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芸能人、やめました。  作者: 風間いろは
高校2年生
131/138

124.犬を飼う


高2の3学期が始まってからのとある日。

陽斗はいつも通り朝練をするために、自転車を走らせて学校へと向かっていた。


冬のため外は真っ暗だ。


自転車のライトを照らし、白い息を吐きながら陽斗は自転車を漕ぐ。


今現在、6時15分。


早い時間だが、1番乗りではないのはいつものこと。


学校に着き、そのまま体育館へと向かう。しかし、いつもついているライトが今日はついていない。


不思議に思いながら体育館の扉を開くが、そこは真っ暗で誰もいなかった。


「あれ、白石くんまだ来てないのかな・・・」


更衣室も覗いたが誰もいない。


今まで、白石がいないなんてことは滅多になかった。


陽斗は心配になったが、とりあえず1人で練習を始めることにした。



陽斗が朝練を始めて30分後、体育館の扉が開く音がした。そちらへ顔を向けると、陽斗は途端に笑顔になる。


「あ、白石くん! おはよ───━━って、ん!?」


笑顔だった陽斗だが、白石が手に持っているものを見て驚きの表情に変わる。


「え、何持ってるの? え、ど、動物!?」


陽斗は、白石が抱えているダンボールの中に動く生き物に釘付けだ。


「うん、犬。拾ってきた」

「犬!? 拾ってきたの!?」

「うん、捨てられてたみたいだから」


白石は優しく目を細めながら犬をそっと撫でる。



いつも通りの時間に家を出た白石だったが、途中で寂しそうな犬の鳴き声が聞こえてきた。


その声がする方へ向かうと、そこには1匹の子犬がいた。悲しそうにクンクンと鳴いている。


白石は思わずダンボールの前に行きしゃがみ込む。すると、構ってくれと言わんばかりに、目をキラキラとさせてしっぽを振ってきた。


そっと手を近づけてみると、子犬がペロッと舐めてきた。


こんなに可愛らしいのに、路上に捨てられている小さな子犬。


白石はどうしても見過ごすことができず、学校まで持ってきてしまったのだ。



「この子、小さくて可愛いね!!」


陽斗は目をキラキラとさせて犬を優しく撫でる。


「何犬だろ? マルチーズとか?」

「うーん、分からないな」


子犬の毛は汚れているものの白くて細かった。


犬に詳しい訳でもない陽斗と白石の2人は、この子犬が何犬なのか全然分からなかった。



子犬とじゃれ合うこと15分。


陽斗はある重大なことに気が付いた。


「そういば、これからこの子どうしよう。今から俺たち授業だから世話できないよ」

「・・・・・・学校サボる」

「・・・・・・そうするしかないか」


陽斗と白石の2人は真剣な顔でそう考える。


しかし、皆勤賞を狙っている陽斗には安易しがたい選択だった。



そこで、2人はダメ元ではあるが1つの解決策を考えた。それを決行すべく、2人は体育館の外で誰かを待ち伏せる。



そして数十分後、1つの車が学校の駐車場に入ってくる。止まった車から1人の男性が車から降りると、そこに2人の人物が飛び込んできた。


「葉山先生!」

「うお! びっくりした───────って、今宮と白石かよ。朝からどうした?」


隣のクラスの担任であり、去年2人の担任だった葉山は驚いた表情を浮かべるが、2人の顔を見るなりいつもの彼に戻った。


そして、白石が何やら抱えているものがモゾモゾと動いているのが視界に入った。そちらに目を向ると、葉山は驚きで目を見開く。


「え、犬!!? 何で学校に持ってきてんだよ」


葉山は、ハアとため息をつき、犬を抱いている白石をジロっと見る。


「犬は持ってきたら駄目なんですか?」

「駄目に決まってるだろ」

「そういう校則はありませんけど」

「ないけどなぁ、持っていっちゃいいものと駄目なものくらい分かるだろ?」

「真面目な生徒じゃないので分かりません」

「あー言えばこう言う・・・」


白石の反抗的な態度に、葉山は再びため息をつく。


白石の気持ちは分かるが、葉山は先生という立場として犬を連れ込むことに抵抗感があった。



なかなか葉山が折れないと悟った陽斗は、最終手段を使うことにした。


「そういえば、先生はSUNRISE好きでしたよね?」

「ああ、そうだけど。なんで今その話をするんだ?」


突然の、犬とは全く関係がない陽斗の発言に、葉山は疑問に思いながらそう答える。


SUNRISEとは、いま超人気のアイドルグループであり、陽斗と今でも仲がいい七瀬湊が所属していた。


葉山はSUNRISEのファンであり、以前ライブに行っていたのを陽斗は知っていた。



「SUNRISEのサイン、欲しくないですか?」


陽斗はそう、にっこりと葉山に言う。


そう、陽斗の最終手段とは、SUNRISEが好きな葉山をサインで釣ろうというものだった。



「さ、SUNRISEのサイン!!? そりゃ欲しいに決まってるだろ! なんだよ、陽斗お前、持ってるのか?」


それを聞いた葉山は陽斗の肩をつかみ、ギラギラとした目を向ける。

陽斗の作戦通り、葉山はしっかりと食い付いてきた。


「ですよね? それをあげる代わりに、先生に許して欲しいことがあるんですけど」


その陽斗の言葉に、葉山はハッとする。彼は陽斗の言っていることを悟ったのだ。


「あー、なるほど。サインをあげる代わりに犬を連れていくのを許せって言いたいんだろ?」


葉山はハアとため息をつき、目をつぶり腕を組みながら数秒考え込む。


「・・・分かった、許す」

