32,喧嘩に遭遇
部活が終わり、剛力との1on1も終わり、陽斗は暗い中自転車を引いて帰っていた。
あ~、今日も楽しかったな~とニヤニヤして歩いていた時だった。
バキッ、ボコッ、グホッという鈍い音が路地裏から聞こえてきた。
陽斗はピタッとその場に立ちすくむ。
え、なに!? 怖い!
陽斗は暗い住宅地に響く突然の不振な音に驚く。どうやら次の曲がり角の路地裏から聞こえるようだ。恐怖よりも好奇心が打ち勝ち、そろーと路地裏を覗く。
そこにはたたずむ男が1人。よく見れば、彼の周りには数人の男達が倒れている。
え······!? まさか不良の喧嘩ってやつ?
あんまり関わるのは危険だと思い、陽斗はそのまま静かに退散しようとした。
しかし、倒れていた男の1人が立っている男に殴りかかろうとしていた。立っていた男は終わったと思い油断しているのか気付いていない。
「あ、危ないー!」
陽斗は咄嗟に近くに転がっていたペットボトルを殴りかかろうとした男に向かって投げる。
ドガッという鈍い音がして、見事に頭に命中。
一瞬動きが止まった相手を男が躊躇なく殴り倒す。
わお、凄い生々しい。というか、1人でこの人数を倒したのか、強いんだなぁ。でも、まあ、うん、俺は部外者だ。失礼しました。
陽斗はコソコソと通り過ぎようとした。
「おい、お前」
助けた?不良の男が陽斗に近付いてくる。
ビクッと陽斗の肩が上がる。自分も殴られるのかと青ざめる。
「ペットボトル投げたやつだよな? 助かった。ありがとう」
······え? お、お礼を言われた? 思ったより悪い人ではない?
陽斗は咄嗟に顔を上げる。
そこには金髪、耳や口にピアスをした不良がいた。制服を着ているので高校生だろう。
ほおおお、生の不良やー! 初めて近くで見た! 凄いなぁ。
陽斗はついじっと不良を見る。
陽斗にとって不良は少し憧れである。高校で金髪とかピアスとかは自分には出来ないことだ。そういう自分が好きなように生きる人はかっこいいなと思うのだ。
「おい、ジロジロ見てんじゃねえぞ」
「あ、す、すみません! 格好がかっこいいと思ってつい······」
「······は? かっこいい?」
「はい! 金髪キラキラしてるし、ピアスとかめっちゃイケてるし、制服の着方とかかっこいいです!」
陽斗はキラキラとした目で目の前の不良を見る。
「あ、そ、そう」
不良の男は陽斗に褒め言葉を沢山貰い、更にそんな目で見られ、少し戸惑っている。
「あ、成宮高校ですか?」
よく見ると、不良の男の制服のボタンの紋章は成宮高校のものであった。
「あ? そうだけど、お前も?」
「そうです! 何年生ですか?」
「······1年」
「あ、俺も1年! 名前はなんて言うの?」
陽斗は同じ学校だと聞いて親近感が湧き、つい質問を畳み掛ける。
「······白石 廉」
「俺、今宮 陽斗! よろしく!」
陽斗は満面の笑顔で白石に握手を求める。
「よ、よろしく」
白石も戸惑いながら、陽斗の笑顔に押されて手を握る。
陽斗の質問にもちゃんと答えてくれ、普通にいい人そうである。
2人はその後も場所を変えて話した。お互いの事、学校の事、結構色々話した。
それで白石は学校はたまに行くが授業をサボり、ヤンキーなので生徒にも先生にも恐れられている事、喧嘩に関しては売られたものを買っていたら、気づいたら町で最強になっていた事などを話した。
「白石くんは夜遅くまで外にいるの?」
時刻は既に22時を回っている。
「······家に帰りたくねぇから」
白石は下を向いてぼそっと呟く。
どうやら、何か深い事情があるらしい。
どうにかしてあげたいと陽斗は強く思った。白石はきっと何もしたいことがないから毎日をふらふらと生きているのだろう。何か楽しい事を与えたい!
そこで陽斗はパッと閃いた。
「白石くん! バスケ部に入ろう!」
陽斗は立ち上がってギラギラとした目で白石を見る。
スポーツは誰もが平等に楽しめるもの! そして熱中出来る! 白石は身長高いからバスケ合ってるんじゃないかな。
「······え?」
白石は突然の勧誘に驚く。そして、少し考えた後、「いいよ」と小さく呟いた。
「よっしゃー! じゃあ、明日キャプテンに言っとくから放課後3組に来て! そういえば、白石くんはまだご飯食べてないんだよね?」
「あ、まあ、そうだけど」
白石は陽斗の勢いに少し押されながら答える。
「そんじゃー、今から俺ん家で食べよ! 俺も今から帰って食べるところだし!」
陽斗は白石を引きずって行く。
「え、でも、夜遅いからいい」
「いや、大丈夫! 家にはお母さんしかいないし、友達なら大歓迎だよ!」
陽斗は大きく笑う。
「えー······」
白石は戸惑いながらも何も抵抗しない。どうせこの後何もないしいいかと思い、陽斗にされるがままである。
しかし、"友達"という言葉には少しばかり反応していた。
白石はこのまま今宮家へと引きづられていくのだった。
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