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芸能人、やめました。  作者: 風間いろは
高校3年生
136/138

129.西島の怪我

皆さん、お久しぶりです!

一年以上も更新していなくてごめんなさい…

のんびり投稿ですが、完結にむけて突っ走っていくので今後ともよろしくお願いします!!



インターハイ予選まで、残り2週間をきった。

成宮高校バスケ部は、この日もインターハイに向けて練習に励む、いつも通りの日となるはずだった─────



練習試合の最中、ドンッという鈍い音が聞こえた。

そちらへ目を向けると、西島が右足を抑えて座り込んでいた。


「大丈夫!?」


立ち上がらず、顔をしかめる西島の元へ、陽斗は駆け出す。それを合図に、皆も西島の元へ集まり出す。


「転んだのか!? 大丈夫か!?」

「足、痛い!?」


いつもなら、ぶつかって倒れたとしても「大丈夫」と、笑顔で立ち上がる西島。だが、今日は様子が違う。


そんな状況に、皆はただならない空気を感じて焦る。気付けば、体育館にいた全員が西島を囲んでいた。


そんな時、パンパンッと手を叩く音が鳴り響く。


「皆、一旦練習に戻れ。西島は俺が運ぶから」


部長である市原は、西島の腕を持ちコートの端に向かおうとする。


「痛っ!」


しかし、思ったよりも怪我が重度なのか、西島は右足に体重をかけられず、再び倒れそうになった。


それを、隣にいた陽斗が素早く西島の腕を持ち、転倒を防いだ。


「大丈夫!?」

「……ごめんね」


心配そうに西島の顔を覗き込む陽斗に、西島は痛みに顔をしかめながら、笑って謝る。


市原は職員室まで顧問を呼びに行き、西島は顧問と共に病院へと向かうことになった。体育館に残った陽斗達は、西島の心配が脳裏によぎりながらも、続けて練習に励んだ。



空がオレンジ色に染まる頃、練習の終わった陽斗達が部室に向かおうと、タオルや水筒を持とうとしていた時だった。


顧問の先生が、1人体育館へ入ってくる姿があった。


「先生! 西島はどうだったんですか!?」


先程西島とぶつかった、部員の1人が持っていた荷物を放り出し、その元へ駆け寄る。その後に、他の部員たちも続く。


「西島はいないんですか!?」

「もしかして、怪我、重度だったんですか!?」

「えーと、その、だなあ、」


不安げな顔をする部員たちに囲まれた顧問の先生は、頬をかきながら目線をそらす。


その態度を見て、皆は、西島の怪我が軽いものではないと、悟った。顧問の先生は、うーんと顔を俯かせた後、顔を上げ、そして口を開く。


「んーと、まあ、足首を捻挫しててな……もしかしたら、インターハイには出られないかもしれない」


その言葉に、皆の顔が曇った。


「……俺のせいだ」


西島とぶつかり転倒させてしまった彼は、顔を俯かせ、肩を震わせていた。

勝ちたい、レギュラーになりたい、その思いが前に出過ぎ、思わず無理なプレイした結果がこのざまだ。


西島は副部長であり、レギュラーでチームの司令塔であった。自分のせいで、主要メンバーである西島に怪我をさせてしまい、インターハイに出場できなくなってしまった。西島だけでなく、チームにも迷惑をかけてしまった、その重い事実に、彼は絶望と後悔に苛まれていた。


「自分を責めないで」


そんな彼に、陽斗はそう声を掛けた。


「でも!俺が無茶なプレイしなければ、西島が怪我をすることもなかった!だから、俺のせいなんだ!」

「西島くんは絶対、そんなこと思ってないよ」

「でも、チームにも迷惑を……」

「そんなこと、誰も思ってない。西島くんが抜けた穴は大きいかもしれない。でも、今は、インターハイ優勝に向けて、できることをやるしかないんだ、立ち止まっちゃダメだ、俺達は」


