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芸能人、やめました。  作者: 風間いろは
高校3年生
135/138

128.進路相談



「なあ、志望校決まった??」

「行きたいとこあるけど、俺の実力じゃなあ・・・。」


この日、高3のそれぞれの教室で皆が進路について話していた。


今日の午後に担任の先生と1体1の面談があるため、生徒らは大学や学部を調べたり相談したりしていた。


「あー、はやいな、もう志望校とかについて考えなきゃか」

「俺、やべーよ。まじで成績やばすぎてどこも行けねえ・・・・・・」


志望校を書く紙と睨めっこをしている市原と、絶望したように机の上でうなだれている高柳。

白石に至っては、その紙を既に机の中に入れ、現実逃避をしているようだった。


「高柳くんは行きたいとこあるの?」

「明大」

「え!? あの、都会の名門校の私大!?」

「ああ」

「・・・・・・それは勉強しないと、だな」

「なんだよ、その目は! 俺もわかってんだよ、とにかくやばいってことは!」


高柳は皆の反応に悲しくなり、再び机の上でうなだれる。


「西島と陽斗は成績いいから、選び放題だな」


顔を上げた高柳は、2人を羨ましそうに見つめる。

その言葉通り、実際にこの2人は常に上位の成績だった。


「まあ、日頃の積み重ねだよ」

「ぐっ、その言葉、心に刺さるわ・・・」


にこやかに笑いながらそう言う西島に、勉強をサボり続けてきた高柳は何も言えなかった。


「あれ、陽斗はバスケの推薦とかスカウトとかでどこか行くんじゃ?」

「あ〜、陽斗は引く手あまただろうね」

「そっか、それがあったか。いいな、勉強しなくていいのか」


陽斗のバスケの実力は同世代の中でも抜きん出ており、誰もが彼の将来に期待していた。そのため、陽斗は推薦やスカウトで大学に進み、これからもバスケをやっていくのだと信じて疑っていなかった。


