2,転校生
晴れて高校生となった今宮 陽斗(元超人気芸能人の青羽 瞬)は、高校まで案内してくれた成美と別れて校長室にいた。
校長室には沢山の本や書類が大きな本棚に入っている。そして、奥にある大きめの机。
ドラマでのセットの校長室は入ったことはあるけど、生の校長室は初めてである。やはり本物は雰囲気が違う!
校長室は入れないものだと思っていた。しかし、登校初日に入れた事で気分が高ぶり、落ち着かずそわそわとしていた。
「今宮くん、大丈夫? 緊張してるのかい? 今までアメリカにいたから慣れるのは大変だと思うけど」
「あ、はい! 大丈夫です! また違った雰囲気で楽しみです!」
実は、学校では帰国子女という扱いなのである。まあ、父がアメリカ人だから、実際アメリカにいた時期はあった。英語もペラペラなのでそういう扱いに問題はない。
「それじゃあ、今から教室に行こうか。君は3組だよ。それで、こちらは担任の葉山 修先生。それじゃ、後は頼んだよ」
校長先生が手を向けて紹介する先には、ワイルドそうな男の先生が1人。
「これからよろしくな、今宮。そんじゃ、教室行くぞー」
軽そうな先生であるが、悪い人ではなさそうだ。
二人は細くて長い廊下を歩く。
「お前のクラスは良い奴ばかりだから安心しろ。今から教壇の上で挨拶してもらうけど、大丈夫か?」
あ······挨拶! 転校生の定番のやつだ! やっぱり来た!
「は、はい! 大丈夫です! むしろ楽しみです!」
「楽しみ? 普通は緊張する所なんだけどな。今宮は見た目によらず堂々としたもんだな!」
先生に何故か褒められる。まあ、受け取っておこう。
というか、さっき見た目によらずって言った? 少し失礼だ。
だがまあ、"青羽 瞬"だと全然バレてない。これはいけると、陽斗は自信を持つ。
「そんじゃ、入るぞ」
陽斗はドキドキした。これからどんな生活が待ってるのか、どんな人達がいるのか。この扉を開ければ、憧れの青春が始まる!
先生がドアを開け、教室にどかどかと入る。それに陽斗も続く。
陽斗をクラスの皆は興味津々に見つめてくる。
「皆、おはよう! 知ってると思うが、新しくこのクラスに加わる者がいる。じゃあ、挨拶宜しく」
陽斗は教壇に立ち、顔を上げて教室を見渡す。皆じっと陽斗を見ている。ふと、一番後ろの窓から二番目に座る成美と目が合う。お互いにニコッと笑い合う。
良かった、林さんと一緒のクラスだ! そして、今日から俺が過ごすクラス! やっぱり生の教壇からの眺めは違うなあ! 友達何人できるだろう!
そう思いつつ、ドキドキしながら自己紹介をする。
「今宮 陽斗です! アメリカから親の転勤の都合で引っ越してきました。色んな事を教えてくれると嬉しいです。これからよろしくお願いします!」
陽斗はきちんとミスすること無く挨拶をする。ここで、芸能界で培った人前での喋りが役に立つ。
「え!? 帰国子女!?」
「かっけー!」
「英語ペラペラなのかな!?」
陽斗の自己紹介にどよめくクラス。
「そんじゃあ、今宮の席は窓側の一番後ろだ」
陽斗は周りの視線を浴びながら、自分の席に座る。隣に座る成美と目が合う。
「席隣だね」
「だね! よろしく!」
ヒソヒソと二人しか聞こえない小声で会話をする。みんなにバレずに会話する、これもまた青春だな。うん。
「じゃ、皆、今宮に色々教えてやってくれ」
そう言うと担任はさっと教室から出ていった。その瞬間、教室にいるみんなの意識は後ろの窓側の席に向けられた。
「おい、お前、帰国子女なのか!?」
「英語喋れんの!?」
「どれくらいアメリカにいたの!?」
生徒達が陽斗の席の周りに集まり、あれよこれよと質問を浴びせる。
おお、おお! いきなりの質問攻め! 挨拶に続き、転校生あるあるのやつだ! もう、既に楽しい! 青春だ!
陽斗は早くも青春を感じる。というか、学校生活の何もかもを青春と結び付けすぎ気もするのだが。
「そうだよ、アメリカに5年くらいいたかな」
実際は1年である。それ以外は祖父母がアメリカに住んでいるため、長期休暇の時はよく遊びに行っていたくらいだ。
「すご!」
「英語喋ってみて!」
ということで、陽斗は軽く英語でペラペラと挨拶してみる。
「うおー! 発音すげー!」
「外人みたいー!」
「え? てか、今宮って日本人なの?」
「あ、確かに! ハーフとか?」
皆が陽斗の顔をまじまじと見てくる。
「父がアメリカ人で、母が日本人のハーフだよ」
「すげえ、グローバルだな!」
「ハーフか! かっけぇ!」
三組の皆は、見た目陰キャの陽斗にたくさん会話をしてくれる。どうやら、先生の言う通り、優しい人達ばかりのようだ。
この後も授業が始まるまで、陽斗は会話を楽しんだ。
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