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芸能人、やめました。  作者: 風間いろは
高校2年生
67/138

61,インターハイ本戦③

準決勝は今まで以上に接戦となる。


相手は全国でも有名な強豪校、海星(かいせい)高校。

ここにスター的存在の選手がいた。 瀧本 日向牙(たきもと ひゅうが)だ。

背はそこまで高くないものの、圧倒的なスリーポイントシュート率と巧みなドライブ。そして、何よりも戦術眼が優れていた。


後輩である乾の中学時の先輩で、敵わない存在だと思っているらしい。

何でも状況に応じて効果的なプレーをする。その状況判断と対応力は高校バスケでは随一だとか。


星野に次ぐ天才だと言われている。



成宮高校はここにきて初めての劣勢となる。

隙があれば直ぐに突かれる。全く気の抜けない試合。


だが、1人では無理な事でもチームでなら勝てる!


今日は今まで以上にキャプテンのシュート率が良く、皆周りが見ていた。

成宮高校は必死で食らいつく。


第4クォーターで同点に追い付くと、終了間際に陽斗が1人飛び出る。意図に気付いた乾が体制を崩しながらもゴールの方へとボールを投げる。


ボールはリングから少し遠かった。


だが、それは陽斗には関係の無い事だ。


リングより少し遠目にジャンプをする。


時が止まったのかのように錯覚するほど長く、高い。


誰もが彼の背中に翼が見えたような気さえした。


そのまま豪快にシュート!



成宮高校の勝利。

敵も味方も拍手を送る。



俺の夏が終わった······。


日向牙が体育館を仰ぐ。


今まで星野に次ぐ実力だとか天才だとか散々言われてきた。俺はそれがすごく嫌だった。2番目だなんてかっこ悪いじゃん。


だからこの手でアイツを潰したかったんだけど。その前に負けちまったな。


日向牙は輪の中で喜んでいる1人に目を向ける。


俺もまだまだだった。1個年下のやつに負けるなんて。


顔から雫が落ちる。


次こそ今宮に勝ち、星野をメッタメタにして俺が1番だと分からせてやる······!


日向牙は仲間に支えられ大粒の涙を流しながら体育館を去っていった。



成宮高校、決勝進出!



「あ、陽斗ー!」


「お母さん!?」


決勝当日、陽斗の母であるちづるがこちらに駆け寄ってくる。


「何でここにいるの!?」


「もちろん、陽斗の決勝を見るためよ」


陽斗はとても驚いた。

なぜなら、母はバスケをあまりよく思っていない。見たくないものの筈なのに。


「あ、その、だ、大丈夫なの?」


「息子が頑張っているのに、応援しない訳にはいかないでしょう?」


お母さんがにっこりと微笑む。

その笑顔を見て、もう大丈夫なのを知った。


「そう。俺、頑張るから!」


陽斗もよく似た笑顔で返す。安心したような、嬉しそうな、それでいて闘志が籠った顔だった。


「あれ、後ろの人誰?」


ちづるの後ろに不審そうな2人がいた。

帽子を深く被ってマスクをしている女性とサングラスをしている男性。

とっても見覚えがある。


「やっほー!瞬くん!」

「よお、わざわざ見に来てやったぜ! 感謝しろ!」


「え!? 奈那ちゃんと爽司くん!?」


その声色で陽斗は誰か気付く。

芸能界で仲が良かった有栖 奈那と荒井 爽司だ。


「わー、会えて嬉しいー······って、何でここにいるの!?」


「あはは、瞬くんが決勝出るって聞いたから来ちゃった~」

「たまたま俺らオフだったからな!」


「とりあえず、瞬って呼ぶの辞めて! 今は陽斗だから!」


陽斗は慌てて訂正する。"瞬"って呼ばれているところを知人に見られたらやばい。


「分かった、(はる)くん!」


奈那は嬉しそうに笑う。


「奈那は陽斗がめっちゃ好きだもんな~」

「ちょっと、陽くんの前で言わないでよー!」

「事実だろー?」


からかう爽司と頬を膨らます奈那。


そんな2人のオーラに気付いたのか、いつの間にか注目を浴びていた。


「じゃ、じゃあ、俺行くねー!」


陽斗は人目を避けるようにその場から離れようとした。


「あ、待って! これ、陽くんに作ってきたの!」


奈那はそう言うと、カバンから黄色のリストバンドを取り出す。


「陽くんのカラーは黄色だったでしょ? それに、イニシャル縫ってあるの! お守り代わりとして使って欲しいな」


奈那は満面の笑みで陽斗の手に載せる。そして、陽斗の手をギュッと握る。


「陽くん、頑張ってね!」

「俺ら、応援してるからな!」


「ありがとう! 大事にするね! 絶対に優勝するから!」


陽斗はリストバンドを手に付けると、3人に手を振りながら去っていった。



「おい、今宮! さっきの人達何だよ!」

「オーラが半端なかったんだけど! 芸能人か!?」

「お前、イニシャル付きのリストバンドはめやがって! さては彼女だな!? エエ!? そうなんだろ!?」


成宮高校の待機場所に戻った陽斗を待っていたのは、部員達からの質問詰めだった。


「か、彼女······!?」


いつもフォローしてくれる成美は端の方で固まっていた。


「そんなんじゃないってば! ほら! もう試合だって!」


「うわあああ、彼女がいるなんて裏切り者ぉー!」

「青春しやがってコノヤロー!」

「リストバンドを奪えー! 愛の証を取るんだー!」


「だから、彼女じゃないですって!」


叫び倒す者、泣き叫ぶ者、落ち込む者、そしてリストバンドを死守する者、様々だった。

決勝前にも関わらず、成宮高校バスケ部はお祭り状態だった。



そうして、遂に輝かしいセンターコートでの最後の試合が始まろうとしていた。


ウィンターカップで一躍有名となった、成宮高校vs王者、狼北高校。


星野の風格はウィンターカップよりも圧倒的だった。前に立つだけでプレッシャーを感じる。

星野だけでなく狼北高校全体の威圧が凄い。まるで獲物を今にも狩ろうとする狼の目。


だが、成宮高校もウィンターカップの屈辱を糧に進化した。そしてこの舞台まで辿り着いた。


お互いに火花を散らし合う。


そして、誰もが固唾を飲んで見守る中、爛々と燃え盛る体育館に高く上がるボール。


インターハイ本戦、決勝が今、開幕!



そして数十分後、体育館は静寂に包まれていた。


第2クォータ、54対28で狼北高校の大幅リードで終える。


陽斗の足は止まっていた。


読んで下さり、ありがとうございます( ・ิω・ิ) ・ิω・ิ)・ิω・ิ)ω・ิ)・ิ)

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