34,美術の授業
「おーい、今宮、高柳、美術室行くぞー!」
市原が教室の入口から大声で叫ぶ。西島と市原は既に用意が出来ていた。
「あ! ちょっと待ってー!」
「待ってくれー!」
陽斗はロッカーから道具をとり、2人の元へ急ぐ。高柳はロッカーが汚すぎて中々教科書が見つからない。
3人は高柳の「待ってー!」という声を無視して美術室へ向かう。
高柳のロッカーは半端なく汚い。ぐちゃぐちゃに教科書やらプリントやらが詰まっている。待っていたら授業に間に合わないので、いつも置いていかれるのだ。
3人は廊下を歩く。
前から金髪の派手な生徒が歩いてきた。
「おおー、白石くんじゃん。やっほー!」
陽斗は元気よく白石に手を振る。市原と西島も軽く手を振る。
周りの人々はギョッとして陽斗達を見る。学校内で恐れられる存在に声を掛けているのだ。
しかし、バスケの面々は既に白石と打ち解けていた。
白石は根っこはいい人なので、それに皆は気付いたようだ。
「おお」
白石も3人に気づいて軽く手を上げる。
「白石、今登校?」
市原が聞く。
白石は制鞄を持っていた。既に今はお昼休みを過ぎて5時間目である。
「保健室で寝てた」
「え!? 今まで!?」
陽斗が驚いて思わず声がでかくなる。
「眠かったから」
白石はあくびをする。昨日は街をさまよっていて寝てないらしい。
「部活までには体調整えといてね! 今日は部活激しいメニューだから!」
「おー」
白石は軽く手を振って歩いていった。
3人は美術室へと入る。
美術室は教室よりも一回り大きく、大きな4人がけの机が10個程ある。
陽斗達はいつもの窓側の1番前に座る。
「はーい。では、今日は自分の似顔絵を書きまーす!」
美術の先生が明るい笑顔で生徒に呼びかける。若い女性の方で、いつも元気。度々コンテストにも作品を出品しているらしい。作品に対しての熱が凄い。
「わー、まじかー」
「自分の顔とか描けねぇし」
「絶対ブスになるわー」
生徒達はぶつくさ言いながら準備に取り掛かり、描き始める。
陽斗も黙って真剣に鉛筆を走らせて自分の顔を描く。
もちろん絵は眼鏡付きである。
描き始めてから20分、塗り始める人も出て来た。
陽斗は今だ自分の顔を下書きしていた。周りにはたくさんの消しカス。格闘しているのがよく分かる。
「よっしゃー、出来たぜー!」
高柳が思いっきり背伸びをして叫ぶ。どうやらもう色塗りまで終わったらしい。
「はや!」
陽斗は思わず声を出す。
「ふっふっふ、俺は効率がいいからな」
高柳はドヤ顔をして、決めポーズまでする。
「いや、ただ雑なだけだろ。絵を見せてみろ」
市原が突っ込む。
そして高柳の絵を見ると、そこにはなんとも言えない微妙な顔があった。実物よりもかっこいい気がするのは気のせいだろうか。
「ブハッ!」
高柳の絵を見て、三浦が肩を売るわせて笑っていた。
「三浦! 何笑ってんだ!」
そんな三浦を見て高柳が怒る。高柳にとっては力作らしい。
「い、いや、絶対これ、自分の顔加工してるでしょ······」
三浦は笑いが止まらないほど、この絵が面白いらしい。
「なんだと! ちゃんと自分の顔を細かに再現したぞ!」
「だって、高柳の目こんなに大きくないでしょ。もっと細いし、つり目だし。輪郭もシュッとさせてるじゃん」
三浦は的確に絵と顔を比べる。
「確かに」
「お前、詐欺ったのかよ!?」
わんやわんやと盛り上がる中、陽斗は真剣に絵を描いていた。皆に遅れて塗りに入り、ようやく終わりが近付いてきた。
「よし、終わった!」
西島が自分の絵を見ながら満足そうに頷く。
「どれどれ」
近くにいた先生が来て西島の絵を見る。
「な······なんと素晴らしい似顔絵なの!?」
先生は西島の絵を持ち上げて感嘆の声を上げる。そして、西島の実物の顔を見比べる。
「な、なんという細さ。色の使い方も上手。凄いわ。あなた、本当に初心者?」
「そうですけど······」
西島は顔を近付かせてきた先生の勢いに押されつつも答える。
「そんなの!? あなた天才だわ! 美術部に入ろう! 私がもっと色々教えてあげるわ!」
先生が西島に迫って熱い視線を送る。
「あ、あの、すみません。俺、バスケ部なので······」
「ダメよ! 絶対美術部に入って! 宝の持ち腐れよ!」
先生は必死に西島を説得するのだった。
「終わったぁーーー!」
そんな騒がしい中、ついに陽斗の絵が終わる。陽斗はやり切ったかのようにしている。
「あ、今宮終わったの? 見せて!」
成美が陽斗の声に気づき、こちらに来て陽斗の絵を覗く。
「あ、な、なんというか、斬新だね······」
成美は絵を見て一瞬驚いた顔をして、ぎこちない笑顔で笑う。
「お! 今宮、見せろ!」
既に終わっていた市原も覗きに来る。しかし、絵を見た瞬間顔が固まり、「ブフっ!」と吹き出す。
「いや、それヤバすぎるだろ!」
市原が目に涙を浮かべながら爆笑する。
「え? 見せてみろよ」
市原の反応に皆は興味を持ち近付いてくる。
「ブハッ! 何だよこの絵!」
「お化けじゃん! 怖いんだけど!?」
「これはヤバい······」
陽斗の絵を見た皆が驚いたり、爆笑したり、恐怖の目で見たりと様々な反応をする。
陽斗の絵はとんでもなく下手だった。そこには人間とは思えない生き物が書かれてあった。
歪んだ輪郭、長い顎、ボサボサな髪、そして鼻や目や口の配置がかなりズレている。どうしたらこんな絵ができるのか逆に謎である。
何故か肌は黒人のような色で塗ってあり、唇は紫である。
なんでこういう色にしたのかを聞くと、自分でも分からないそうだ。無心で描いていたら、気付いたらこういう風になっていたらしい。奇妙な話である。
「わお、独創性がある絵ね······」
先生が陽斗の絵を見て、なんとも言えない顔をしている。感想を言えないくらいひどい絵なのだろう。
「ありがとうございます!」
陽斗は褒められたと思い、嬉しそうにする。
「「「「褒めてねえよ!」」」」
皆は勢いよく突っ込む。
完璧のように思えた陽斗の意外な弱点は、絵であった。
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