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芸能人、やめました。  作者: 風間いろは
高校2年生
72/138

66,バスケ協会からの知らせ

暑いねー(**)


2019,5,31 話の内容少しつけ加えたよ

その出来事は突然だった。

いつも通りの放課後、部活をしていた時だった。


バスケ部顧問の先生が少し慌てた様子で体育館に入ってきた。


「い、今宮はいるかぁ!」


急に来て急に声を張り上げる先生。


「あ、はーい。どうしたんですか?」


ゼエゼエと息を切らす先生を見て、ただらぬ様に思えて慌てて駆け寄る陽斗。


「今宮、おめでとう!」


先生は満面の笑みで陽斗の肩にバシッと手を置く。


「え、何がですか?」


「夏にある世界高校バスケ大会のメンバー入りだ!」


「セカイコウコウバスケ······って、ええええ!?」


"世界"というあまりにも大規模な言葉を受け入れられず混乱する陽斗。


騒いであたふたとする陽斗の様子に、部員達が気になり集まってくる。


「どうしたんだ?」


「世界高校バスケ大会だってよ······!?」

「は!? 今宮が!?」

「すげえ!」


それを聞いた部員達も自分の事のように喜ぶ。


「皆、陽斗を持ち上げろー!」


市原の声に皆が陽斗の周りに集まる。


「え、ちょ、なに······」


陽斗は何も言う暇もなく持ち上げられる。


「わっしょーい!」


皆は笑顔で陽斗を高く空中へ放り投げる。


「うわあー!」


陽斗の絶叫は皆の声で儚く散った。


10回ほど宙を舞い、ようやく開放された陽斗。少しだるそうに座り込む。


「今宮くん、凄いね!」


成美が嬉しそうに陽斗に水を渡す。


「ありがとう! 現実じゃないみたい」


「今宮くんが遠い存在になっちゃったなぁ」


成美は寂しそうに遠くに目をやる。


これからは陽斗はバスケ界を担っていく人物になるだろう。今までのようには接することが出来なくなると思うと、何故か成美の胸はぎゅっと苦しいのだ。嬉しいはずなのに。


「そんな訳ない! 俺は林さんの傍にいるよ!」


陽斗は反射的に成美に顔を近づけて言い放つ。


ポカンとした成美だったが、その言葉をようやく理解出来たのか次第に顔が赤くなっていく。


そんな成美を見た陽斗も、自分が言った言葉の意味に今更気づき赤くなる。


「あ、えっと、その、あの······」


咄嗟に何か言おうとした陽斗だったが、言葉にならず黙り込む。


成美も恥ずかしそうに俯く。


そんな状況を真顔で見つめる部員達。


「おい、今宮」


「え、なに······」


顔を上げた陽斗は小さく悲鳴をあげる。

そこには無のプレッシャーを放つ男達の姿があった。


「話がある、来い」


抵抗も虚しく連れていかれる陽斗。


この後、部員達による長い長い尋問が続いたのだった。


陽斗たちがいなくなり、取り残された成美。真っ赤な頬を触る。

胸の鼓動がいつもより早い。


陽斗が世界大会に出ると聞いて、思わず声を掛けてしまった。


正直なところ、今、今宮くんと以前のように話せない。まともに顔を見れないのだ。


だって、インターハイで見た今宮くんの顔は、私がずっと好きな人と同じだったから。




***




薄暗い公園にボールの音が響く。


「とりゃっ!」

「あっ! くそ! またやられた!」


喜ぶ陽斗と悔しそうに顔を歪める剛力の姿があった。

また陽斗に抜かされてシュートを決められたのだ。


「次、俺。代われ」


突っ立っている剛力を放り出す白石。


「お、白石くんじゃないか~。行くぞ!」


1on1を始める2人。


白石が今宮家に通うようになってから、剛力との夜のバスケ会にも参加するようになっていた。


白石の成長の伸びは尋常でない。剛力も陽斗も急速に成長する白石に危機感を抱いている程だ。


「そういえば今宮、世界高校バスケに選ばれたんだってな」


荷物をリュックに詰めながら聞く剛力。


「まさか、剛力くんも!?」


「まあな」


剛力の実力は全国レベル。だが今は陽斗のせいで県止まり。

しかし、バスケ協会はちゃんと剛力を選抜してくれたらしい。


「くそ······」


そんな2人の出世に悔しがる男が1人。


「じゃあ、白石くん、おっさきにー! お前は黙って俺らの活躍をテレビで見とけ!」


背後から着実に近づいてくる白石に嫌な思いをしていた剛力。ここぞとばかりに子供のようにからかう。


「オイ!」


白石が吠えた先にもう人の姿はなかった。風のような速さでその場から逃げたらしい。


「チッ」


舌打ちをしてそのまま荷物を持って歩き出す白石。


「俺ん家には寄らないのー?」


「今日は行かない」


白石もまた直ぐにいなくなる。

恐らく秘密の特訓をするのだろう。


今宮家に寄らない時はいつもこっそり1人でバスケをしているのだ。何を言っても聞かない為、こういう時は黙っている。

白石はバスケの魅力に飲み込まれていた。


そんな姿に今宮は顔を緩ませるのだった。




「もしもし、去年のウィンターカップの際に名刺を頂いた、成宮高校の今宮と言います。橋本さんですか?」


自転車を押しながら暗い道を歩く陽斗は、携帯を耳に当てていた。


「おお、誰かと思ったら今宮くんか。どうしたんだい?」


「その、世界高校バスケ大会に自分が出場って、どうしてですか?」


陽斗は恐る恐る聞く。

現実とは思えず、とりあえず明確な確認がしたかった。その為、以前知り合った橋本に連絡をとっていた。


「どうしてってそりゃ日本にとって勝ちに必要だからだよ」


「そ、そうですか? 俺で本当にいいんでしょうか······」


陽斗に自信はあまりない。インターハイでは星野にボロ負けした。それに、自分は経験が浅い。足を引っ張ると思うと怖いのだ。


「今宮くん、世界を見てみたくはないか?」


その言葉に陽斗の胸がドクンとなる。


小さい頃、飽きるほど見た憧れの舞台。その片鱗を体験出来る機会だ。本場は日本とはまた違うだろう。


それを自分も味わいたい······!


心の底から熱い思いが溢れてきた。


小さい頃、ずっと抱いていた感情が今になって陽斗を取り巻く。


「見たいです! 精一杯頑張らせて頂きます!」


陽斗は核心の籠った声でそう言う。


世界······。ようやく実感出来た陽斗の心は踊っていた。



スーツを着た男性が携帯電話を持っていた手をおろす。


今宮くんは日本にとって、世界にとって面白い存在になりそうだ。


そんなふうに思えて頬を緩ます。夏が楽しみでならない。


「お父さん! 早く食器持って来て!」


「あ、すまん」


慌てて台所に汚れたお皿を置く。そして再びソファに寄りかかる。


ふと台所に目を向けると、そこには長身の娘が1人。確か、今宮くんと同じ学校だった。


後で話を聞いてみよう。


そう思って橋本はテレビの電源をつけた。



世界高校バスケ大会の舞台はアメリカ。

陽斗は自分と母を捨てた()()()がいる事をすっかり忘れていたのだった。

読んでくださり、ありがとうございます∠( ˙-˙ )/

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