129.西島の怪我
皆さん、お久しぶりです!
一年以上も更新していなくてごめんなさい…
のんびり投稿ですが、完結にむけて突っ走っていくので今後ともよろしくお願いします!!
インターハイ予選まで、残り2週間をきった。
成宮高校バスケ部は、この日もインターハイに向けて練習に励む、いつも通りの日となるはずだった─────
練習試合の最中、ドンッという鈍い音が聞こえた。
そちらへ目を向けると、西島が右足を抑えて座り込んでいた。
「大丈夫!?」
立ち上がらず、顔をしかめる西島の元へ、陽斗は駆け出す。それを合図に、皆も西島の元へ集まり出す。
「転んだのか!? 大丈夫か!?」
「足、痛い!?」
いつもなら、ぶつかって倒れたとしても「大丈夫」と、笑顔で立ち上がる西島。だが、今日は様子が違う。
そんな状況に、皆はただならない空気を感じて焦る。気付けば、体育館にいた全員が西島を囲んでいた。
そんな時、パンパンッと手を叩く音が鳴り響く。
「皆、一旦練習に戻れ。西島は俺が運ぶから」
部長である市原は、西島の腕を持ちコートの端に向かおうとする。
「痛っ!」
しかし、思ったよりも怪我が重度なのか、西島は右足に体重をかけられず、再び倒れそうになった。
それを、隣にいた陽斗が素早く西島の腕を持ち、転倒を防いだ。
「大丈夫!?」
「……ごめんね」
心配そうに西島の顔を覗き込む陽斗に、西島は痛みに顔をしかめながら、笑って謝る。
市原は職員室まで顧問を呼びに行き、西島は顧問と共に病院へと向かうことになった。体育館に残った陽斗達は、西島の心配が脳裏によぎりながらも、続けて練習に励んだ。
空がオレンジ色に染まる頃、練習の終わった陽斗達が部室に向かおうと、タオルや水筒を持とうとしていた時だった。
顧問の先生が、1人体育館へ入ってくる姿があった。
「先生! 西島はどうだったんですか!?」
先程西島とぶつかった、部員の1人が持っていた荷物を放り出し、その元へ駆け寄る。その後に、他の部員たちも続く。
「西島はいないんですか!?」
「もしかして、怪我、重度だったんですか!?」
「えーと、その、だなあ、」
不安げな顔をする部員たちに囲まれた顧問の先生は、頬をかきながら目線をそらす。
その態度を見て、皆は、西島の怪我が軽いものではないと、悟った。顧問の先生は、うーんと顔を俯かせた後、顔を上げ、そして口を開く。
「んーと、まあ、足首を捻挫しててな……もしかしたら、インターハイには出られないかもしれない」
その言葉に、皆の顔が曇った。
「……俺のせいだ」
西島とぶつかり転倒させてしまった彼は、顔を俯かせ、肩を震わせていた。
勝ちたい、レギュラーになりたい、その思いが前に出過ぎ、思わず無理なプレイした結果がこのざまだ。
西島は副部長であり、レギュラーでチームの司令塔であった。自分のせいで、主要メンバーである西島に怪我をさせてしまい、インターハイに出場できなくなってしまった。西島だけでなく、チームにも迷惑をかけてしまった、その重い事実に、彼は絶望と後悔に苛まれていた。
「自分を責めないで」
そんな彼に、陽斗はそう声を掛けた。
「でも!俺が無茶なプレイしなければ、西島が怪我をすることもなかった!だから、俺のせいなんだ!」
「西島くんは絶対、そんなこと思ってないよ」
「でも、チームにも迷惑を……」
「そんなこと、誰も思ってない。西島くんが抜けた穴は大きいかもしれない。でも、今は、インターハイ優勝に向けて、できることをやるしかないんだ、立ち止まっちゃダメだ、俺達は」
陽斗は、今にも泣きそうな彼の目を、まっすぐに見つめる。
周りの部員たちも陽斗の言葉に頷きながら、優しい、でもどこか力強いまなざしで彼を見る。
「……西島も言ってたぞ、気にするなって。お前のせいじゃないからってな」
顧問の先生は、優しく彼の頭にポンと手を乗せる。
責められると思いきや、温かく受け入れてくれたチームメイト達の、その優しさと覚悟を感じ、強張っていた彼の表情が緩み、そして、その頬に涙が伝った。
「ありがとう……」
肩を震わす、そんな彼の背中をさする陽斗。
その日は、日が沈んだ後も、体育館の明かりが灯っており、やる気に満ち溢れた声が響き渡っていたそうだ。
***
「家の前まで、ありがとうございます」
5階建ての白いマンションの、2階の一番隅の玄関前で、右足にギプスを付け、松葉杖でなんとか体勢を保っている少年は、申し訳なそうにしている。
「全然気にするな」
男はそう笑いながら、持っていた少年のリュックを家の中に置く。
「すみませんねえ。忙しい中、息子を送ってくださって本当にありがとうございます」
少年の横にいたその母も、申し訳なさそうに、男性に向かってペコペコとお辞儀をする。彼女が身に着けているエプロンは、何年も使い込んでいるのだろうか、所々にシミやほつれがあった。
「全然、とんでもないです。そしたら、俺はここで失礼しますね。西島、明日は家で安静にしとけよ」
男性は一礼すると、玄関のドアノブに手をかけ、扉を閉めようとした。
「あ、先生、伝えてほしいことがあるんですが、俺は全然大丈夫だから、自分を責めるなって言って貰えませんか?俺の怪我のこと知ったら、彼、自分を非難すると思うから」
あと少しで見えなくなりそうになっていた、扉の向こうの男性に、西島はニコッと笑いかける。
「了解、任せとけ」
男性は笑顔で頷き、そして見えなくなった。
「大丈夫?」
西島の母は、玄関に置いてあった荷物を部屋に運びながら、松葉づえをつきながら歩く息子にそう問いかける。
「うん、捻挫くらい大丈夫だよ。見た目はすごい重度みたいな感じになってるんだけどね」
西島は、ギプスのついた右足を少し上げながら笑う。
「そう?龍馬はいつも弱音を吐かないから、逆に心配だわ。辛かったら遠慮なく言ってね」
「うん、ありがとう」
西島の母は荷物を部屋に置くと、ご飯の支度のために再び台所へと戻っていった。
「……ふう」
母の姿が見えなくなるのを見届けた後、西島はドサッとベットに座り込む。
「大丈夫だ、俺は」
さっきの明るい表情とはうって変わって、西島は暗い表情で俯く。
体育館のコートで倒れた時、足の痛みを感じて「これはやばいかも」と思ったが、直接医者から「インターハイに間に合わないかもしれない」と聞かされた時は、目の前が真っ暗になった。
インターハイ優勝に向けて、今まで努力に努力を積み重ねていた。皆が目指していたからなんとなく自分も乗っかっていたけど、いつの間にか、それが自分の夢になっていた。
悔しいし、辛い。
でも、それを表に出したとて、皆に気を使わせるだけだし、迷惑だ。
それに、皆はもう、自分の思いを汲んで、落ちずに前を向いて夢に向かって走り出しているだろう。
自分の感情で、それを妨げてはならない。
だから、この感情は皆には隠して、皆の前では蓋をして、笑って「大丈夫」と言おう。
それが一番、皆にとって最善だろう。今までだってそうだったんだから。
俺は大丈夫。
俺が我慢していれば大丈夫。
笑っていれば大丈夫。
西島は自分にそう言い聞かせ、目を瞑った────
読んでくださり、ありがとうございます(៸៸᳐>⩊<៸៸᳐)~♡