12,かつての友人
放課後、陽斗を含めたバスケ部員は学校の敷地内で外周をしていた。陽斗は芸能人の頃は忙しくて走り回っていたため、体力はある。何とかついて行っていた。
校門付近を通る際、何やら人がたくさん集まっていて皆キャーキャーと盛り上がっている。
「これ、何?」
陽斗の近くを走っていた市原が輪の近くにいた男子の1人に聞く。
「それがさ! 冴木亮がいるんだよ!」
「はあ!? あの芸能人の!?」
市原は口をあんぐりと開けて驚く。陽斗も驚いて声が出ない。
冴木亮、それは誰もが知る名前だ。"青羽瞬"にも劣らないほどの超人気芸能人である。キリッとしたとても整った顔立ちで、スタイルもよい。
"青羽瞬"と冴木亮は同じ会社に所属しており、歌もダンスも出来たため、一時期ユニットを組んでいたこともある。
高三で歳も近いため、陽斗は兄のように慕っていた。
なぜ彼がこんな所にいるのか不思議でならない。何か撮影しているのだろうか。まさか、陽斗がその高校に通っているなんて事は知らないはずであろうし。
陽斗は戸惑う。会いたい。目の前にかつての友人がいる。でも、そんなことしてしまえば目立ってしまう。周りの皆に正体がバレてしまうかもしれない。
陽斗は無視を決めた。髪の色も長さも変わっているし、眼鏡も掛けているから絶対に気付かないはずだ。
そう思い、このままここを突っ切って走る事にした。
だが、せめて彼の姿を一目見たいと思ったのが凶と出た。走りながら彼のいる方向へ目をやった時、目が合ってしまったのだ。陽斗は慌てて目を逸らし、そのまま走り去ろうとする。
しかし、それは叶わなかった。
「あ! しゅ······陽斗!」
冴木はなんと陽斗に気付き、明らかにこっちを見て手を大きく振り出したのだ。
陽斗は慌てる。周りの皆も一気にこちら方に注目し始めたからだ。
なぜバレてしまったのだろう。自分の変装は完璧なはずなのに。それに、彼は今"瞬"と呼ぼうとしたのだ。
陽斗の頭は一気に混乱し、ただ"この場から逃げる"としか考えられなくなった。
陽斗は無意識に走るスピードを上げる。
「お、おい! 今宮! お前、呼ばれてんぞ!」
市原が陽斗の手をガシッと掴む。おかげで陽斗の足は止まってしまった。慌てて彼の手を振り払って陽斗はその場から逃げようとするが、時すでに遅し。
「ねえ、君、陽斗だよね? 今宮陽斗だよね?」
冴木が人をかぎわけながらこちらへ近付いてくる。
やばい、つんだ······。皆、こちらを好奇の目で見ている。何であんな陰キャっぽいひとが、あの冴木と知り合いなの!? とでも言いたげだ。
「そ、そうだけど······」
陽斗は顔を俯きながらぼそっと呟く。
「陽斗! 久しぶり! 会いたかった!」
冴木が陽斗に抱きつく。それに周りの皆がキャーと騒ぐ。
「ちょ! 亮くん!?」
陽斗は慌てる。そんな事をしたら目立つに決まっている。
「てか、なんでそんな格好してるの? 前は短髪黒────」
「あーーーーーー!!」
陽斗は慌てて冴木の口を塞ぐ。
危なかった。あと少しで彼の口からNGワードが飛び出すところだった。
ここは、学校の校門付近。こんな所にいると目立ってしょうがない。この男、すぐには帰らなさそうだし。
「ちょっと来て!」
陽斗は冴木の腕を掴んで一緒に校門の外へ出る。とりあえず、人気のない所に行くのが大優先である。陽斗は冴木の腕をぐいぐいと引っ張っていった。
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