45,体育祭準備
「はい!」
成美が掛け声と共に陽斗の手にバトンを置く。バトンはスムーズに渡り、陽斗は減速することなく走る。
「やった!」
「また上手くいったね!」
2人は嬉しそうな笑顔でハイタッチをする。
「息合ってんなー!」
汗をかいて体操服を着ている市原がこちらに近付いてきた。
今はクラス代表リレーの練習真っ最中である。順番は男女交互。男子は1周、女子は半周となっている。
体育祭が近付いてきて、最近はほとんど体育の授業だ。
「市原くんはうまくいってるー?」
「おう、だいぶいい感じ!」
「成美達には及ばないけどね~」
帽子を被った三浦が市原の後ろからひょこっと出てきた。
三浦はギリギリでリレーに出る事になったのだ。
「うちら最初は中々タイミングが合わなくて大変だったよー」
「ほんとそれなー」
リレー順では三浦の次が市原だ。
練習では市原のスピードに三浦が追いつけなかったり、次は逆に市原が遅くしすぎて詰まってバトンを落としたり。
かなり苦戦していた2ペアだが良くなってきたようだ。
「でも、今宮たちみたいにはスムーズにはいかないんだよなー」
「何かアドバイスない?」
市原と三浦が真剣な表情で聞いてくる。
このクラス代表リレーはかなり点数がデカい。しかも協力プレーだから足を引っ張る訳にはいかないのだ。
「う~ん、何だろう。ホイっとバトンを貰う感じ?」
「そうねー、手にパシっとバトンを渡せばいいよ?」
陽斗と成美は首を傾げながら答える。自分達でもなんで上手くいっているのはよく分からないようだ。
「いや、何言ってんのかよく分からない」
「なにそれ、2人とも感覚なの?」
2人の意味不明な解答に市原と三浦も首を傾げる。さっぱり理解できない。
「感覚でも共有してんのかよ」
「夫婦みたいー」
そんな陽斗と成美をニヤニヤと笑い、からかう市原と三浦。
「いやいやいやいや」
成美は顔を赤らめて両手を肩の前でブンブンと振る。
「あはは、夫婦だって! 俺ら気が合うのかもね!」
陽斗はそんな成美に満面の笑顔で見る。
「え、あ、あはは、そうだね」
成美は赤い顔をさらに赤くさせる。笑顔がきごちない。
三浦と市原は「罪深いやつだ」と陽斗を見る。これを無意識で言っているのだからさらに酷いやつである。
「そういえば、白石くんはー?」
見かけない白石を探してキョロキョロとする陽斗。白石もリレー代表だから近くにいるはずだ。
「白石はあっちで練習してるぞ」
市原が指さす方にはバトン練習をしている白石の姿があった。バトンはスムーズに白石に渡っていた。
白石は順番が交互の女子と普通に話している。そんな姿を見て陽斗はホッと安心する。
リレー練習の前、女子達が白石を怖がってビクビクとしていたから少し心配していたのだ。だが、それは大丈夫だったようだ。
「白石は凄いバトン渡し上手なんだよ」
「そうなの! 誰ともバトン渡ししてもうまくいくんだよ!」
市原と三浦は白石を絶賛する。
白石は相手の様子や状況をちゃんと把握して合わせているんだろう。白石はちゃんと周りを見ているのだ。
「おーい! 今から騎馬戦練習するぞー!」
遠いところから体育委員が陽斗達に呼びかける。
陽斗達は急いで皆の元へと走る。
「緑組と練習試合だ! 勝つぞ!」
我ら赤組の団長が皆に叫ぶ。
緑組は2年5組がいる。高柳と西島のクラスだ。負けられない!
陽斗はメラッと闘争心を燃やす。
4組には1つ、最強兵器がある。それは超大型の騎馬である。
180センチ越えの男らで作られた騎馬。上は運動神経抜群の陽斗。支えるのは市原、白石、そして体育委員の南くんである。
「チャンスがあったらどんどん突っ込んでいこ!」
「「「オーケー!」」」
陽斗が下の3人に呼びかける。4人は意気込み十分。
4組と5組、それぞれ騎馬を作り、横一列に並ぶ。準備は万端。
周りには両組の出ない男子や女子が応援に来ていた。
今、男達の熱いバトルが始まる!
ピーーという笛がなると共に、両チームの騎馬が動く。騎馬戦は作戦も必要となる。無闇に動く訳には行かない。
赤組は緑組に囲まれてしまった。作戦は緑組の勝ち。
しかし、ここから赤組の逆襲が始まる。
赤組がウワーと一斉に叫びながら緑組に突撃していった。
各地で起こる熱い戦い。
幸いな事に、赤組には強靭な男達が多かった。赤組の男達は緑組を押し倒し、すごいパワーで次々と緑帽子を取っていった。
だが、それは真ん中から半分側の方のこと。陽斗達がいるもう片方側は緑組が優勢だった。次々と取られていく赤帽子。
陽斗達は3人の騎馬に囲まれる。1つは高柳が乗り、西島とその他のメンバーが支える騎馬。
高柳はそんな絶対優勢な状況にニヤニヤとしている。陽斗達の敗北が決定しているといわんばかりの顔だ。
キャーと悲鳴を上げる赤組の女子達。
成美は必死に「頑張れー!」と叫んでいる。
しかし、超大型騎馬は強かった。陽斗は高い事を利用して1つの緑帽子を奪う。そして両方から襲ってた手を避けながらも1つを取る。
「今だー!」
そんな状況に焦った高柳が飛び込んでくる。それを読んでいた陽斗達が素早く避ける。
高柳達が少しよろめいたところをすっと帽子を奪う。
応援していた女子達が歓声の声を上げる。
高柳は半端なくショックを受けていた。あの有利状況で負けたのだから結構心にきているのだろう。それよりも緑組の女子の「あーあ」と残念がる声や「よっわ!」とけなす声にこたえていたのだろう。
その後も赤組は次々と帽子を奪い、赤組の勝ちで終わる。
「あの地味な人凄い!」と、赤組の女子達は騒いでいたという。
目立ってしまっていた陽斗であった。
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