125.高3の始まり
今回はかなりゆるっとしたお話になってます。
陽斗が高校に入って約1年半。
早いこと、今日でもう高校3年生になる。
「今日から3年生か・・・」
「嫌だな・・・」
いつもの朝練を終え更衣室で着替える新3年生の空気は重い。
「なんで皆、今日そんなに暗いの?」
陽斗はその空気を感じ、不思議そうにする。
元気なのは陽斗だけだった。
白石も、いつも笑顔を絶やさない西島も、なんだがどんよりしている。
「何でだって?お前、3年になったら何が始まるか分からないのか!!?」
そんな陽斗に驚くチームメイト。
「うーん、何事にも最後がつくとか?」
「いや、それはそうだけど、それじゃないんだよ!! こいつバカなの!? いや、バカだな!! 」
「一応、お前よりは陽斗頭いいぞ?」
「いや、それはそうだけど、市原、そっちのバカじゃないんだよ!! 抜けてるっていう意味でのバカ!!」
"抜けているという意味でのバカ"という言葉に、その場にいる皆が納得するように頷いた。
「え、そんなに抜けてるかな? 普通じゃない?」
「これが普通だったらやばいよ、色んな意味で」
自分が抜けていると言うのに納得できない様子の陽斗だが、彼の"普通"という発言には皆は一斉に強く首を振る。
彼は抜けており、さらにポジティブな面など人が思いもよらない考えを持っており、いい意味での"変人"として扱われていた。
「ていうか結局、3年から始まるのって何なの?」
陽斗は、皆が分かっているのに自分だけが分からずモヤモヤしていた。
皆はまだ分かっていなかったのかと呆れつつ、1人のチームメイトが口を開く。
「それはな、受験勉強だよ・・・・・・!!!!!」
チームメイトの1人が、辛そうな表情でにその場に崩れ落ちた。
「あー! なんだ、受験勉強か!」
「およよよ!? お前はなんでそんな呑気なんだよ!?」
特に落ち込んだような様子もなく軽く受け止めた陽斗に、またもやチームメイトが突っかかる。
「勉強って普通に楽しいじゃん」
「・・・・・・え、こいつほんと頭大丈夫?」
皆が有り得ないというような目で、陽斗を見つめる。
「やっぱこいつ色んな意味でバカだな・・・・・・」
チームメイトの1人が呟いた言葉に、陽斗以外の者たちが一斉に頷く。
陽斗だけはそんな光景を不思議そうにしながらも、せっせと制服に着替えていた。
制服に着替えた彼らは教室に向かわず、下駄箱がある方へ向かう。
「・・・・・・ふう、ドキドキする」
「陽斗、緊張しすぎだよ」
緊張して顔が強ばってる陽斗を見て、西島がクスッと笑う。
「だって、クラス替えだよ!? 緊張しないわけがないよ」
その言葉のとおり、今日は高校最後のクラス替えである。
陽斗はクラス替えという行事にワクワクしつつも、仲がいい友達と離れ離れになるのが怖かった。
「まあ、最後の高校生活だしな。いいクラスだったらいいな」
そんな陽斗に、市原も同調するようにそう言う。
そして、下駄箱に近づくにつれ、生徒らの嬉しそうな声や悲しそうな声が聞こえ始める。
その光景に、陽斗は余計に緊張が高まった。
クラス替えが貼ってある掲示板には、たくさんの人が群がっていた。
後ろにいる陽斗たちは背伸びをするも、掲示板から遠く全く見えない。
「あ、陽斗! おはよう!」
同じく朝練を終えた高柳が、陽斗、市原、西島、白石に気付きこちらへ駆け寄ってくる。
「なあ! 俺ら5人同じクラスだったぞ!」
高柳が満面の笑みでそう言う。
「え!? ほんと!? やったー!」
陽斗は嬉しそうに声を上げる。
「男5人固まったか」
「普通科4クラスあるのにすごいね」
市原と西島もそのことに驚いたようだった。
白石は何も言わないが、嬉しそうなのが明らかに顔に出ていた。
「私たち女子はどうなったんだろ?」
陽斗の隣にいた成美のその言葉に、高柳が分かりやすくしょんぼりする。
だが、それを信じたくない陽斗はクラス替えが貼ってある掲示板を見る。
「俺たち、何組?」
「1組」
