126.遠足とバンド①
高3になって数十日。
陽斗、市原、白石、高柳、西島、成美、三浦、橋本の8人は、今日も部活後に学校の最寄り駅から数駅のスタジオに集まっていた。
「よっしゃー! 今日もやるぜー!」
高柳ははしゃいだ様子でスタジオの中に入る。
「いや、お前はやらないだろ」
そんな彼に呆れながらそう言う市原。
実際、楽器を弾くのは市原、西島、成美、橋本の4人でボーカルは陽斗であり、残りの高柳、白石、三浦の3人は見たり、アドバイスをしたりするだけだった。
ちなみに楽器の構成は、ボーカル陽斗、ギター橋本、ベース市原、ドラム西島、キーボード成美である。
「遠足も近いし、頑張って仕上げないとだね」
楽器のセットをしながら、橋本はそう言う。
彼らがバンドをしている理由は、遠足の際に行う出し物のためだ。
遠足では軽く山を登り、その頂上付近にちょっとしたステージがある。彼らはそこでバンドを披露するつもりであった。
「それじゃあまず、軽く合わせよう!」
楽器の準備ができた彼らは楽器を弾き始め、それに合わせて陽斗は軽く歌う。
「やっぱ陽斗の歌声、何回聞いても鳥肌立つわー」
高柳は陽斗の歌声に感心し、そう言う。
それは、高柳の隣にいる三浦や白石、そして楽器を弾いている者たちも思っていた。
彼の歌声を聞くといつも圧倒され、思わず聞き入ってしまう。そこらへんの歌手より全然上手いと、皆が思っていた。
「それじゃあ、早速1曲目いっきまーす!」
陽斗の合図と共に、皆が楽器を奏で始める。
遠足でバンドをしようと決めてから2ヶ月間、かなり彼らは練習を積んできている。そのため、彼らの演奏の完成度はかなりのものだった。
曲が終わるや否や、市原が申し訳なさそうに口を開いた。
「すまん、俺ちょっとミスった」
「だけど、ベース始めたばかりの頃よりはだいぶ上手くなってるよ!」
三浦はそう市原に言う。
それもそのはず、市原は2ヶ月前にベースを始めたばかりだった。それに比べると、ミスもかなり減り技術も格段に身に付いていた。
「しっかし、このギターすごく弾きやすいよな。音もいいし、かなりこれに助けられてる」
その市原の言葉通り、このスタジオにある楽器は弾きやすく音もいいものが多い。設備もよく綺麗で、彼らはバンドをする上でかなりこのスタジオに助けられていた。
「だろ!? 俺に感謝しろよな!」
高柳は得意げな表情でそう言う。
実はこのスタジオ、お金持ちである高柳家所有のスタジオであった。そのため、楽器もスタジオも使い放題でタダである。
遠足当日も、ここのスタジオにある楽器を持っていってもいいと許可を貰っているため、陽斗たちはバンドをやる上でかなり助けられていた。
「今回ばかりはすごい感謝してる」
「ありがとう。高柳と友達で良かった」
「え、いつもと態度違う!? お前ら、こういう時だけそう言って卑怯だぞ!! 俺のお金にしか興味ねえのか! ひどいぞ!」
いつもは冷たい態度をしてくるのに、こういう時だけは優しくなるのだ。高柳はそれに少しご立腹だ。
「それじゃあ、高柳くんに感謝の気持ちを込めて2曲目いっくよー!」
陽斗のそんな掛け声で、再びスタジオに音楽が響き渡る。
顔はムスッとしている高柳だが、皆に感謝され顔が少しニヤついており、満更でもなさそうだった。
このあとも白石らの意見を聞いたり、お互いにアドバイスをしたりすること2時間。彼らは帰る準備を始める。
そしてスタジオから出ると、陽斗たちがいたスタジオの前にはいつものごとく人が群がっていた。
「あ! 出てきたよ!」
「さっきのすごい歌声の人誰だろう??」
「あれはやばかった。圧倒的だったよな」
皆はざわざわとそう噂する。
人が集まった理由は、やはり陽斗の歌声だった。
彼の歌声はスタジオの外に漏れており、あまりの圧倒的な歌声に思わず聞き入ってしまっていたのだ。
「すみません、ボーカルの方って誰ですか?」
集まっていたうちの1人のその問いかけに、一斉に市原たちの目線が陽斗に集まった。すると、一斉に陽斗に質問が集中した。
「SNSとかやっていたら、教えてくれませんか?」
「ぜひ俺らと一緒にバンドやりませんか!?」
「どこかで歌とか習ってるんですか?」
「あ、ええと、SNSとかあまりやっていなくて・・・。バンドは、高校の行事だけでやるので、ごめんなさい」
陽斗は戸惑いつつ、投げられた質問に1つ1つ答える。
「ちょっとごめんなさい、夜遅くてそろそろ帰らないといけないので・・・」
陽斗はそう言うと、人をかき分けてようやく外に出た。
「ふわー、今日も人凄かったねー」
「なー! まあ、陽斗の歌声だったらああなるのもしょうがないわ」
皆はそう言いながら、駅の方へと歩いて向かう。
陽斗らがスタジオに行く日は、大体いつもあんな風になっている。それほど、陽斗の歌声に皆が惹かれていた。
「そんな歌声を身近に聞けてる私たちは幸せだね」
成美は陽斗にそう微笑みかける。
「成美、ありがとう」
陽斗も嬉しそうに成美に笑顔を向ける。
「・・・・・・ほんと仲良すぎだろ」
「だな、逆に羨ましいわ」
2人で笑いながら見つめ合う幸せそうな姿に、皆は眩しそうにしながらブツブツとそう言う。
陽斗たちは楽しそうに談笑しながら歩き、駅に着くとそれぞれ帰路についた。
遠足は既に数日後に迫っており、皆は焦りつつもそれぞれにその日を楽しみに待っていた。
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