30,久しぶりの集まり
すみません、おくれました<(_ _)>
原因不明の嘔吐下痢に見舞われました。
それと、長めです!
体育館が工事で使えず、休みとなった休日のとある日。陽斗は近くの行きつけの理髪店で髪の毛をセットしてもらっていた。長め髪は後ろに流す。久しぶりに自分の顔が露わになる。
なぜこういう事をしているのかというと、今日は仲良かった芸能人の皆とお食事をするのだ。冴木が主催で、小規模のものである。
さすがに地味なままなのは嫌なので、今セット中なのである。
「やっぱ顔出したら美形だなぁ!」
理髪店のおっちゃんが食い入るように陽斗の顔を見る。
「いやあ、そんなこと······。それじゃあ、ありがとうございました」
陽斗は代金を支払い、マスクを深く被って外に出る。
今まで長い髪が邪魔だったが、今回はそれがなく新鮮である。少しバレないか心配なので、うつむき加減で食事会場へと向かう。
冴木に言われた場所に着く。高級そうな焼肉店である。さすが芸能人様だなと思いながら店に入り、個室に案内される。緊張しつつ個室に入ると
「おおお! 瞬じゃねえか!」
30代後半の男性が陽斗に気づき、めっちゃ笑顔で手を振る。この方は、園田 明広といい、様々なドラマや映画に出演している超実力派俳優。陽斗の師匠的存在でもあり、芸能界時代は随分とお世話になった。
「あ! 瞬くん!」
「瞬さん! お久しぶりです!」
「お久しぶりです、皆さん」
他のメンバーも陽斗に気づいて、嬉しそうに声をかける。
「瞬ー! 会いたかったぞぉー!」
とある男子が陽斗に思いっきり抱きついてきた。この人は荒井 爽司といい、主に俳優として活躍。濃い顔でイケメンで、身長も高く、女性からのファンも多い。結構熱い性格でいつどんな時も半端なく明るく、みんなから好かれている。たまにうざい時はあるが。陽斗の4つ上で、結構仲がよかった。
「よう、瞬! 今日はお前のための会だからな。皆、瞬に会いたい会いたいってうるさかったんだよ」
「だって、亮くんばっかりずるいじゃん」
冴木の発言に怒ったように頬を膨らませるのは、有栖 奈那。超美少女で、モデルや女優やテレビにも引っ張りだこの、今をときめく超人気芸能人。陽斗とは共演が多く、同じ歳で、さらに子役の時から一緒でもあり、女性芸能人の中では一番仲が良かった。
「まあまあ、とりあえず座れよ」
そう促されて、陽斗は空いていた冴木の隣に座る。
「で、瞬さんは今までどこで何をしてたんですか!?」
陽斗の目の前に座る童顔の男子が陽斗に興味津々で聞いてくる。その子は七瀬 湊。同じ事務所で1個年下の超人気アイドルの1人である。人懐っこい子でワンちゃんみたいに可愛い子で、先輩である陽斗と冴木は結構面倒を見ていて後輩の中では1番仲がいい。
「えっとね、一般人として普通の高校に通ってるよ」
「え!? でも普通バレるだろ!?」
「そうですよ! ただでさえこんな容姿なのに超有名だし!」
皆が驚く。そりゃ、元とはいえ超人気芸能人の1人。このまんま外に出れば騒がれること間違いなしである。なのに、今の今まで全く情報が掴めていない。消えたとまで言われるほどだ。
「まあまあ、皆さん、これを見てください」
冴木はニヤニヤしながら自分のスマホを皆に見せる。その画面にはなんと、陽斗の変装の地味な姿が映されていた。公園で撮られた時の写真である。
「え、誰? この人」
「まさか、瞬か!?」
「え!? この人が瞬さんですか!?」
皆が驚いて写真の陰キャの人物と目の前にいる陽斗を比べる。
「そうです、これが今の瞬です」
「ちょ! 亮くん!」
陽斗は必死に冴木の持つスマホを奪おうとする。
「ブハッ! これが瞬かよ! まじウケる!」
爽司が笑い転げている。こいつ、やっぱりウザイ!
「しかし、まあ、流石だな。これ、俺が見ても分からんなあ」
「同感です」
園田と湊が感心そうにする。
「まあ、俺は一目で分かりましたけどね」
ドヤ顔をする冴木。
「私も絶対分かる! だって、この中で一番付き合い長いのは私だもん!」
奈那も胸を張る。さっき「誰? この人」って言ったのは誰だったかな?
