55,インターハイ予選②
巨谷の役割は主にリバウンド。動きが硬いから恐らく始めたばかりだろう。
だが巨谷の高さは脅威だった。
「くそ!」
市原は舌打ちをつく。先程もリバウンドに負けたのだ。
既に試合は第2クオーターへと突入。点は成宮高校がややリード。
相手校はかなり堅実なプレーだ。昨年のインターハイは剛力要する東高校に僅差で負けたらしい。隙がない。全く油断にならない。
陽斗はボールを持って攻める。
目の前には高い壁。
だけど、技術も経験も圧倒的に俺が上! ただ高いだけじゃ俺には無意味だ!
陽斗は素早いドリブルで抜く。
「は、はや!」
巨谷が驚いているうちに陽斗はシュートする。
あまりの速さに敵チームは一瞬動きが止まる。
だが、まあそれは最初から分かっていたことだ。気持ちを切り替える。
そうして成宮高校も動きに硬さがとれてきた。
俺達は勝つ為に苦しい練習を乗り越えてきたんだ! 目の前の敵を倒す! そして全国に行く!
皆の気持ちが燃え上がり、1つになった。
成宮高校のエンジンがかかる!
成宮高校のパスワークが光る。そして個々の動きも良くなってきた。
練習をしてきた分、今それが発揮されてるのがわかる。自分が強くなったという確信は自信になる。そしてそれは楽しさへと繋がる。
成宮高校の皆は生き生きとプレイをする。
そうして第4クオーター。点差が開いてきた。
市原は後輩の乾からゴール下近くでパスを貰う。目の前には巨人野郎。
「うおりゃー!」
叫びながらパワー任せで豪快にシュートを決める。巨谷はあまりの強い押しに負け、後ろへと倒れて尻もちをつく。
市原は巨谷を上から満足気に見る。まるで俺の方が強いと言っているかのように。
そうしてこの後も成宮高校が優勢な状況が続く。
終了の合図が鳴り響く。
「ナイスプレー!」
「よくやったー!」
成宮高校の皆は喜び合う。観客からも祝福の拍手を貰う。
「最初ビビってたでしょ」
マネージャーの葵がジトーとした目で見てくる。
「え、え?」
「そ、そんな事ねぇよ」
皆は目を合わさず水を飲んだり汗を拭いたり。誤魔化していることがバレバレだ。
「そんなんで決勝勝てないわよ!」
皆は反省したように下を向く。最初、あまりの巨人に戸惑った。動きが硬かったのはそれだ。思わず巨人を避けてプレイしていた。後半はよかったものの、それは今後命取りになる。
「俺達は強くなった! 皆それを実感してるはずだ。もっと自信を持っていこう! 勝って全国に行くぞ!」
「「「おーーーー!!」」」
キャプテンの激励に皆が盛り上がる。
「大くんだって最初ダメダメだったくせに」
「ま、まあ、それはそうとしてな······」
キャプテンは葵と目を合わさないで水を飲む。
ハアとため息をつく。そして再びチームの方に目を向ける。
皆は勝利に酔いしれることなく、反省したり次の対策に向けて話し合っている。
いいチームだと葵は心底思う。母親のような目で小さく笑うのだった。
***
その様子を黙って見ている人物がいた。
負けたんだ······。
立ったまま天井を見上げる。
頭も心も空っぽ。何も考えられない。とりあえず疲れた。
「巨谷、行くぞ」
高3の先輩がその場から動かない自分に声を掛ける。この先輩は何かと俺に気を掛けてくれた。
高校から始めたバスケ。ただ身長だけが取り柄。
今までこれといったスポーツはしてきていない。中学の時に父の影響でボクシングを運動程度でしていたくらい。
毎日をのんびり生きていた。
そんな生活に転機が来たのは中3の冬。従兄弟に誘われてウィンターカップを見に行った時だった。
高校生が熱くバスケをする姿に魅了された。
特に心が踊ったのは狼北高校と成宮高校の試合だ。
準々決勝なのに高校生とは思えないハイレベルな戦い。
その中でも"今宮"という男に惹かれた。
狼北高校のエースと激しく争っていた。
成宮高校が劣勢だったが、今宮は懸命に食らいつく。
例え体力が切れようとも、今にも倒れそうでも、必死に走り続ける。
そんな中でも楽しそうにプレイしている彼の姿は眩しかった。
そして、今宮の最後のロングシュート。
思わず席を立ち上がった。
負けていても最後まで諦めない。そんな彼に俺は感動した。
僕もこんな熱い戦いがしてみたい!
それがバスケを始めた理由。
そして高校になってバスケ部に入った。
憧れの彼と戦いたくてあえて違う学校に進んだ。
身長のお陰で部活内では重宝される存在になった。自分の学校にはあまり高い人がいなかったからだ。
部内では結構活躍した。リバウンドは毎回勝った。
居残り練習も先輩と毎日した。
そうしてついにインターハイ。身長の威力で誰も向かってくる人はいなかった。こんな自分でも役に立っていることが嬉しい。少しは彼に近づいたと思った。
そうしてついに彼との勝負が来た。すごく楽しみだった。彼相手にどこまで通用するのだろうか。
だが、実際戦ってみると圧倒的な差に愕然とした。
2メートル超えの自分にも果敢に向かってくる。彼も成宮高校の他のメンバーも。
正直、バスケを舐めていた。身長があれば多少は戦えるんじゃないかと思っていた。
悔しい。そんな甘い考えの自分が。そんなんだから負けたんだ。
僕は先輩に支えられながら会場を出る。
「先輩、ごめんなさい······。役に立てなかった······!」
今まで色々と教えてくれた先輩に申し訳なくて、みっともなくて。こんな無様に負けて。
色んな感情が浮き出て思わず涙が出てくる。
「······お前はよくやったよ」
先輩は大きい背中をさすってくれる。本当は先輩の方が悔しいはずなのに。
泣くのを止めたくても涙はどんどん出てくる。
「これからもっと強くなれる。その悔しい気持ちを忘れるなよ」
「······はい!」
後悔しても変わらない。切り替えよう。
もっと技術を磨かなければ! もっと練習しなければ!
絶対に追いついてやる!
涙を拭いて前を向く。
俺は新たな気持ちを胸に会場を後にした。
読んで下さる皆様、ありがとうございます(öᴗ<๑)




