118,ウィンターカップⅡ ⑥
全国のバスケ部の高校生による7日間の激闘は、今日でついに終わりを迎える。1000校もの中からトップが決まる。
会場には見渡す限り観客がぎっしりと詰まっている。
彼らが見るのは、コート内にいる選手たち。
王者、狼北高校と新星、成宮高校の注目された試合。
今年のインターハイの決勝もこの両校が優勝を争った。因縁の対決だ。
特に、両校エースである星野桜雅と今宮陽斗に注目が集まる。この2人は特に突出した存在だった。大人顔負けの高校生。世界大会優勝という偉業を成し遂げた中心メンバー。
ずっと天才だともてはやされてきた星野桜雅と、彗星の如く現れ次々に強者を倒した今宮陽斗。
そんな2人がぶつかり合うのだ。
今から目の前で行われる試合に、期待できずにはいられない。誰もが、ワクワクとした表情でコートを見つめていた。
「やっとお前と戦える」
ステージの真ん中で、星野は爛々と闘志を目に写しながら、嬉しそうに笑って陽斗を見ていた。
昨日の準決勝では、同じく世界大会メンバーであり、星野を目の敵にしている日向牙を負かした星野。いつも通り、日向牙に苦渋を飲ませたが、結構接戦だったようだ。星野は皆が強くなったことを実感し多少焦ったが、それでも自分を苦しませる存在が増えたことにまた喜びを感じていた。
「今回は負けないよ」
陽斗もまた、鋭く星野を見つめる。その雰囲気はピリピリとして恐ろしく感じるのに、その顔には微かに笑みが零れていた。
お互いにぶつかり会えるのを楽しみにしていた。
このときをどれほど待ち望んでいただろう。
2人はただ純粋に、戦い合う事に胸を踊らせていた。
そうして、ついにその時が始まろうとする。
選手らは緊張した面持ちで、覚悟が決まった面持ちで、ワクワクとした面持ちで、それぞれ構える。
その時、会場中に響くブザーと共にボールが宙に舞う。
2人の選手がそれを奪おうと手を伸ばす。
1つの手がそのボールを触れた瞬間、コートの中央に置かれたタイマーが動き出した。
ウィンターカップ、最後の戦い、決勝の開幕!
第1クオーターから激しくぶつかり合う両校。
陽斗はフェイクをかけて相手をよろけさせると、ゴール下へと突っ込む。
それを止めようと、陽斗を星野と他2人が囲む。
ゴールを決める雰囲気を爛々と醸し出していた。
「止めなければ!」と思ったのが間違いだった。
気付けば陽斗の手にボールはなく、「あれ」と思った瞬間にはもう遅い。
ボールがゴールネットへ入る音がする。
陽斗はフリーになった西島へパスしていた。彼の方など見ていなかったのに。前しか見ていなかったのに。
コート全体が見えているのかと思うほどの正確なパスで、その鋭く優れた状況判断。
だが、星野も負けていない。
場面は、狼北高校の攻撃。
冷静に攻める機会を伺う。
パスを回し、そして、「いける」と思ったのか星野がゴール下へと急加速して向かう。
だが、そこには陽斗と市原という障害物があった。
しかし、星野はお構い無しに進む。
陽斗と市原はそれを防ごうとする。
だが、星野はそれを無理やり押し切ってゴールへとボールを放る。
もちろんそれは入った。
圧倒的なパワーと大きな体格で2人をねじ伏せた。
陽斗と市原がいてもビクともしない。
星野はそういう力技でも難なくポイントを重ねていく。
まるで、自分の方が上であると見せ付けるかのように。
第1クオーターは両校互角で終える。
やはり、狼北高校を、星野桜雅を倒すのは簡単じゃない。寧ろ、その力に圧倒されている。
成宮高校の皆は、心の底から勝ちたいと思っている。だが、あの星野桜雅に勝てるのか不安に思っていた。高校NO.1プレイヤーと言われ、才能も体格もあって、この1年で更に飛躍的に成長している。この第1クオーターを通して、もう、格が違うと思った。
相手にならないんじゃないかと、つい弱気になってしまう。
だが、優勝はもう目の前。
絶対に勝つんだ、そのためにたくさん練習してきたのだから。
成宮高校バスケ部一同は心を奮い立たせると、再びコートへと向かった。
しかし、そう上手くはいくはずもなく。
第2クオーターからの星野の動きは、先程と比べ物にならないくらいに俊敏で、早くて。
第1クオーターでは何とかついて行ったいたのに、第2クオーターからは全くといっていいほど、歯が立たない。
まるで、今までのギアが外れたかのように、速くキレがあって全く追いつけない。
いわゆる、ゾーンというものだろう。
心と体が一体化して、頭で考えることなく体が動くという、超集中状態にでもなっているのだろう。
これで第4クオーターまで体力あるのかと思うほど。こちらはもう、ついて行くのに精一杯で息も上がっているのに。
陽斗でさえついていくのがギリギリ。
そうしているうちに、点差はみるみる開いていく。
