39,ハプニング
とある休日、部活が終わり、陽斗は理髪店にいた。
ただでさえ長い髪がかなり伸びてしまい、皆に幽霊とからかわれたため切りにきたのだ。
「······くん、陽斗くん」
「ハッ!」
髪の毛を触られるのが気持ちよく、つい寝てしまった。
「すみません!」
「疲れてたんだな。もう終わったぞ」
寝てる間に終わっていた。陽斗は目の前にある鏡を見る。
「え!?」
陽斗は驚く。勢いよく席を立ち、鏡に映る自分を凝視する。
なぜなら、そこには短髪の人が映っていたからだ。長い髪で隠れていた顔が完全に露わになっている。
芸能人の時よりも長めだが、これで出歩いたら完璧にバレてしまう。
「な、なんで短く切ったんですか!?」
「え? 何も言わずに寝てしまったし、長いより短い方がかっこよくなるからさ!」
理髪店のおっちゃんは自慢げにドヤ顔をする。
いやいや、逆に困る! 寝てしまった自分が悪いんだけども。
とりあえずどうしようもないので、陽斗は眼鏡をして店を出る。家まで顔を下に向けて早歩きをして帰る。
幸いにも陽は沈んでいるため、道行く人には気づかれなかった。
家までの道は気付かれるのが怖くてドキドキだった。
家についてひと安心するものの、明日は学校である。
どうしようかと思ったが、マスクをつけていくことに決めた。不審者みたいになるがしょうがない。
サボるのも方法としてあるが、1日でも無駄にしたくない陽斗は速攻で選択肢から外した。
「お母さん、マスクどこにあるー?」
次の日の朝、いつもあるはずの場所にマスクがなく、陽斗は必死に探していた。
寝坊したのも相まって、既に時刻は7時10分。いつもは学校に早朝6時に着く予定であるのに。
タイミングが悪いことに、今日に限って白石は泊まっていなかった。
「マスク? 昨日全部使い切ったわよ」
「え!? そうなの!?」
昨日ちゃんと確認すれば良かったと陽斗は激しく後悔した。
ちづるはもう出勤しないとなので、マスクを買いに行く時間はない。自分で買いに行くしかない。
マスクは家から近い駅のコンビニにある。いつもの自転車で行く道には住宅ばかりで店はない。あるとしても学校の近くの駅にあるコンビニだ。
成宮高校の近くには別の高校がある。そのため、コンビニ周辺は学生がいっぱいで危険だ。それよりも通勤者や通学者はいるがまだ学生は少ない家から近いコンビニの方が気付かれるリスクは低い。
陽斗は覚悟を決めて家を出る。
いつも通り眼鏡をして、顔を下に向けて。
いつもの頼りになる髪がなく、陽斗は不安でしょうがない。バレたら怖すぎて、全く顔を上げることが出来ない。
陽斗は駅に着く。
現在7時20分という事もあって、思ったよりも人が多い。
陽斗は恐る恐るコンビニへと足を進める。
そこで、陽斗は急いでいたスーツを着たサラリーマンと激しくぶつかってしまった。
下を向いていて、横から走ってきた男性に気づけなかったのだ。
陽斗が着けていた眼鏡は地面に転がる。
「······チッ」
サラリーマンの男は舌打ちをして去っていった。
そして、陽斗は一人焦っていた。
どうしよう、眼鏡がどっかいってしまった! 今は顔が完全に開けっぴろになってる! やばい!
陽斗は顔を手で隠しながら、転がっていった眼鏡を探す。
「あった!」
幸いにも眼鏡は近くにあり、見つける事が出来た。陽斗はしゃがんでメガネを拾う。しかし、最悪な事に眼鏡のレンズが割れていた。落ちた勢いでそうなったのであろう。
これで、陽斗の顔を守るものは無くなってしまった。
陽斗はしゃがんだまま悩んだ。このまま帰るか、コンビニに行くか。
今はモロ"青羽 瞬"であるため、危険度MAXだ。
「え、待って、あれ、"青羽 瞬"じゃない!?」
しゃがんでいた陽斗を女子高校生2人が指差して騒ぎ出す。
陽斗は思わず顔を上げる。
「え、まじじゃん!」
「めっちゃカッコイイ!」
「やばいやばい!」
駅中が騒ぎ出す。連鎖は凄い。どんどん人が集まってくる。
さらには近づいてきて、握手やサインや写真まで求めてくる。
"元"芸能人なのにこんなに!?
陽斗は思ったよりも凄い騒動になり、驚き焦る。
と、とりあえず今はここから逃げないと!
「す、すみません!」
陽斗はダッシュでその場から走って逃げる。
そして、誰もついてきていないことを確認し、家の中に逃げ込む。
「ふーーーー」
とりあえず、ひと安心する。
しかし、やばい事になった。
もう"青羽 瞬"が駅にいた事は広まってもいい。だけど、俺が"青羽 瞬"っていうことはバレないでくれ! と祈る。
でもまあ"元"だし、そこまで影響はないよねと気持ちを切り替える。
今はマスクも眼鏡もないので、悲しいが今日は学校を休む事にした。
明日にはもう何事もないだろう、そう思って陽斗は家の中でのんびりすることにした。
もう今この時にSNSなどで大騒ぎになっていることも知らずに────
読んで下さり、ありがとうございます₍˄·͈༝·͈˄₎