そんな事情を知る訳もなく、陽斗は笑顔でこう言い放った。


「え? 俺は普通に受験するよ?」


「「「ええええええ!!!?」」」


まさかの陽斗の発言に、市原、高柳、白石の3人は思わず大きな声を上げる。そして、市原と高柳は周囲の反応などお構い無しに、そのままの勢いで陽斗に質問を畳み掛ける。


「スカウトとかで大学行かないのか!?」

「うん」

「で、でも、そういう誘い一杯きてんじゃねーの?」

「そういう話は頂くけど、行きたい大学あるし」

「ま、まじか・・・」


陽斗のまさかの進路に、思わず皆は言葉を失う。

いつも、あまり表に感情を出さない白石も、こればかりは驚き、目を見開いたまま陽斗凝視していた。


「え、じゃあバスケとかどうすんの? 続けんの?」

「行きたい大学ってどこ?」

「えっと、バスケは続けるか分からないかな。行きたい大学は海外のとこだよ」

「「は!? 海外!?」」


再び陽斗に質問攻めをする市原と高柳だが、まさかの進路に思わず大きな声を上げる。


「ていうことは、陽斗は今年のウィンターカップは出ないの?」

「うん、インターハイまでって考えてたから」


西島の質問に、陽斗はすんなりとそう答える。

そんな彼の言葉に、ようやく皆は自分たちの勝手に思い込みに気づいた。


「そうなのか・・・・・・。てっきり、陽斗はウィンターカップに出るかと思ってた。そんでそのままバスケでどっか大学行くもんかと・・・・・・」

「いや、それな」

「・・・・・・うん」

「僕もそう思ってた」


4人は未だ驚いたように、呆然としたように、陽斗の顔を見ていた。まだちゃんと言葉を飲み込めていないようだった。


そんな中、高柳が口を開いた。


「ほんと、すげえな、陽斗は。自分がしたい事を突っ走ってて。俺も頑張らないとだな」


先程までとは違い、表情が引き締まっており、覚悟を決めたような面持ちだった。


「よっしゃ! 俺も絶対に明大受かって、都会でキラキラ生活送ってやる!」


高柳は急に立ち上がり、教室中に響き渡るくらいの声でそう叫んだ。


その時、教室の扉がガラガラという音を立てて開いた。


「おい、何叫んでんだ。廊下中に響いてたぞ」


このクラスの担任の葉山先生が、入ってきた。


「あ、すんません・・・・・・」


ハッとした表情になり、気まずそうに笑いながら静かに席に座る高柳。


その途端、クラス中に笑いが起こる。

進路のことで少しピリついていた教室の雰囲気が、この事で一気に和らいだ。


そうしてこの一件で、高柳の志望校は学校中の皆に知られることとなった。




***




とある教室で、先生と生徒が一対一で向かい合っていた。


先生は、手に持っている紙を見た瞬間、驚いたように少し目を見開く。


「・・・・・・斜め上の回答だな。これ、親御さんには伝えたのか、今宮」


葉山先生は、手に持つ紙に向けていた目線を、目の前に座っている陽斗に向ける。


「はい、もう言ってあります」

「そうか。それで、なんでここに行きたいと思ったんだ?」

「前に一度、そこに行ったことがあるんですけど、皆が本当に楽しそうに自分が学んでいる事について話していたんです。それで、俺もここで勉強したいと思ったのがきっかけです」


葉山先生の問いに、陽斗は覚悟を決めたような真剣な面持ちでそう答える。


それを聞き、葉山はフッと笑みを零した。


「なるほどな。決めたからには頑張りな。俺たち学校も、出来ることはサポートするからさ」

「はい、ありがとうございます!」


少し緊張して強ばっていた陽斗の顔がパッと明るくなる。先生に無理だと言われたり、反対されたりするのではないかと、少しビクビクしていたのだ。


面談が終わり、陽斗は先程とは変わって軽い足取りで教室を出ていった。


「・・・・・・あいつは凄いな。俺ももっと頑張らないとだな」


陽斗が出たドアの方向を見つめながら、葉山先生はそう零した。




***




「陽斗先輩って、ウィンターカップに出ないんですか!?」


放課後、陽斗が体育館に入った瞬間、バスケ部の後輩たちが陽斗を囲んだ。


「あ、うん、そうだよ」


突然の事に、陽斗は困惑した表情を浮かべながらそう言う。


「陽斗先輩と仲がいい高柳先輩がそう大声で話しているのを聞いて・・・・・・」

「え? 高柳くんが?」

「はい、もう、学校中で噂になっていますよ!」


その言葉を聞いて、陽斗は苦笑いをする。

彼のおかげで、またもや校内の噂になっているようだった。


陽斗の横にいた市原は配慮せずに大声で話していた高柳に呆れ、白石に至っては怒りを覚えたのか顔に青筋を立てていた。


明日の高柳の身が心配なり、陽斗はそれを必死に宥めた。



そんな中、陽斗はずっと不思議に思っていたことを口にする。


「てか、そもそも、何で皆俺がウィンターカップ出るって思ってたの? 俺、何も言ってなかったと思うんだけど・・・・・・」


今までの事を振り返ってみても、自分からそういう話は一切してこなかったため、陽斗はずっと疑問に思っていた。


だが、後輩たちはそれに食いつくように答えた。


「陽斗先輩のプレーを見てたらそりゃそう思いますよ! 日本の高校生いや、世界の高校生ナンバー1プレイヤーで、超超超有望なスター選手なんですから! ウィンターカップに出て、スカウトとかでどっか大学行って、NBAで大活躍すると思ってましたから!」


陽斗のことが大好きな、後輩の乾は目をキラキラと輝かせながら、そう熱く語る。


実際、バスケの実力がある者たちの多くは、高3でもウィンターカップに出ていた。そのため、深く考えずとも陽斗はウィンターカップに出ることは当然であるかのように思っていた。