陽斗は、今にも泣きそうな彼の目を、まっすぐに見つめる。

周りの部員たちも陽斗の言葉に頷きながら、優しい、でもどこか力強いまなざしで彼を見る。


「……西島も言ってたぞ、気にするなって。お前のせいじゃないからってな」


顧問の先生は、優しく彼の頭にポンと手を乗せる。


責められると思いきや、温かく受け入れてくれたチームメイト達の、その優しさと覚悟を感じ、強張っていた彼の表情が緩み、そして、その頬に涙が伝った。


「ありがとう……」


肩を震わす、そんな彼の背中をさする陽斗。



その日は、日が沈んだ後も、体育館の明かりが灯っており、やる気に満ち溢れた声が響き渡っていたそうだ。



***



「家の前まで、ありがとうございます」


5階建ての白いマンションの、2階の一番隅の玄関前で、右足にギプスを付け、松葉杖でなんとか体勢を保っている少年は、申し訳なそうにしている。


「全然気にするな」


男はそう笑いながら、持っていた少年のリュックを家の中に置く。


「すみませんねえ。忙しい中、息子を送ってくださって本当にありがとうございます」


少年の横にいたその母も、申し訳なさそうに、男性に向かってペコペコとお辞儀をする。彼女が身に着けているエプロンは、何年も使い込んでいるのだろうか、所々にシミやほつれがあった。


「全然、とんでもないです。そしたら、俺はここで失礼しますね。西島、明日は家で安静にしとけよ」


男性は一礼すると、玄関のドアノブに手をかけ、扉を閉めようとした。


「あ、先生、伝えてほしいことがあるんですが、俺は全然大丈夫だから、自分を責めるなって言って貰えませんか?俺の怪我のこと知ったら、彼、自分を非難すると思うから」


あと少しで見えなくなりそうになっていた、扉の向こうの男性に、西島はニコッと笑いかける。


「了解、任せとけ」


男性は笑顔で頷き、そして見えなくなった。



「大丈夫?」


西島の母は、玄関に置いてあった荷物を部屋に運びながら、松葉づえをつきながら歩く息子にそう問いかける。


「うん、捻挫くらい大丈夫だよ。見た目はすごい重度みたいな感じになってるんだけどね」


西島は、ギプスのついた右足を少し上げながら笑う。


「そう?龍馬はいつも弱音を吐かないから、逆に心配だわ。辛かったら遠慮なく言ってね」

「うん、ありがとう」


西島の母は荷物を部屋に置くと、ご飯の支度のために再び台所へと戻っていった。


「……ふう」


母の姿が見えなくなるのを見届けた後、西島はドサッとベットに座り込む。


「大丈夫だ、俺は」


さっきの明るい表情とはうって変わって、西島は暗い表情で俯く。


体育館のコートで倒れた時、足の痛みを感じて「これはやばいかも」と思ったが、直接医者から「インターハイに間に合わないかもしれない」と聞かされた時は、目の前が真っ暗になった。


インターハイ優勝に向けて、今まで努力に努力を積み重ねていた。皆が目指していたからなんとなく自分も乗っかっていたけど、いつの間にか、それが自分の夢になっていた。


悔しいし、辛い。

でも、それを表に出したとて、皆に気を使わせるだけだし、迷惑だ。


それに、皆はもう、自分の思いを汲んで、落ちずに前を向いて夢に向かって走り出しているだろう。


自分の感情で、それを妨げてはならない。


だから、この感情は皆には隠して、皆の前では蓋をして、笑って「大丈夫」と言おう。


それが一番、皆にとって最善だろう。今までだってそうだったんだから。


俺は大丈夫。

俺が我慢していれば大丈夫。

笑っていれば大丈夫。


西島は自分にそう言い聞かせ、目を瞑った────






読んでくださり、ありがとうございます(៸៸᳐>⩊<៸៸᳐)~♡

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