「やったあぁー!」


陽斗は手を挙げて大喜びし、白石は僅かに口角を上げ嬉しそうに犬を撫でる。


「その代わり、絶対にサイン持ってこいよ! 絶対だぞ!」

「もちろん持ってきますって。俺、約束はちゃんと守る人なので!」


確認するように詰め寄る葉山に、陽斗はそう答える。



こうして、犬を持ち込むことに成功した陽斗と白石だった。


この後、陽斗と白石の担任である太陽先生にも、陽斗と幼なじみ兼超人気芸能人の奈那のサインをちらつかせ、許可を得ることに成功した。


また、葉山による説得により、学校側も今日だけ犬の持ち込みに関する承諾を得ることが出来た。


ちなみに、初めは学校側も否定的だったらしいが、葉山がSUNRISEのサインの事をちらつかせた事で一気に賛成の方向に流れたという。


SUNRISEの人気は世間問わず偉大であり、また先生たちもかなりチョロい事を知った日であった。



無事、犬の持ち込みに許可を得た陽斗と白石は教室に犬を連れていく。


突然の子犬の登場に、クラスメイト達は驚きつつも嬉々として子犬に構い始める。


1匹に対し、人間は35人。

もちろん子犬の奪い合いが始まる。


他クラスからも子犬を見に来た人達もたくさんおり、その奪い合いは凄まじいものだった。


そして、気がつけば子犬はシロと呼ばれていた。その理由は単純で、毛が白いからだ。



放課後に近づくにつれ、誰がシロを連れて帰るのかが議論になり始める。


今や、学校のアイドルと化したシロ。無論、皆が彼を連れて帰りたかった。



「君はこれから誰と住むのでちゅかねー? 俺とがいいでちゅよねー?」


シロの顔を覗き込みながら、そう言う高柳。そんな彼の赤ちゃん言葉を使う高柳の頭を、市原が叩いた。


「その話し言葉やめろ、キモイ」

「いってー! なあ、シロ、人の頭を叩くなんて酷いよなあ?」


高柳はそうシロに話しかけるが、シロは不思議そうに高柳の顔を見つめるだけだった。


「買いたいけど、俺の家じゃ無理だしな」


高柳からシロを奪って優しく抱っこする白石が、悲しそうにそう呟く。


気が荒く暴力的な義父のせいで白石家は荒れており、そんな家にシロを連れては行けないのだ。


「じゃあ、陽斗くんとかは?」


成美がそう陽斗に問いかける。


シロは特に陽斗と白石に懐いており、彼らが連れて帰るのが無難だと皆が思っていた。


「うーん、大丈夫だと思うよ。お母さんもシロのこと気に入ってるし」


陽斗は既に母親にシロの写真を送っており、その愛くるしい姿に彼女も心を奪われたようだった。


実際に、先程からシロの写真を何度も要求してくるのだ。


「それじゃあ、陽斗ん家で決定かな?」

「僕が連れて行ってもいいの? 皆、すごくシロのこと欲しそうな目をしてるけど」

「もちろん連れて帰りたいけど、シロが陽斗と白石のこと好きだからなあ」


市原の言葉に、皆はウンウンと頷く。


「皆がいいなら、僕の家で引き取ろうかな。これからよろしくね、シロ!」


陽斗はシロににこっと笑いかける。すると、シロは返事をするかのように陽斗の頬を舐める。


「も〜、くすぐったいよ〜」


じゃれる陽斗とシロの横にいる白石も、陽斗の家によく泊まっているため、これからも会えることに嬉しそうにしていた。





放課後、皆はシロとの別れを惜しみながら教室から去っていく。


高柳と三浦の2人はシロから一向に離れようとせず、をシロから引き離すのにかなり苦労をした。



部活後、陽斗と白石の2人は犬を大事そうに抱えながら家へと向かう。


実は、母には犬を連れて帰ることはまだ伝えていない。サプライズとして犬と会わそうと思っているのだ。


2人は企んだかのようにニヤニヤとしながら、何事もないかのようにいつものように家のドアを開ける。


「ただいまー!」

「ただいまです」


「あら、おかえりー」


2人の声に、リビングにいた母親が玄関の方へと来る。


そして、2人を見るなり、その目線は白石が抱える犬の方に目が向かった。


「あら、可愛い! シロちゃんじゃないの」


母は目をキラキラとさせてシロを見つめる。

学校にいた陽斗から写真が送られてきていたため、シロのことは既に知っていたのだ。


「どうしてお家に連れてきたの?」


白石から犬を受け取り、大事そうに頭を撫でながら母はそう言う。


「実は、一緒に住むことになったんだ」

「え? シロちゃんと? この家で?」

「そうだよ!」

「えええーー!!!」


陽斗の言葉に、母は驚いて目を見開く。そして、段々と状況を飲み込んできたのか、次第に笑顔に変わる。


「嬉しい、わんちゃんと一緒に住むことが夢だったの」


母は本当に嬉しそうに目を細めて子犬を撫でる。


喜ぶ母を見て、陽斗も嬉しくなる。

今までたくさんの迷惑をかけてきたからこそ、これからは母にたくさんの恩返しをしたかった。


笑顔でシロを撫でる母に、陽斗と白石は目を合わせて笑い合う。



こうして、今宮家に新たにシロが仲間入りを果たした。



後日、葉山先生や太陽先生、無事にサインを貰い、感動のあまり泣いていたという。

そして、学校の職員室にはSUNRISEのサインが飾られていたらしい。




読んでくださりありがとうございます(ง ˆ̑ ‵̮ˆ̑)ว゛


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新再開嬉しいです、ありがとうございます! シロ、かわいい…
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