「しかしよお、俺達凄い心配したよ。急に芸能人やめますって言われて、突然姿を消すもんだから。死亡説なんてあったんだからな」
「え!? 死亡!? えっと、本当にすみません。色々ありまして······」
「まあ、元気そうで安心したわ」
園田の言葉に皆がウンウンと頷く。どうやらかなり心配させてしまったようだ。申し訳ない。
「今の生活はどんな感じなの?」
奈那が興味津々に聞いてくる。
「めっちゃ楽しいよ! 初めての事ばかりだし、友達も皆いい人で!」
陽斗はとても嬉しそうに語る。
「そうなんだ。嬉しいけど、なんか妬く~」
奈那が何故か悔しそうに陽斗を見る。
「奈那ちゃんは瞬のこと小さい頃からめっちゃ好きだもんな~。常に一緒にいて離れないし、ついには結婚するなんて言い出してよ」
園田が懐かしそうに語る。
「ちょっと園田さん! 昔の話は止めてください!」
奈那が顔を少し赤くする。
「皆さん、瞬がどんな生活を送っているのか気になりませんか?」
「気になる!」
「陰キャとしてひそひそと暮してるんだろ?」
冴木の発言に皆が興味津々にする。
「まず、これを見てください」
冴木は再びスマホをみんなに見せる。そこには『初出場の成宮高校、ベスト8!』という記事が映されていた。
「あ! 僕これ知ってます! 確か、半端なく強いエースがいるんですよね!」
湊が少し興奮する。確か、バスケ好きって言ってたような。
「そうだ、そのエースの写真を見てくれ」
冴木はその記事にあった成宮高校バスケ部のエースの写真を皆に見せる。
「お? 思ったより地味な人だな」
「え、これ、さっきの瞬くんの変装に似てない!?」
「は! 確かに! え!? お前、エース!?」
皆が再びスマホの画像の人物と陽斗を見比べる。
「そうです、まさかの瞬です」
「ちょ! 亮くん!」
再び冴木のスマホを奪おうと試みるが、かわされる。
「ブハッ! そんな格好でエースしてんのか! ウケる!」
爽司がまた笑い転げている。ウザイなぁ、この人。
「瞬さん、今度はバスケで活躍してるんですか!?」
湊が陽斗をキラキラとした目で見る。
「えっと、まあ、成り行きで?」
「凄いな! お前バスケも出来たんだな!」
「瞬くん、小学校の時から上手だったもんね~」
園田と奈那は感心して陽斗を見る。
「ちょっと、亮くん、やめてよ」
陽斗は怒る。この男は意地悪ばかりである。人のプライバシーを2回も傷つけて!
「ごめんて、陽斗の近況を知らせただけだよ。まあ、何も言わずにいなくなった罰だな」
冴木はニヤニヤする。全く反省していない。でも、そう言われたら何も言えない······!
「そういえば、皆さんはどんな感じです?」
「聞いてくれ、瞬! 俺な、ついに映画主演だよ!」
爽司がドヤ顔で自慢する。
「まあ、本当は瞬にオファーする所だったけど、引退したもんだから爽司に回ったって話だけどな」
「ちょっと、園田さん! それ言わないでくださいよ!」
爽司が慌てる。さっきまでのドヤ顔はどこに行ったのやら。
「私はね、ミンミっていう専属モデルになったよ~。あとね、ドラマにも出るのー!」
奈那が嬉しそうに語る。
「僕は今度の3月にアルバム出すんですよー! 夏くらいにLIVEもします! 初めて全国回るんです!」
湊も嬉しそうに言う。
皆、それぞれ活躍してるんだな~。すごい。
陽斗は感心する。
「なんだよ、瞬。芸能界戻りたいとか思ったかー?」
冴木がニヤニヤして陽斗を見る。
「ま、まあ、ちょっと。でも、今の生活も凄く楽しいから!」
陽斗は少しムキになりつつ言い返す。
「まあ、戻りたくなったらいつでも待ってるぜ。俺の一番弟子だしよ!」
「瞬くんは瞬くんで頑張ってね!」
「僕のLIVEにでも来てくださいね!」
「俺の映画も見に来いよー!」
「み、みんな······」
皆が暖かく声を掛けてくれる。陽斗は少し涙ぐむ。
そうして、皆との久しぶりの楽しい時間は終わりを迎える。自分のためにこうして集まってくれて嬉しかった。
陽斗はルンルンの足取りで帰るのだった。
***
次の日、ある記事が世間を騒がせた。『青葉 瞬、ついに姿を現す!?~仲良かった芸能人仲間と高級焼肉店で食事~』という内容とともにマスクをして皆と出てくる姿を撮った写真がある雑誌に掲載された。
引退してから全く足取りが掴めなかった彼の突然のニュース。
彼のファンはとても喜んだ。その日のSNSは荒れた。
次の日、陽斗は部活に行ってその事を知り、半端なく驚いたのはここだけの話。
読んで下さり、ありがとうございます!