高柳の言われた通り、1組を見ると男たち5人の名前はあるが、女子3人の名前がなかった。
「あ、私、2組だ。天音ちゃんと紗良ちゃんも同じだ!」
成美がそう声を上げる。
「女子と男子で別れたか・・・」
「こんなバッキリ別れるんだね」
皆はまさかのクラス替えの結果に驚いていた。
そんな中、陽斗はしょぼんとしていた。
「おい、陽斗が珍しく暗いぞ!」
そんな陽斗の様子に高柳が騒ぎ出す。
実際、彼はいつでもどんな時でも明るく、落ち込んでいる姿は稀であった。
「どうしたんだよ、成美ちゃんと離れて寂しいのか〜?」
高柳はそんな陽斗をふざけた調子でからかう。
しかし、陽斗はその言葉にさらにしょぼんとした。
「え、まさかそうなのか!?」
高柳は驚いてそう言う。からかうつもりだったのだが、まさか核心をついてしまうと思わなかったのだ。
「3年も一緒がよかった・・・」
そんな悲しそうな陽斗の手を、成美が両手で包み込んだ。
「それは私もだよ。でも、ずっと離れ離れじゃないから。だから、大丈夫だよ」
成美はそう笑顔で陽斗に言う。
「・・・うん、そうだね。そうだよね」
陽斗と成美は2人で笑い合う。
そんな光景に、周りの人間は「またか」というような呆れて見たり、羨ましそうに見たりしていた。
この2人の仲の良さは、学校中が知っている。
「それじゃあ陽斗くん、またね」
陽斗らの新しい教室に着き、別々のクラスになった陽斗と成美はここでお別れだった。
「うん、またね」
陽斗は名残惜しそうに、成美が背を向けてもずっと手を振り、教室に入ろうとしなかった。
「おい、教室入るぞ」
そんな陽斗を市原が教室へと引っ張って連れ込む。
教室に入るや否や、2年の時とは違う教室と雰囲気に、早速陽斗の心が踊る。
「もう高校生活も1年か、早いなあ」
西島のそんな言葉に、皆は同意するように深く頷く。
「これから勉強三昧かあ。俺、勉強やりたくねーよー」
高柳はこれから過酷になるだろう受験勉強を想像し、うなだれる。
「それじゃあ、やらなくてもいいんじゃない?」
「そうそう、嫌ならやんなくていいさ」
「え、冷たくねー!? 友達だろ? それなら励まその言葉くらいくれよ!」
西島と市原の淡々とした言葉に、高柳は不満そうに文句をつける。
「なあ、白石! 酷いよなあ!」
「・・・・・・頑張れ」
白石もまた淡々と、ボソッとそう言うだけだった。
「素っ気ねえ!!! 俺を思ってくれる友達なんていないのか、悲しいなあ・・・」
そんな友人らの態度に、悲しそうにする高柳。
「まあ、勉強といえば白石もやばいけどな」
市原のその言葉に、白石はビクッとする。
その言葉のとおり、白石は高柳と同じくらい成績は芳しくない。
「俺は、バスケで生きてく」
白石は小さい声だが、ハッキリとした口調でそう言う。
「確かに、そうなってそうだな」
「うん、白石くんならやりそう」
一見、突拍子もなさそうな発言だが、皆は白石が言うと本当にそうなりそうな予感しかしなかった。
「え、じゃあ、有名になるってことだろ!? 今のうちにサインくれよ!」
高柳はそう言うと、白石に紙とペンを渡す。
「自分のサイン持ってない」
「それじゃあ、今から俺たちが考えてやるよ!」
早速、高柳は考えたサインを紙に書き始めた。
「これとかどうよ!」
「いや、お前、センスなさすぎだろ・・・」
そうやってワイワイはしゃいでいる彼らを見て、陽斗も楽しそうに笑う。
陽斗にとって、この1年半は心から楽しい日々だった。
そしてこれからの高校生活最後の1年、大人になっても最高に楽しかったと思えるくらい楽しもうと心に誓ったのだった。
***
ちなみに、陽斗たち男5人がいる1組の担任は生徒にも人気があり、陽斗らが1年の時も担任だった葉山先生になった。
また、成美たち女子3人がいる3組には、元気でアホな、去年の陽斗の担任だった太陽先生になったという。
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