビキニ」らしい。そんなんだから彼女が出来ないと、皆が呆れた。
「あれ、西島と白石はー?」
頬に赤い手のマークを付けた高柳が辺りを見回す。先程から2人の姿が見えない。
ちなみに、高柳はあまりにもしつこすぎてビンタを食らったらしい。何とも恥ずかしい男だ。
「あそこにいるよ」
陽斗が指さす先には2人の姿があった。パラソルの下でぐったりと寝そべる白石と肌に白い何かを塗っている西島。
「白石、熱中症か?」
「いや、暑いから日陰いるって」
白石は寒さに弱いんじゃなかったけ、と市原と高柳は首を傾げる。
どうやら熱にも弱いらしい。
すると、西島が合流してきた。
「おい、お前何してたんだよ」
「日焼け止め塗ってた」
「お前女子かよ!」
男でも日焼け止めは塗る。しかし、西島の塗る頻度は多すぎるのだ。
「肌弱いし、それに綺麗に保ちたくて」
その言葉に陽斗達は愕然とする。
西島の肌は男子の中では群を抜いて綺麗だ。ニキビもないし、肌は白くてつるつるすべすべだ。
美意識が高い西島であった。
「というか、今宮は海でも眼鏡するんだな」
陽斗はバスケの際に使用しているスポーツ眼鏡を海でも着用していた。
「ま、まあね、目が悪いから!」
陽斗はぎこちない笑顔を浮かべる。
そりゃ、取れるわけがないじゃないか!と、心の中で叫ぶ陽斗だった。
「疲れたから何か食べよう!」
陽斗の一言で砂浜に上がる一同。
お昼の時間を回ってもずっと遊んでいた為、お腹が空いて力が出ない。
屋台を見回していると、端の方でチャラめの男達がナンパしていた。女性達が嫌そうにしている。だが、男達は全く引かない。
女性たちの手を引っ張って無理やり行こうとした時、陽斗は無意識に走っていた。
「ちょっと! 嫌がってるじゃん!」
陽斗が間に入って、男を睨みつける。
「ハア!? 邪魔だ、どけよ」
急に乱入してきた陽斗に男達は嫌悪感を露わにする。
「え、今宮······だよね?」
後ろからの驚きを含んだ控えめな声が聞こえた。陽斗は反射的に振り返る。
「え!? 林さんに三浦さんに橋本さん!?」
「やっぱり今宮くんだ!」
4人はお互いに顔を見つめ合う。
まさかこんな形で会うとは誰も思わなかった。
「おい、話聞いてんのか!?」
この場をどかない陽斗に痺れを切らす男達。今にも陽斗に手を出しそうな雰囲気だ。
「おい、そこの兄さん達、俺らの連れに何してんすか?」
高柳達がこちらに威圧をかけながらやってくる。特に白石は半端ないオーラを醸し出している。
「な、なんだよ、おめえら」
男達は少し怖気付く。
「無理やり女の子を連れて行くとか、そんな事したらダメっすよねー?」
市原がわざと周りの人にも聞こえるように言う。それを聞いた人達は皆、男達に刺すような目線を送る。
「······チッ!」
周囲の雰囲気に耐えられなくなったのか、男達は悪態をつきながら立ち去る。
「本当にありがとう」
「助かったよ」
「いいよ、礼なんて~」
「さっき同じ事をしていたのは誰なんだろうな」
照れる高柳をジーと見る陽斗達。
「は!? 高柳最低!」
女子達が避難する目で見る。
「あ、いや、ち、違うんだよ!」
高柳はヒーローから一転、悪者となった。
午後からは成美達とも一緒に遊ぶ事になった。
今はビーチバレーの真っ最中。
バレー部エースである天音が無双していた。男達でも全く叶わない。
その合間を縫って陽斗はトイレを済ます。
「わ! 林さん!」
「今宮くん!」
トイレから出てきたところで、2人がぶつかりそうになる。
「ご、ごめん。よく前見てなかった」
「い、いいよ、私もだから······」
2人は少しまるで初対面のようなやり取りを交わす。お互いにぎこちなかった。
あのインタビューの時以来、2人は少し気まずい雰囲気だった。いつも通りと心掛けるのだが、逆に意識しすぎて変になってしまう。
部活の時もそういう2人の様子に、部員達はもちろん察していた。なのに全く進展しない事に逆に腹立たしく思っている。特に陽斗をだ。
「あ、あのさ! 俺が世界大会終わった後、林さんに話したい事があるんだ! だから、それまで待っててくれる?」
このままではダメだと思ったのか、勇気をだして陽斗がここで切り出す。
「え、そ、それって······」
「うん、インタビューの時の続き」
成美は驚いたような、不安そうな、嬉しそうな、色んな感情が入った顔を浮べる。
陽斗はそんな成実を真っ直ぐに見つめる。
そんな陽斗の覚悟を決めたような目を成実は察す。
なんとも言えない顔を浮かべていた成美も気持ちが固まった顔を上げて、陽斗を見つめる。
「私も、話したい事があるの。待ってるね」
2人の目線が交わる。自分の、お互いの気持ちを確認し合うかのように。
そうして、2人はふっと小さく笑った。
「おーい、2人ともー! 早く変わってくれー!」
高柳がヘトヘトの姿で陽斗たちを大声で呼ぶ。白石は既に影の下で死んだように倒れていた。
どうやら、天音にこってり絞られたようだ。
「行こ、林さん」
「うん!」
2人は皆がいる所へ走って行った。
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