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芸能人、やめました。  作者: 風間いろは
高校2年生
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49,高柳と市原

「くそ! どこにいるんだよ!」


市原は暗い街を走り回っていた。


時刻は既に23時を回っている。高柳を探し始めて6時間も経っていた。


最初、高柳家に訪ねたがおらず、代わりに母が出てきた。目は少し腫れていたように見える。


そこで、何があったのか、どうなったのか、全てを聞いた。


高柳の母は涙ながら話してくれた。

止めれなかったこと、ちゃんと向き合えなかったこと。今までの事を後悔しているようだった。


「絶対に俺が見つけてくる」と言って俺は高柳家を出た。


しかし、未だ見つからない。


数分前に立ち寄った漫画喫茶で、高柳に似た特徴の人が今さっき出たばかりらしい。

だから近くにいるはずなのだ。


もし何かあってからでは遅い。今の高柳じゃしかねない。


昨日、もっと高柳を気にかけていたら······!


市原は激しく後悔する。だが、今は探すしかない。


全く、心配かけすぎだろ!



市原と高柳が出会ったのは中学1年生。入学前からあの高柳食品の息子が入ってくると話題になっていた。


高柳食品は日本の三大会社とも言われる。きっと金持ち思想で親の権力を振りかざしているだけの子だろうと思っていた。


しかし、実際は全くというほど違った。


入学当初から声が大きく、ふざけて、結構目立つ男がいた。


その人が高柳家の長男と聞いた時は本当に驚いた。


成績は良くないし、どちらかと言うと悪ガキ。真面目とはかけ離れたような人。


話してみると、面白くて明るくて良い奴だった。いつも友達に囲まれて、よく率先して皆を引っ張ていた。


子供のようで世話がかかるけど憎めない存在。


そんな高柳に惹かれた。

どこか、皆を先導するカリスマ性があるように感じた。


そんな高柳でも家庭は結構複雑なようで。

あそこは鳥かごのようだと言っていた。


兄弟の優劣。劣等生の兄は周囲からは冷たくされている。


大手会社だから仕方の無い事なのかもしれない。だが、表面だけでなくてちゃんと本質を見て欲しい。


高柳がもし絶望して暗闇の中へ行ってしまうのなら、その前に助けてやると誓っていた。


なのに······! 絶対無事でいろよ!


市原は必死の形相で走り回る。気付けば学校の近くにいた。

そして薄暗い明かりがついている公園の前を通った────



***



高柳は暗い道を1人でさまよっていた。

漫画を見ることも飽き、何となくふらっと外に出たのだ。


外は真っ暗だ。街灯の光しかない。だが、とてつもなく広い。自由な世界。


あんな鳥籠のような所には絶対に戻りたくない。


心の奥へ塞ぎ込んでいたものが一気に溢れたようだった。


今までどれだけ我慢してきたか。


とりあえず今は何も考えたくない。


高柳は駅の前の広場のベンチへと腰掛ける。

気付けば学校の近くまで来たようだ。


目をつぶる。


しかし暗闇に浮かぶのはアイツの顔。


バッと目を開ける。


何であの大嫌いな顔を思い浮かべてしまうのだろうか。


目を瞑れば嫌な事を思い出してどうしても眠れない。

まるであそこからは離れられないとでも言われているかのように。

粘着のように頭からくっついて離れない。


思い出したくもないのに! 見たくもないのに! 忘れたいのに!


高柳は頭をぐしゃぐしゃとかき乱す。



「君、こんなに夜遅い中どうしたんだい?」


1人の30代半ばくらいの男性が隣に座ってきた。

小綺麗な格好をしている。髭を少し生やしていてチャラい容姿。


「いや、少し嫌な事がありまして······」


突然の男性の現れに戸惑いながらも高柳はそう答える。


「そうなんだ」


男性はにこにことしている。

この人は何をしに来たのだろうか。


「何か、辛いことがあったんだね」


男は高柳の頭に手をポンポンとのせる。


黙って暖かい空気を出してくれる。会ったばかりの人なのに何故か心地いい。自分を認めてくれているような、そんな感じ。


「これ、使ってみない?」


男はそう言うとズボンのポケットから粉が入った小さな袋を取り出す。


「幸せな気持ちでいっぱいになれるんだ」


ニコッと笑って高柳に差し出す。


見るからに怪しい。触れてはいけないものだ。


高柳は少し後ずさる。


「全部嫌な事を忘れる事が出来るよ」


「全部、忘れる······?」


「そう、楽になれるんだよ」


高柳はじっと白い粉を見る。

なんて魅力的なものなんだろう。


受け取ってはダメだと頭では分かっている。だが何故か拒否することを拒んでしまう。気持ちがそれを欲している。


「俺についてきな」


男は立ってどこかへ歩いて行く。


ここで踏み出してしまえばもう後戻りは出来ないかもしれない。


暗くて不気味で未知な世界。

だけでも興味深い。


この薬を使えばアイツの顔も嫌な思いでも忘れられる。


これはいけないことだ。危険な世界だ。

しかしそんなものは頭からすっぽ抜けていた。


使ってみたい······! 全てを忘れられるのなら!


高柳を止めるものはなかった。


そのまま男の元へ一歩、足を踏み入れてしまった。

読んで下さり、ありがとうございます(δ้vδ้)

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