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芸能人、やめました。  作者: 風間いろは
高校2年生
61/138

55,インターハイ予選②

巨谷の役割は主にリバウンド。動きが硬いから恐らく始めたばかりだろう。


だが巨谷の高さは脅威だった。


「くそ!」


市原は舌打ちをつく。先程もリバウンドに負けたのだ。


既に試合は第2クオーターへと突入。点は成宮高校がややリード。


相手校はかなり堅実なプレーだ。昨年のインターハイは剛力要する東高校に僅差で負けたらしい。隙がない。全く油断にならない。


陽斗はボールを持って攻める。

目の前には高い壁。


だけど、技術も経験も圧倒的に俺が上! ただ高いだけじゃ俺には無意味だ!


陽斗は素早いドリブルで抜く。


「は、はや!」


巨谷が驚いているうちに陽斗はシュートする。


あまりの速さに敵チームは一瞬動きが止まる。

だが、まあそれは最初から分かっていたことだ。気持ちを切り替える。


そうして成宮高校も動きに硬さがとれてきた。


俺達は勝つ為に苦しい練習を乗り越えてきたんだ! 目の前の敵を倒す! そして全国に行く!


皆の気持ちが燃え上がり、1つになった。

成宮高校のエンジンがかかる!



成宮高校のパスワークが光る。そして個々の動きも良くなってきた。


練習をしてきた分、今それが発揮されてるのがわかる。自分が強くなったという確信は自信になる。そしてそれは楽しさへと繋がる。


成宮高校の皆は生き生きとプレイをする。



そうして第4クオーター。点差が開いてきた。


市原は後輩の乾からゴール下近くでパスを貰う。目の前には巨人野郎。


「うおりゃー!」


叫びながらパワー任せで豪快にシュートを決める。巨谷はあまりの強い押しに負け、後ろへと倒れて尻もちをつく。


市原は巨谷を上から満足気に見る。まるで俺の方が強いと言っているかのように。


そうしてこの後も成宮高校が優勢な状況が続く。


終了の合図が鳴り響く。


「ナイスプレー!」

「よくやったー!」


成宮高校の皆は喜び合う。観客からも祝福の拍手を貰う。


「最初ビビってたでしょ」


マネージャーの葵がジトーとした目で見てくる。


「え、え?」

「そ、そんな事ねぇよ」


皆は目を合わさず水を飲んだり汗を拭いたり。誤魔化していることがバレバレだ。


「そんなんで決勝勝てないわよ!」


皆は反省したように下を向く。最初、あまりの巨人に戸惑った。動きが硬かったのはそれだ。思わず巨人を避けてプレイしていた。後半はよかったものの、それは今後命取りになる。


「俺達は強くなった! 皆それを実感してるはずだ。もっと自信を持っていこう! 勝って全国に行くぞ!」


「「「おーーーー!!」」」


キャプテンの激励に皆が盛り上がる。


「大くんだって最初ダメダメだったくせに」


「ま、まあ、それはそうとしてな······」


キャプテンは葵と目を合わさないで水を飲む。


ハアとため息をつく。そして再びチームの方に目を向ける。

皆は勝利に酔いしれることなく、反省したり次の対策に向けて話し合っている。


いいチームだと葵は心底思う。母親のような目で小さく笑うのだった。


***


その様子を黙って見ている人物がいた。


負けたんだ······。


立ったまま天井を見上げる。


頭も心も空っぽ。何も考えられない。とりあえず疲れた。


「巨谷、行くぞ」


高3の先輩がその場から動かない自分に声を掛ける。この先輩は何かと俺に気を掛けてくれた。


高校から始めたバスケ。ただ身長だけが取り柄。


今までこれといったスポーツはしてきていない。中学の時に父の影響でボクシングを運動程度でしていたくらい。


毎日をのんびり生きていた。


そんな生活に転機が来たのは中3の冬。従兄弟に誘われてウィンターカップを見に行った時だった。


高校生が熱くバスケをする姿に魅了された。


特に心が踊ったのは狼北高校と成宮高校の試合だ。

準々決勝なのに高校生とは思えないハイレベルな戦い。


その中でも"今宮"という男に惹かれた。


狼北高校のエースと激しく争っていた。


成宮高校が劣勢だったが、今宮は懸命に食らいつく。

例え体力が切れようとも、今にも倒れそうでも、必死に走り続ける。


そんな中でも楽しそうにプレイしている彼の姿は眩しかった。


そして、今宮の最後のロングシュート。


思わず席を立ち上がった。


負けていても最後まで諦めない。そんな彼に俺は感動した。


僕もこんな熱い戦いがしてみたい!


それがバスケを始めた理由。


そして高校になってバスケ部に入った。

憧れの彼と戦いたくてあえて違う学校に進んだ。


身長のお陰で部活内では重宝される存在になった。自分の学校にはあまり高い人がいなかったからだ。


部内では結構活躍した。リバウンドは毎回勝った。


居残り練習も先輩と毎日した。


そうしてついにインターハイ。身長の威力で誰も向かってくる人はいなかった。こんな自分でも役に立っていることが嬉しい。少しは彼に近づいたと思った。


そうしてついに彼との勝負が来た。すごく楽しみだった。彼相手にどこまで通用するのだろうか。


だが、実際戦ってみると圧倒的な差に愕然とした。

2メートル超えの自分にも果敢に向かってくる。彼も成宮高校の他のメンバーも。


正直、バスケを舐めていた。身長があれば多少は戦えるんじゃないかと思っていた。


悔しい。そんな甘い考えの自分が。そんなんだから負けたんだ。



僕は先輩に支えられながら会場を出る。


「先輩、ごめんなさい······。役に立てなかった······!」


今まで色々と教えてくれた先輩に申し訳なくて、みっともなくて。こんな無様に負けて。


色んな感情が浮き出て思わず涙が出てくる。


「······お前はよくやったよ」


先輩は大きい背中をさすってくれる。本当は先輩の方が悔しいはずなのに。


泣くのを止めたくても涙はどんどん出てくる。


「これからもっと強くなれる。その悔しい気持ちを忘れるなよ」


「······はい!」


後悔しても変わらない。切り替えよう。


もっと技術を磨かなければ! もっと練習しなければ!

絶対に追いついてやる!


涙を拭いて前を向く。



俺は新たな気持ちを胸に会場を後にした。


読んで下さる皆様、ありがとうございます(öᴗ<๑)

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