115,ウィンターカップⅡ ③
第4回戦、準々決勝。
ここからは4面あったコートが1面になる。大きな体育館の中央にある1つだけのコート。
それだけで勝ち上がってきた者の興奮を高める。
陽斗率いる成宮高校と知多率いる楽山高校の試合は激しくぶつかり合っていた。
世界大会メンバーが両校にいるという事で、多くの人がこの試合に注目していた。
楽山高校は読めないプレーで有名だ。直感的なプレーが多く自由に動き回る。つまり、白石みたいな人が5人だ。動物みたいな彼らだが、実力は本物で本当に厄介な相手だった。
楽山高校の攻撃。
相手が知多へパスをしようとした。
しかし、それを読んでいた陽斗がそのボールに手を伸ばす。微かに陽斗の手を掠ったボールは起動がずれる。
だが、知多は諦めなかった。
彼は手と体を伸ばし、ギリギリ片手がそのボールに届いた。
だが、体勢が崩れそうで周りにパスする余裕もなかった。
知多は何とか届いた片手で、後ろ向きのままボールをゴールの方へと投げた。
なんとでたらめなシュート。誰も入るわけがないと思った。そもそも投げた知多自身ゴールの方なんてまったく見ていないのだから。
だが、皆がそう思った瞬間、それはゴールネットの中に入った。
「うおお〜、すげぇー!」
「なんだあのシュートは!」
「奇跡だろ!」
体育館中が驚きと興奮とで、どっとどよめく。コートにいた選手らも一瞬呆然としていた。だが、ハッと我に返るとすぐにプレーに戻る。
知多自身も入るとは思っていなかったのか、驚きと嬉しさが混じった表情をしていた。
まさに予測不可能な奇跡のようなプレー。
それは味方も観客も盛り上げる。一方、敵には大ダメージを与える。
これが楽山高校だ。
そのあとも楽山高校の攻めは続く。
直感でパスカットをしてきたり、デタラメな体勢でシュートしてきたりと成宮高校を翻弄する。
成宮高校の皆は必死に食らいつく。
第2クオータまで終わり、20分の休憩に入る。いまのところ、楽山高校が8点リードしている。
皆は振り回され続け、楽山高校に比べると体力的にも精神的にも疲れていた。楽山高校は思うままに自由に動いているため、とても楽しそうにしている。前半は楽山高校が優勢だった。
「······ごめん、俺、足引っ張ってる」
白石は落ち込んだように顔を伏せている。実際に、白石はいつものプレーが出来ていなかった、いや、させて貰えていなかった。楽山高校と白石はすごく似ている。そのためか、いつも通りに動けていなかった。
白石はバスケを初めてまだ10ヶ月だ。経験も技術も向こうが上。それを直感で埋めていたものの、楽山高校には中々通用しなかった。
皆に迷惑を掛けている自分が、白石は許せないし申し訳なかった。
「俺たちに迷惑かけてるとか思ってるんでしょ!」
その陽斗の言葉に、白石はドキッとする。まさに図星だった。彼は何も言えなかった。
「そういう時は俺たちを頼ってよ! 仲間でしょ?」
罵られると思っていたが、それに反して暖かい声が聞こえてきて白石はパッと顔を上げる。すると、そこには笑顔で白石を見つめる陽斗がいた。周りにいた市原も西島も、皆が白石を暖かい目で見ていた。
それを見て、もう自分は1人ではないことを悟った。それに心がジワジワと温まるのを感じる。
「······ありがと」
白石は下を向きながらそう言う。何だか照れ臭くて、思わず顔を下に向けてしまった。だが、その顔には微かに笑みが浮かんでいた。
後半戦へと突入。
悩みが吹っ切れたのか、白石の動きが格段に良くなる。そのおかげもあって、成宮高校は攻めやすくなる。
後輩である乾から陽斗はボールを受け取る。目の前には知多。先程とは逆の状況だ。
陽斗は右からゴールへと切り込んでいく。
知多も必死に食らいつく。
陽斗はゴールネットへ向けてジャンプした。
ゴール下にはもう1人の敵。知多とその敵がゴールをさせまいと手を伸ばす。
そこからシュートを打つのは無理に見えた。
すると、陽斗はジャンプしたままゴール下を潜る。
そして、後ろを向きながら右手でボールをゴールへと放つ。
ボールはボードに当たり、すんなりとリングの中に入った。
ワッと体育館中が盛り上がる。高校生とは思えないプレーが続き、観客らの熱気が高まる。
仲間はその一撃で一気に士気が上がる。
「かっこよか! やっぱり陽斗はすごかね!」
敵であるはずの知多もキラキラとした目で陽斗を見つめる。敵をも魅了する陽斗に、知多は改めて凄いと思わされた。それと同時に、対抗心に火がつく。
第4クォータへと突入。この時点で得点は同点。
両者の魅せるプレーに、会場の興奮は留まることをしらない。
点を入れては入れられての繰り返し。
どっちに転ぶかわからない、白熱の試合。目を離すことなどできない。
引き分けのまま残り1分となる。
お互いにまったく譲らない。
後輩である乾の放ったシュートは外れ、そのボールをとった楽山が次は攻める。
パスを回しつつ攻めるタイミングを図る楽山高校。
しかし、そこに1つの手が遮った。
白石だ。
彼はボールをカットすると、そのままゴールへと走る。
速攻だ!
