33,友達のヤンキー
すみません、おくれました( _ _)
「ただいまー!」
「おかえり。遅かったわね」
陽斗の元気な声に陽斗の母、今宮ちづるが気付いて、リビングから出てくる。
ちづるはかなり美人であった。長めの黒髪を後ろで結んでいる。40代とは思えないほど若く見える。
「あら、お友達?」
ちづるが陽斗の後ろにいる白石に気づく。
「そう、さっき会ったんだ! 白石くんもご飯一緒に食べていい?」
「あら、かっこいい友達ね。いいわよ、上がって」
ちづるはにこりと笑う。陽斗の笑顔にとても似ている。
「あ、お、お邪魔します」
白石は初めての場所に恐る恐る入る。
今宮家は駅から徒歩3分の所にある5階建てのビルの一室を借りている。陽斗とちづるの2人暮らしである。
「ちょっと着替えてくる!」
陽斗はそのまま自分の部屋に行く。
白石とちづるはリビングに入る。
「あ、あの、遅くにすみません」
白石が控えめな態度で申し訳なさそうにする。今は22時を回っている。そんな時間に人の家に行くのは迷惑である。
「いいのよ。どうせ陽斗が引っ張ってきたんでしょう? あの子は少し強引なところがあるから」
ちづるはにこりと白石に笑いながら、夜ご飯の準備をする。
「あなたみたいな友達がいてくれて嬉しいわ」
ちづるは嬉しそうに笑う。
「え、でも、俺、全然真面目じゃないんですけど······」
白石は少し顔をうつむかせる。友達がヤンキーだったら悪影響を与えると思われるのだろう。
「でも、優しい目をしてるじゃない」
ちづるは白石の目を真っ直ぐ見て笑いかける。
白石はバッと顔を上げる。
「あんな子だけど、これからも仲良くしてくれたら嬉しいわ」
「あ、はい、こちらこそ······」
白石は少し照れたようにする。
「ごめーん、遅くなったー!」
そんな中、陽斗が楽な格好に着替えてリビングに入ってきた。
「それじゃあ、3人で食べましょうか」
ちづるは料理をダイニングテーブルに置く。今夜はロールキャベツである。綺麗に巻いてあり、美味しそうな香りがリビングを包む。
「うわあ、美味しそう! いただきます!」
陽斗は早速ロールキャベツにがっつく。
「おかわりあるから、白石くんもたくさん食べてね」
「はい、ありがとうございます」
白石も美味しそうに食べる。
3人はたくさん話しながら食べた。
気付けば、もう23時を回っていた。
「白石くんはもう帰らないと親御さんに心配されるよね?」
ちづるが心配そうにする。時間は遅いし、外はとても暗い。
「白石くん、泊まっていこうよー」
陽斗はまだ白石と話したく、名残惜しそうにする。
「いや、それはさすがに」
「えー、もう俺ん家に住もうよ!」
白石の家の事情の事も陽斗は心配していた。帰りたくないなら、自分の家に住めばいいのにと本気で思っている。
「でも、今日は帰る。ありがとうございました」
白石は渋る陽斗を振り切って玄関へ行く。
「白石くん、いつでも来てね。待ってるわ」
ちづるも少しばかり名残惜しそうに寂しそうに笑いながら、白石を送る。
「ありがとうございます」
白石は丁寧に挨拶をして玄関を出る。
「あ! 明日放課後3組に来てね! 待ってるから!」
陽斗は玄関から出て白石に向かって叫ぶ。
「分かった」
白石は小さく呟いてビルから出て行った。
「······大丈夫かなぁ」
陽斗は小さくなっていく白石の背中を見ながら呟く。白石にちゃんと帰る場所があるのか不安になったのだ。
「あの子、家の事情があるの?」
ちづるがそんな陽斗の態度に察する。
「そうなんだよね。帰りたくないって言ってたから、余程事情があると思う」
「それじゃあ、これから白石くんを毎日家に呼ぼうか! 向こうがいいならお泊まりもいいんじゃない?」
「あ! そうだね! そうする!」
ちづるの提案に陽斗はノリノリで乗る。
これで少しでも白石くんの居場所を作ってやれるかなと陽斗は嬉しくなったのだ。
陽斗とちづるはかなりのお人好しであった。
***
「なあ、今日新しく誰か入部すんのか!?」
「そうなの?」
次の日の放課後、部活前に市原が陽斗の席に凄い勢いで来る。その声に西島も気になって陽斗の席へと来る。陽斗がキャプテンに入部者の話をしたのを聞いていたらしい。
「そう! 白石 廉くんって言うんだー」
陽斗は嬉しそうに笑う。
しかし、その瞬間2人は固まる。
「え!? ちょちょちょちょ、待て待て待て! それってヤンキーのやつだよな!?」
「え? そうだね、見た目は派手だけど、めっちゃいい人だよ?」
陽斗はそんなふたりの焦った様子に疑問を持つ。なんでそんな反応をするのか謎である。
「いや、やべーーって! だって、この街で喧嘩1番だぞ!? 今すぐ入部辞めさせろって!」
市原は半端なく焦って早口で語る。そこまで白石をバスケ部に入れたくないらしい。
「あ、おーい、今宮ー」
そこに白石が廊下から陽斗を呼ぶ。
2人だけでなく、クラス中の動きが固まる。恐ろしいヤンキーが喧嘩を売りに来たのかと青ざめる。
「あ、白石くん! 良かった、来てくれたんだー! じゃあ早速体育館に行こう!」
ただ1人、陽斗だけは普通に何ともなく接する。クラス中が驚き、そして更に青ざめる。そんな風に話しかけたら殴られると誰もが恐怖になる。
「おー」
白石はぶっきらぼうに答える。
あれ、何ともないとクラス中が驚く。
「あ、市原くんと西島くんも行こー!」
固まっている2人に陽斗は声を掛ける。
「お、おう」
「うん······」
そんなわけで、ヤンキーがバスケ部に入部することになった。
そして、白石は今宮家に通うようになり、泊まることも増えていった。
白石は今宮家の仲間入りになった。
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