58,修学旅行の準備
「皆、喜べ! 修学旅行のおっ話だぞー!」
ある日の5時間目、太陽先生が生き生きとした様子で教室に入ってくる。
「おおー! 修学旅行!?」
「やったー!」
クラス中が盛り上がる。皆が最も楽しみにしている一大イベントであるからだ。
「場所は4つ候補があるから、各自選んで下さい! 学年で票が多かった所にいっきまーす!」
太陽先生はプリントを配る。
「北海道、東京、大阪、長崎だって!」
「どれにしよう~」
「どうせなら都会に行きたいよな」
それぞれ仲のいい人で集まってワイワイと話し出す。
「どこ希望する?」
「スキーしたいから北海道!」
「長崎」
「は!? バラバラかよ! 修学旅行っていったら東京じゃねえの!?」
見事に市原、陽斗、白石の3人の意見は分かれた。
「都会とか人多すぎ」
白石の顔が歪む。どうやら人混みは苦手らしい。
「スキーやってみたくないの!?」
陽斗には都会はもう十分だった。中学の時よく行っていたからだ。なので行ったことがない北海道がいい。どうしてもスキーをしてみたい。
「寒いの無理」
再び白石の顔が歪む。どうやら彼に寒さは天敵のようだ。
「はあ!? 何言ってんだよ、修学旅行といえば都会だろ!」
「いやいや、スキーでしょ!」
「過ごしやすいところがいい」
全く意見が合わない3人。
「林さん達は!?」
陽斗はこのまま話しても埒が明かないと悟った。そのため、近くにいた成美と三浦の2人の意見を求めたのだ。
「え、やっぱ東京でしょ!」
「私は北海道行ってみたい」
「はい! 東京に1票!」
「だよね、やっぱスキーだよね!」
意見が合った2人は嬉しそうに白石を見る。白石がイラッとしたのか眉毛がピクっと動く。
その無言の威圧に気圧されたのか、2人は黙る。
「おーい、みんなー、俺を夢の国に連れて行ってくれ~」
太陽先生は懇願する目で生徒を見る。ただこの人は遊びたいだけだろと皆は心の中で思った。
「はいはいはーい! 修学旅行の行き先が決まったぞ!」
後日、太陽先生が生き生きとした様子で教室に入ってくる。皆はもうこの時点で行き先を悟った。
「東京でーす! 喜べ!」
「よっしゃー!」
「えー、スキーしたいー」
生徒の反応は十人十色。やはり皆は華やかな都会が好きらしい。
「じゃあ、6人で班を組め! そんで行きたいとこを決めろ! ただし、最終日は皆ディディ二ーだからな!」
「「「はーい」」」
皆は席を立ってそれぞれで集まる。
「よし、まずは3人だな」
陽斗、市原、白石の3人が固まる。イツメンだ。
「うーん、あと3人だけど······あ! 林さん達、俺らと組まない?」
陽斗はちょうど近くで2人でいた成美と三浦に声を掛ける。
「いいよー!」
「うん!」
2人もどこに入るか悩んでいたみたいなので丁度良かった。
「あと1人だけど、どうする?」
「うーん······あ!」
手を顎にあてながら教室を見渡していた三浦が、ある1人の女子の元へ歩いていくと、その彼女の腕を引っ張って戻って来た。
「こちら、橋本 天音ちゃんでーす」
三浦が紹介する女の子は、ベリーショートカットで女子の割に背が高かった。
「どうもよろしく······って、勝手に決めんなよ」
天音は軽く三浦の頭をどつく。いきなり現れ、合意もなしに連れてこられたのだ。気づかばもうこの班に入る事になっていた。
「ていうか、男子3人とも身長高いねー」
天音は班のメンバーを見渡し、男子3人の背丈に目がいく。
市原、陽斗、白石は皆180cm越えだ。市原と白石の2人に限っては190cm近い。男子の中でも高い部類に入る。
「そういう橋本もだろ?」
天音は女子の中では断トツ高い。恐らく170cmはあるだろう。
「まあ、バレー部だから」
「天音ちゃんは新キャプテンでエースなんだよ」
成美が憧れるような目で天音を見る。
「そうそう。かっこよすぎて女子達から凄い人気なんだよね!」
「いや、言い過ぎだって」
どうやら天音は女子からモテモテな存在のようだ。確かに、顔は凛々しいし、姉貴肌でしっかりしているので、よく女子から慕われている。
「それでよく連れてこれたな」
「まあね、女子達が天音をどこに入れるかで揉めてたから引っ張ってきちゃった! 争いの原因が無くなったから、これでみんな平和に決めれるね!」
三浦は、いい事をしたとばかりにドヤ顔をする。だがよく見ると
、女子達が恨めしそうにこちらを見ていた。天音をかっさらっていったことに腹を立てているのだろうか。
「女子って何か怖いな······」
「うん······」
男子達はあまり深く関わらないようにしようと心に誓った。
「そういえば、今宮くんって謎が多いって噂があるよね」
天音が不意にボソッと呟いた。
「え!? 謎?」
「そう! 眼鏡の下はイケメンでスタイルもよくて勉強も運動もできて、しかも芸能人と交流があるって」
「え、誰だそれ!?」
こんな完璧な人物はどこの誰だろうか。自分にはとてもじゃないけど似つかわしくない。こんな陰キャがイケメンだと思われるはずはないし、勉強だって自分より頭いい人なんて山ほどいる。
「いや、今宮くんの事だよ」
「は!? そんなのデマだよ!」
こんなデタラメな噂を流した人物を陽斗は心の底で恨む。もしもバレたら元も子もないではないか。自分はただの陰キャだからからかっているだけだろう。陽斗はそう思うことにした。
「しかも、はなちゃんから告られてたしね」
三浦はニヤニヤしながら言う。
「嘘!? それ本当だったんだ」
「振ってたけどね」
「え!?」
天音が目を大きく開けて陽斗をバッと見る。
「あんなに可愛くて男子にも人気がある子を!?」
「まあ、よく知らなかったから······」
天音は信じられないという目で陽斗を見る。
天音は例のはなちゃんと1年生の時に仲良かったからよく知っている。天使のような女の子で、ふわりとした笑顔がとても可愛い。性格もおっとりしていて非常にいい子だ。男子からは引く手あまたなのに、まさか、彼女が振られることがあるなんて思わなかったのだ。
「やっぱり、今宮くんってミステリアスだわ」
「え、そんな言い方やめてよ。変なあだ名とか付けられたら困るし······」
「え?」
天音は「知らないの?」とでも言いたげにキョトンとした顔をする。
「え?」
陽斗はそんな天音の反応に戸惑う。笑い飛ばしてくれてると思ったのに。その事に悪い予感がする陽斗。まさか、この沈黙は······。
「え、嘘だよね、冗談だよね!?」
「は? 今宮、お前知らなかったのか?」
よく見ると、皆が驚いたようなニヤニヤしているような。
いや、これは、みんなのこの反応は、まさか······。
「俺は信じないから!」
陽斗は頭を抱え、現実から逃避しようとする。自分に変な名称がついているとか考えたくない。
「まあ、白石の仲間入りって事で!」
「それ、勝手に言われてるだけだから」
白石からの睨みをきかせた殺気を感じ、市原はすぐに閉口する。
「まあ、それくらい今宮くんは目立って────」
「うおおおー! 俺は信じないー!」
陽斗は髪をぐしゃぐしゃとかき乱す。励まそうと声を掛けた天音だったが、逆効果になってしまった。
陽斗はこの現実を断固として認めなかった。
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