白石はそのままリングに向かって飛躍する。
相手も何とか手を伸ばす。
しかし、白石にはそんなの障害でも何でもない。
そして、豪快にダンクを決めた!
その瞬間、終了のブザーが会場中に鳴り響く。
成宮高校の部員らは満面の笑みで一斉に白石を囲み、彼の頭をグシャグシャとしたり背中を叩いたりする。白石は煩わしそうにしているも、嬉しそうにしているのは明らかだった。
勝者、成宮高校。準決勝進出!
***
「······終わった」
知多は肩で息をしながら、呆然と天井を眺めていた。
これで高校のバスケは終わりを告げた。インターハイでの屈辱を晴らそうと思ったのだが、見事にまた負けてしまった。エースとして、楽山高校を上に行かせることが出来なかった。
悔しい、とても。
自分が不甲斐なかった。
全力を出して今までで1番いいプレーが出来たはずなのに、それでも破れた。勝てなかった。
知多の目から大粒の涙がこぼれる。
「皆、ごめん······」
肩を震わせる知多。そんな彼の背中を優しくさする仲間たち。知多がいなければこの舞台に辿り着くことなど出来なかった。それに、いつも明るくて元気な彼にたくさんの元気と勇気を与えてもらった。
「お前はよー頑張った!」
「俺たちを引っ張ってくれてありがとうな」
「み、みんなあぁーーー!!」
皆も悲しいはずなのに泣きたいはずなのに、そうやって暖かい声を掛けてくれる仲間に、知多は更に涙腺が緩くなる。彼は子供のようにわんわんと泣きながら、コートを去っていった。
***
「凄い試合だったなあー······」
帽子をかぶった1人の男性が、ぽけーと惚けた表情で体育館の外を歩いていた。彼だけではなく、先程の準決勝の試合を見ていた人達は皆まだ余韻が抜けていないようで、興奮がさめていなかった。
「ほんとな、高校生とは思えないレベルだった」
その隣を歩くスーツ姿の男も、それに大きく賛同した。
先程見た準決勝の熱すぎる試合に、2人は思わず興奮して、一時も目を離すことなど出来なかった。人を魅了するには十分すぎるほどのものだった。
「本当に、今宮陽斗くん半端なかったすよ! あの動きで高校生とか信じられない!」
「お前、前はポッとでだの運だけだの言ってたのに?」
「い、いや、それは昔の話っすよ! 橋本さんは世界大会見ましたか? あの陽斗くん、とんでもなかったすよね!? あの人を惹きつけるプレーって何なんでしょうね、まじ逸材っすわ! 特に、あの最後のブザービーターには興奮して眠れなかった!」
そんな熱く語り出した男に、橋本と呼ばれた男はクスっと笑う。確かに、今宮陽斗という男の強さは尋常じゃない。その底はまだ見えないように思えた。だからこそ恐ろしく、面白い存在だ。
「そういえば、成宮高校にもう1人凄い人いませんでした?」
「あ、白石くんだろ? 金髪の子」
「そう、金髪の! あの破壊力抜群のダンク、まじエグいっすわ!」
「そうだな、先が楽しみだよ」
男2人はその後も今日のバスケの試合について話しながら、帰路に着いた。
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