6,部活体験
陽斗は清潔感ゼロの汚い部室を出る。吐き気がしそうだ······。
しかし、またこの男まみれの部室もまた学生の青春の一つだよね······
陽斗は強引に青春にくっつける。憧れの部室がまさかあんなんだったとは。ショックを隠せきれない陽斗である。
陽斗は軽く準備運動をしながら、体育館を見渡す。
天井からの眩しいほどのライトが照らす中、20人くらいの部員が活動している。3年生は既に引退しているため、この場には2年と1年しかいない。だが、結構一人一人のレベルが高い。成美の言う通り、成宮高校のバスケ部は強いみたいだ。皆汗水垂らして、熱心に練習に取り組んでいる。
ほほう、ここが部活という名の青春か······
陽斗は輝かしい目でコートを見る。
念願の部活に参加出来るのだ。本当は飛び跳ねたいくらい嬉しい。
準備運動をバッチリして、陽斗は市原のいるコートへ行く。
「市原君」
陽斗はコートから少し外れたとこにいる市原に声を掛ける。
「おお、今宮······って、お前、足長! そして白!」
市原が半袖半ズボンを着ている陽斗を見て驚く。その声に皆が陽斗を見る。
「確かに、スタイル良さすぎじゃね!?」
「身長も割とあるし、モデルみてえ」
「てか、あいつハーフなんだろ? 外人の血が入ってるからじゃね!?」
「そうなの!?」
陽斗がいるコートが途端にザワつき始める。
「おい、お前ら! うるさいぞ。次騒いだらダッシュ100本な」
「「「「すみませんでした!」」」」
騒いでいた部員がキャプテンにびしっと礼をしながら謝る。
うお、めっちゃ体育体系だ。これが高校の部活なのか!!
陽斗は何故かそれを輝かしい目で見る。
「今宮くん、騒がれちゃったね」
西島が市原の横からひょこっと出てくる。
「あ! 西島君じゃん! バスケ部なんだ」
「そだよ。今宮君は経験者なんだね」
「うん、でもちょっとブランクあるから今日はあまり動けないかも。でさ、今なんの練習してるの?」
「今は半面で3対2の速攻練習をしてるよ。主に攻撃の練習だ」
市原が親切に説明してくれる。
ほう、速攻か。楽しそうだ。早くやってみたいという思いが陽斗を埋めつくす。
「あー、てか、さっきごめんな。騒いじまって」
市原が罰が悪そうに言う。
「あ、全然いいよ」
そこで、陽斗の順番がまわってくる。
「あ、眼鏡外してた方がいいんじゃね? ぶつかって壊れるぞ」
市原がコートに向かおうとする陽斗に言う。
「い、いや、いい! 取ったら見えなくなるし! 今日はこれでする!」
眼鏡取りたいけど取れないんです! だって、とったらバレてしまうから。バスケ部に入るならスポーツ眼鏡を買わないとだな······
そう思いながら、コートへ入る。陽斗は攻撃側である。他の攻撃側は先輩と西島、守りは市原と先輩である。攻撃側が点数入れれば勝ちである。しかし、スリーポイントシュートは禁止である。
初めての部活! 陽斗はワクワクドキドキが止まらない。
そして、ピーーと始まる音がなった。
この練習は攻撃するための練習だ。だったら、隙があればすぐに攻めてやる。
陽斗は久しぶりのバスケにニヤケながら考える。
先輩からパスがきた。さっそく隙発見!
陽斗はいきなり突っ込む。前には市原が待ち構えている。しかし、陽斗には抜ける自信があった。
陽斗は巧みにドリブルをし、フェイントを掛け、市原を抜く。
「は!? はや!」
陽斗は一直線にゴールへ向かい、華麗にシュートを決めた。
やったぜ! ブランクあったけど、動けてよかった!
陽斗は市原に少し自慢しようと後ろを振り返ると、陽斗のプレーを見ていた皆が驚いた顔をしてこちらを見ている。
「え、な、なに?」
陽斗も驚く。
「い、今宮、お前、めっちゃバスケ上手いやんか!」
市原がふらっと寄ってきて、今宮の肩をがしっと掴む。
「速すぎて、何も動けなかったんだけど!」
え? そんなに?
「なあ、あの動きやばいな」
「ああ、ドリブルうますぎんだろ!」
周りで見ていた人も陽斗のプレイに驚きが隠せない。
その後の速攻練習もゲーム形式の時も、陽斗は全力で部活に励み、周りの人間を驚かせた。
部の中で一番強いキャプテンともゲーム形式で一緒にプレイしたが、陽斗は結構いい勝負をした。
俊敏性、ドリブルの技術、そしてジャンプ力も凄かった。陽斗は180センチだが、ダンクもした。皆、開いた口が塞がらない。
ブランクがあるのに、これだけ動けるのである。
皆、見た目陰キャなのにバスケが超うまいというギャップに驚いた。
陽斗は陽斗で、周りの目も気にせず、ただ青春という名の部活を楽しんだ。
そして、部活が終了する。
楽しかったー!!
陽斗は久しぶりのバスケに満足し、少しかいた汗をタオルで拭きながら、部室に戻ろうとする。
しかし、なぜかバスケ部員囲まれた。
え、なに!? 怖い!? 俺、まさか虐められんの!? 調子に乗ったから? ごめんなさいぃ!
陽斗は集団暴力と想像して震え上がる。
すると、キャプテンがすっと前に出てきた。
「今宮! バスケ部に入ってくれ!!」
「「「「入ってくれ!!」」」」
皆が口を揃えて陽斗をバスケ部に勧誘する。
え? 何事!? 俺はただバスケ楽しんでただけなのに!? どうしてこうなった!?
目の前の期待した目で見てくる部員達の前で、陽斗は頭を抱える事となった。