「・・・・・・俺、そんな風に思われてたんだ」


陽斗はその事実に、思わず苦笑いを浮かべる。ただがむしゃらに生きていただけだが、まさか、周りからそんな風に見られていたとは全く思っていなかったのだ。



「3年生が皆いなくなるなら、次のウィンターカップはそもそも本戦に行けるかどうか・・・・・・」


後輩の1人がそう呟くと、後輩たち皆が、一斉に不安そうに顔を曇らせた。


これまでの輝かしい成績は、3年生の存在が大きいことは皆が分かっていた。特に、陽斗の力は偉大で、彼一人で勝負の天秤がひっくり返るほどだった。


3年生が抜けて残ったメンバーでウィンターカップで優勝、そもそも本戦までいけるかという状況で、誰もが自信がなかった。


そんな彼らを見て、陽斗が口を開く。


「なんで、もう負ける前提でいるの?」


素直に思ったことを口にする陽斗。その言葉に、後輩たちは顔を上げた。


「俺たちがいなくても、皆は十分に強いじゃん。俺は、絶対に勝てると思うよ!」

「「「陽斗せんぱあい・・・・・・」」」


その言葉に、思わず皆は感動し、涙ぐんでる人までいる。

あんなにバスケが強く、皆のあこがれの存在である人にそんな事を言われるのは本当に光栄で、皆はその言葉を深く心に刻んだ。

それは、これから辛い時、苦しい時にその言葉を思い出し、頑張れる活力になるだろう。


「まあ、陽斗のおかげで今年は強い後輩も入ってきたし、大丈夫だと思うな、俺も」


市原は陽斗の肩をポンポンと叩きながら、笑顔でそう言う。


今年の成宮高校バスケ部には、例年より多く、また実力もある新入部員が入ってきた。彼らのほとんどは陽斗に憧れている者が多く、陽斗がいるから成宮高校への入学を決めた者までいる。


そんなこんなで、成宮高校バスケ部は一気に戦力を手にいれる事が出来ていたのだった。


後輩たちの士気が上がっていく中、白石が口を開いた。


「俺は残るよ」

「「えぇぇええ!?」」

「まじすか!? 嬉しい!」


彼の発言に、何も知らなかった3年生は目を見開いて白石を見つめ、後輩たちも驚きつつ喜んだように声を上げる。


「受験は!?」

「しない」

「え、じゃあ就職!?」

「バスケで食ってく」

「まじで!?」


同級生の立て続けの質問に、白石は淡々と答えていく。

そういう様子を見て、既に白石の考えは固まっていると、皆は察した。


「白石なら、将来すごい活躍してそう・・・・・・」

「「「確かに・・・・・・」」」


西島のそのつぶやきに、皆は一斉に頷いた。


白石はバスケを初めてまだ1年半も経っていない。だが、持ち前の身体能力と力、そして日々の練習でめきめきと実力を上げ、既にメンバー入りしていた。


そんな急激に成長していく彼に、皆は楽しみでならなかった。



そうやって、話して盛り上がっている彼らに声がかけられた。


「あれ、お前ら練習は? 今日はミーティングなのか?」


体育館にやってきたバスケ部の顧問の先生が、練習をしていないことに不思議そうにする。

インターハイも近くなり、最近は部員全員に気合いが入っているのだ。そのため、いつも体育館に入る時はその熱が凄まじく、圧倒されていたのだ。だが、今日は体育館があまりにも静かで、思わず様子を見に来てしまったのだ。


「あ、やべ! おい、皆! 今から準備体操するぞ!」


市原の掛け声に、皆は慌てて動き出す。気付けば20分以上も話していたらしい。


そうしてバタバタと始まる練習。


そんな光景に、思わず顧問はくすりと笑い、練習が始まったのを見届けて、体育館を後にした。




読んで下さりありがとうございますʚ・֊・ɞ⸒⸒

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