5,部活の見学
六時間目終了のチャイムが成宮高校に響き渡る。
「ふぅー!」
楽しかったけど、疲れた。
陽斗は思いっきり背伸びをする。久々のフル授業は首や肩にくる。
「今宮君って、すごい真面目だね。背筋ピンってして、真剣に授業聞いてたから!」
隣の席の成美がにこっと笑う。
「俺、勉強は頑張るって決めてんだ! 林さんにも負けないから!」
「あはは、もう既に負けそうだよ」
成美は白い手を薄ピンク色の唇に軽くあてて笑う。
そこで、陽斗は朝のことを思い出した。
「そうだ、今から空いてない? この後、何か奢らせて欲しい!」
「あ、ごめん。今から部活なの」
ぶ······部活!? そうか、林さんは部活に入っているのか。おごりはまた今度の機会にしよう······って、部活かあ! 気になる!
「林さんは、何の部活に入っているの?」
「私は、バスケのマネージャーだよ!」
「バスケかー」
陽斗はぼそっと呟く。
「今宮くん、バスケ経験者なの?」
「うん、小学校の頃と中学で少し」
実は、陽斗は小学校のチームで毎日のようにバスケをしていた。好きだったため中学でもちょこちょこ続けていた。
「なら、部活見学してみる?」
「そうだね。この後特に何も無いし、行ってみようかな」
陽斗は、一般高校生になって芸能人の時にやれなかった好きな事をとことんやりたいと思っていた。
部活は何か一つ入りたい。だって青春じゃないか。
バスケは久々だ。色々不安だけど、とりあえず見学だけでもしてみよう。
陽斗は成美と一緒に体育館へと向かう。
「うちのバスケ、結構強いよ? 県内では1,2位を争っているの」
「へぇー、そうなんだ! 楽しみだ!」
陽斗は子供のような笑顔で笑った。
成美は少しドキッとする。前髪が長くて眼鏡をかけているけど、隙間から大きな笑顔が見える。
こんなに無邪気に笑う人いるんだなあと成美は思う。でも、どこか懐かしいような······と思ったが、気のせいだとその考えを振り払う。
そして、体育館に着いた。大きな体育館だ。コートは二つある。天井にあるライトが眩しい。部員達は準備運動をしている。
おおお、ここが青春の場か。なんという輝かしさなのだろうか。コートも部員も全てが眩しい。
陽斗は感動する。部活だなんて初めてだ。
「こんにちはー!」
体育館に入り、成美は大きな声で部員に挨拶をする。陽斗も成美の後を着いていく。
「おー! 林!」
「あ! 成美ちゃん!」
「林ちゃん、やっほー」
準備運動をしていた部員達が成美に声を掛ける。
成美はバスケ部に凄い好かれていた。可愛いし人もいいからだろう。当たり前の結果だ。
「お? 隣のやつは誰だ? 入部希望?」
部員の皆は成美の隣にいる、見知らぬ高校生男児に目が移る。
「あ! 今宮じゃん!」
そう言って、準備運動の輪からヒョイっと出て来たのは市原だ。
身長が高いと思っていたら、彼はバスケ部だったようだ。
「何だ? 市原、こいつの知り合いか?」
ガタイもしっかりとした先輩らしき人が聞く。
「はい、キャプテン! こいつは、今日転校してきたばかりなんですよ」
おう、キャプテンだった。無礼のないようにせねば。
陽斗はびしっとかしこまる。
「あ、そうなんだ。今宮君だっけ? 経験者?」
キャプテンが聞いてくる。
「あ、はい! 小学生の頃と中学生の時にしていました!」
「いや、そんな固くならなくていいよ。じゃあさ、見学じゃよくわからないと思うし、実際体験してみよっか。ほら、ウェア貸すから、着替えてきな」
キャプテンがウェアを陽斗に投げる。
「あ、ありがとうございます!」
「それと、靴は体育館シューズがあるよな? とりあえず今日はそれ履いて」
「はい!」
「部室はそこだから、荷物も適当に置いてていいよ」
「分かりました!」
陽斗は元気よく返事をする。
早速部活を体験することになり、陽斗はウキウキの足取りで部室へ向かった。
重い部室の扉を開ける。すると、中から汗臭い、男の匂いがぶわっと漂ってきた。
あまりの臭さと汚さに、陽斗は思わず顔をしかめ不快感を露わにする。一気に部室への憧れが消え失せた。まさかここまでとは、汚いとは全く思ってもいなかった。
陽斗は鼻をつまみながら恐る恐る中へ入る。部室には使い古した靴やボール、部員達の制服、荷物やら色んなものが散乱していた。
陽斗は綺麗好きであった。こんな不潔な場所はとてもじゃないが耐えられないので大急ぎで着替える。
もしもバスケ部に入るのなら、ここ何とかしないとだな······。
陽斗は綺麗に制服を畳み、ドアに近い端の方に荷物を纏めておいた。そして、急ぎ足で男臭満載の臭い部室を出たのだった。
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