63,インターハイ本戦⑤
インターハイ編終わるよォ!
陽斗は市原からボールを貰う。そして再び星野と向かい合う。
陽斗は緩急のあるフェイントで突っ込む。
星野は一瞬動きが止まるが、追いつく。そしてシュートを阻止しようとめいいっぱい手を伸ばす。
しかし、陽斗は空中で体を回転させ星野をすり抜ける。そしてそのままシュートする。
「ナイスー!」
仲間とハイタッチをする陽斗。
それを星野は鋭い目付きで見る。しかし口元は緩んでいる。
それを見た狼北高校の皆は思わず後ずさる。
敵も味方も喰らい尽くすような、まさに恐ろしい狼の顔だった。
残り数分、成宮高校は瀕死状態。
しかしそれでも誰一人諦めない。
陽斗はドライブで突っ込むと思いきや、間を裂くようなパスをゴール下にいる市原に放る。
それは完璧なパスに見えた。
それを狂気じみた狼が喰らう。
そのまま陣地へと持って帰る。
会場は終盤にして、1番の盛り上がりを見せる。
エース同士のぶつかり合い、そして両校の連携プレー。
誰もが熱い眼差しでコートを見ていた。
「······負けられない!」
そんな星野を陽斗は鋭い目付きで見る。
両校の戦いは最後まで続く。
星野が素早いドリブルで突っ込んでくる。
速い······!
陽斗は思わずバランスを崩し、横を抜かれる。
星野が今にもダンクをしようとした時、市原が思いっきりボールを弾いて奪う。
「なっ!」
「俺たちもいるのを忘れるな!」
次は成宮高校のターンだ。
陽斗がコートを縦横無尽に動き、敵を交しシュートをする。
「させるかぁ!」
星野が上からかさばってくる。もう追いついてきた。さっきまで逆側にいたのに、誰よりも早くここにいた。
シュートは打てないと誰もが思った。
しかし、陽斗は既にボールを持っていなかった。
成宮高校のキャプテンが打ったスリーポイントシュートが気持ちの良い音を立ててリングに入る。
天井からの光と伴って、綺麗な放物線だった。
その瞬間、笛がなる。
陽斗は上を向いて呆然と立ち尽くす。体も頭も動かない。まるで酸素が行き届いていないかのように。
そんな陽斗の背中を市原がポンと叩く。そして無言でコートから出ていく。
他の選手たちも陽斗の肩や頭に手を置いていく。
陽斗は下を向き口を食いしばる。
だが、涙もまた止まってくれなかった。
優勝した狼北高校。
しかし、誰も勝った顔はしていなかった。
後半の成宮高校の粘りは凄まじかった。点差は徐々に縮まっていき、焦ったのはこっちだ。
星野は誰も近づけないようなオーラを放っていた。
その姿を見た狼北高校の監督はこの状況にもかかわらず安心した。彼はこれからも奢ることなく成長していくことだろうと確信できたからだ。
「皆、お疲れ。良くやった! お前達の手で掴み取った優勝だ。もっと自分達を誇れ!」
監督のその言葉に狼北高校の雰囲気が良くなる。
今宮 陽斗か。星野に明確に敵だと言わしめた存在。
だが、なぜ彼は突然現れたのだろうか。中学時代でそんな名前も聞いた事も無いが。
まあ、彼もこれからどんな選手になるのだろうか楽しみだ。
狼北高校の監督はこれからのバスケ界が明るく思えたのだった。
「橋本さん、成宮高校惜しかったっすね~」
帽子を被った記者とスーツ姿の男性が多くの人に交じって体育館から出てくる。
「そうだな、いい試合だった」
「ですけど、成宮高校のエースは前半ボロボロでしたね。勿体ない」
記者はわざとらしくため息をつく。
「テメエ! 陽斗が頑張ってたのにそんな風に言うな!」
隣にいたサングラスをした男性が記者に噛み付く。どうやら陽斗と親しい仲らしい。
「は? 事実でしょ。自滅した挙句に鼻血まで出して」
「人の努力をなんだと思って······」
「ちょっと、爽司くん! す、すみませんでした······」
隣にいた帽子をかぶってマスクをした女性が男性を抑える。そしてこちらに苦笑いしながら去っていった。
「何なんだよ、あの男」
「お前の口もな」
悪態をつく記者に突っ込むスーツの男。
「橋本さんもそう思いませんー?」
「今日の試合で彼は一皮剥けたと思うな」
髭をさすりながら言う橋本。
「まあ、確かに後半はマシになりましたけど」
「今まではワンマンプレーが多かったが、周りを頼る事を覚えたようだ。あれはあっぱれだったよ。これは例の大会で面白くなりそうだ」
橋本は嬉しそうに笑う。
「え!? 選手として送り込むんですか!?」
「そうだな。彼が加われば日本はもっと強くなる」
「そうですかー?」
記者は気の抜けた声を出す。あまり面白くなさそうだ。
「若者達、期待しているぞ」
橋本はニヤリと笑うと、会場を出ていった。
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