そんな状況でも誰も諦めず、必死に粘って、必死についていくが、それでも狼北高校との差は開く一方。
それは焦りを生み、ミスを増やす。そしてさらにチームの雰囲気までも悪くする。
そして今も、視野が狭くなっていた市原が陽斗がパスしたボールに気づかず反応が遅れ、相手にボールを取られた。
その後も、いつもなら入るはずのスリーポイントシュートが入らなかったり、あろう事か、敵に間違ってパスをしてしまう始末。
そんな成宮高校のグダグダとした状態に、会場中はため息をする。ワクワクして見に来たというのに、期待はずれであった。狼北高校の一方的な試合になっていた。
だが、そんな中でも陽斗は諦めることなく、下を向くことなく、懸命にコートを走り回る。
どうしたら今の状況を打破出来るだろうか。
冷静に考えて、それを行動に移そうとする。だが、それでも駄目だった。
陽斗は膝に手を置いて、荒く息を吐く。
勝ちたい。どうしても勝ちたい。
でも、自分は足りない事だらけ。狼北高校に、星野桜雅に勝つのに、自分はまだ弱かった。
目の前にある壁が高くて高くて、今の自分がそれを越えられるだろうか。
陽斗の中に不安の気持ちが膨らんでいく。
笑顔で楽しそうにバスケをしている星野を見ると尚更。
自分はついて行くのに必死なのに、彼は笑っている。
その差が、悔しくて悔しくてしょうがない。
諦めることは絶対にしない。
弱気になる事もしたくない。
だが、いくら強気になろうとも、意に反して徐々にその不安が陽斗を蝕んでいく。
頭では分かっているのだ、弱気になるのはダメだって。でも、言うことを聞かないのだ。それは逆に焦りを生むことも、知っているのに。
どうにかしてこの状況を打開したいのに、どうすればいいか分からない。
頼れるのは自分だけだ。自分で何とかするしかないのだ。
だって、味方とは全然噛み合わないし、ミスばっかりで。彼らには任せられない。
世界大会のメンバーだったら、もっとこう動くのに、なぜ彼らはこうも駄目なんだ。
────────って、違う! 俺はなんて事を考えているんだ!
味方のせいだけじゃない、それはただの言い訳だ。
いけない、こんな風に考えてしまっては。
分かっているんだ、頭では。でも、どうしても味方の頼りなさに目がいってしまって、上手くいかなければ味方のせいにしてしまう。自分はちゃんとやっているのに、精一杯プレーしてるのに、味方のせいで負けてる、と。
駄目だ、1番悪い考えだ。試合に集中しないと。
陽斗は懸命に頑張るが、そんなモヤモヤとした気持ちは簡単に取り除けるはずはなかった。
味方に頼ろうとも、ミスの連発。だが、味方に頼らない独りよがりなプレーは通用するはずもない。だから頼りたいけど、でも、頼れなかった。
そんな陽斗を、白石は横で見ていた。
自分たちの至らないプレーのせいで、陽斗に苦労させてしまっている、悩ませてしまっている。それが申し訳なくて、不甲斐なくて。
今まで自分はどれだけ陽斗に救われてきただろう。
それなのに、自分はまた彼に助けられている。
このままではいけない。
陽斗を敗者になどさせなくない。1番努力して、優しくサポートしてくれて。そして、ここまで来れたのは陽斗のおかげだ。彼がいなくてはここまで辿り着けなかっただろう。
だから、陽斗を勝たせたい! 何としてでも!
今度は自分が陽斗を助ける番だ───────。
そうして、第2クオーターももう終盤。点差はどんどん開いていき、狼北高校の圧倒的リード。
これはもう、狼北高校の勝ちだろうと、大抵の観客らはそう考えた。
成宮高校も、自分たちのミスの多さと、狼北高校の圧倒的な強さに挫けそうになっていた。
そんな時だった。
白石が動いた。
彼はなんと、星野の持つボールを一瞬の隙を着いて取ってみせたのだ。
突然の成宮高校の攻め。
星野は驚き、少し反応が遅れて白石を追う。
だが、既に白石は空中にいた。
突然のことに、白石の周りには誰も敵がいない。
白石はそのままの勢いのまま、思いっきりダンクした。
会場がワッと盛り上がる。
あの星野からボールを奪い、豪快なダンクを決めた白石に、賞賛の声と拍手が巻き起こる。
だが、それも束の間。
白石が少しリングにぶら下がり、コートに着地した時だった。
バキッという、鈍い音がした。
それと同時に、真っ直ぐに立っていたはずのゴールが斜めに傾いていく。
そうして、ガシャンというけたたましい音と共に、ゴールが無様にコートに転がった。
一瞬にして会場が静まる。
皆はただ呆然として、ゴールであった残骸を見つめるだけだった。
読んで下さり、ありがとうございます(▭-▭)✧
ごめんなさいぃぃ、めちゃ投稿遅くなりました、、
展開が思い付かないのと、筆が乗らないとで、中々進まず、、
のんびり更新ですが、これからもよろしくお願いします(_ _*)




