112,いじめ
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それは、突然の事だった。
「あれ? シューズがない」
いつも通り陽斗は朝早く学校に着き、玄関でシューズに履き替えようとしたのだが、何故か自分のがなかった。そこが自分の場所であるのは何回も確認したが、やはり自分のだけない。昨日もちゃんと入れたはずなのに。
陽斗は不思議に思いながらも、代替用としてとりあえず来客用のスリッパを履くことにした。
朝練が終わり教室へと入ると、その場にいた者がバッと陽斗へと顔を向ける。皆の顔は何やら複雑そうな表情をしていた。
「······な、何?」
急に注目を浴びせられ、陽斗は戸惑いながらも自分の机に向かった。が、机を見た瞬間、陽斗の顔が固まる。
自分がいつも使う机に、「調子乗るな」「陰キャのくせに」「消えろ」「死ね」といった暴言が一面に書かれてあったのだ。
「······殺す」
それを見た白石から殺気が放たれる。恩人である陽斗にそんな事をした奴らに腹が立って許せなかったのだ。その場にいたものはそんな白石の怒りように怯えたように震える。それと同時に陽斗をいじめた人達の死を確信した。
皆が戸惑い、怒り、心配そうにしていた。だが、明らかに様子が違う者が1人いた。
「これ、いじめっていうやつだよね!?」
陽斗はキラキラと顔を輝かせて、隣にいた怒りで震える白石にそう言う。
「······え?」
「こういうの、本当にあるんだ! 凄いな!」
皆はそんな嬉々とする陽斗の様子に困惑し、驚いたように見つめる。
「これマジックペンで書かれてるじゃん! てか、陰キャって書いてある! 俺の事分かってんじゃん! あ、もしかしてシューズ無くなったのもこのせいかもね!」
陽斗は何故かはしゃいでいた。普通はいじめられたら悲しいし落ち込む。なのに彼は違った。ショックを受けるどころか、むしろ喜んでいた。
「お前、なんでそんなに嬉しそうなんだよ······」
市原は訳が分からず、当惑した表情でそう聞く。だが、それは皆の心の中の気持ちを代弁したもの。この場にいた皆がそう思っていた。
陽斗はドMなのか?という考えもよぎったが、それは無いだろうと皆はそれを頭から払う。Mかもしれないが「ド」までは付かないと思う。
「だってさ、なんかシューズが無くなったりって学校って言うか高校っていうか、青春な感じしない!?」
そんな陽斗を見て、キョトンとしていた皆の顔にフッと笑みが浮かぶ。「彼はこういう人だった」と、なんでもポジティブでちょっとズレている人だった。皆の心配は全くの杞憂だったようだ。
だが、陽斗が満面の笑みなのはそれだけでは無かった。この机に「陰キャ」と書かれた事が嬉しかったのだ。自分は陰キャとしているつもりなので、やはり傍から見てそう思われていることに安堵し喜んでいるのだ。
ちなみに、陽斗のシューズは校舎裏のゴミ捨て場で発見された。それをクラスメイトが見つけて持ってきてくれたが、そこにも落書きなどがされて汚れていたため、それは捨てる事にした。
それを見た白石がまたブチ切れた。白石が今にもそれをやった人たちをぶん殴りにいきそうだったので、それを止めるのに皆は本当に苦労した。
皆は心の中から本当に陽斗をいじめるのはやめて欲しいと願う。それを続けていたら白石が恐ろしい事をやらかしそうで、そっちの方が圧倒的に怖かった。
次の日は何事もないように祈る。
───────だが、その思いは通じなかった。
次の日も陽斗のシューズは無くなっていた。
昨日、陽斗が新しいシューズを買ってそれを嬉々として下駄箱に入れていたのだ。皆はもちろん止めた。無くなるのは目に見えていたし、白石が恐怖でしかなかったから。だが、それを陽斗が聞くはずもなく、再びシューズは消えていた。
更には机の上に花瓶に入った花までも置いてあった。だが、それは陽斗らが部活に行っている間に取っていたのだが。だって、それを見た白石の反応が恐ろしすぎて見てられなかったからだ。白石は陽斗のこととなると色々と凄いのだ、本当に。
「これは明らかに俺を狙ったやつだね! 次はどんな事を仕掛けてくるんだろう!」
朝の部活が終わり、陽斗はワクワクとした表情で席に座っていた。そんな彼の笑顔に皆は先程花を片付けた事に少し罪悪感があった。だが、その隣に座る白石の不機嫌な様子を見てやはりそうしておいてよかったと安堵する。
昼休み、陽斗は1人でトイレへ向かっていた。その時だった。前から4人組の男らが歩いてくる。素行があんまり良くないことで有名な人達だった。
陽斗は廊下の隅に避けて行こうとした。だが、1人と強めに肩どうしがぶつかってしまう。
「おい、痛ってーな! もっと端っこ歩けよ!」
男が陽斗を睨みつけるようにこちらを見る。だが、男がわざとよけずにぶつかってきたのは明らかだ。だが、それを陽斗のせいとして責めてくる。
「ちょっとツラ貸せよ」
男たちはニヤニヤとして陽斗を見る。彼が怯えるのを期待していた。
陽斗は皆から注目を集める存在だった。部活ではエースとして活躍し、バスケは日本高校代表に選ばれるほどの実力。行事でもいつも目立ち、男女共に人気がある。見た目は陰キャのくせにして。更にはドラマにも出て世間の注目も集めた。
頭もいいしスポーツもでき、性格も良い。
とても目障りだった。いつもキラキラしてて、その存在が邪魔に思えた。好きな女の子も取られるしで、彼らは陽斗を妬んでいた。
そんないつも明るい彼を虐め脅し、その怯えた顔を見て優越感に浸りたい。自分たちは素行が悪いため生徒や先生からも一歩引かれている。目を付けられたら皆して怖がる。
だから、こいつも────────
「はい! 喜んで!」
だが、キラキラと輝かせた顔で陽斗は男たちを見つめる。虚をつかれた男らは戸惑いの表情を浮かべる。自分達は脅したはずなのに、なぜ彼は怖がるどころか何故嬉しそうにしているんだろうか。こんな事は初めてだった。
だが、その反応は逆に彼らの機嫌を逆撫でた。
「おい、俺らを舐めてんのか!?」
1人の男がいらついたように声を荒らげる。周りにいた人たちもそれに驚き、陽斗たちに注目が集まる。
「いやいや、そんな事ないですよ! とりあえず、早く移動しましょう! ここじゃやりにくいでしょ?」
「お、おう」
だが、陽斗は一切動揺もせず寧ろ目を輝かせて男たちをそう促す。男たちは周りの視線が集まっていることに気づき、焦ったように陽斗を連れていく。先生に来られたら面倒なことになる。とりあえず場所を変えることにした。
「お前、俺らにそういう態度とって許されると思ってんのか!?」
校舎裏の人気のない場所へ連れられた陽斗は、男たちに囲まれていた。彼らは敵意の籠った目で陽斗を睨む。だが、彼は怯えるどころか
「何とか言えよ!!」
「あの、僕のこと陰キャだと思いますよね!?」
「そーに決まってんだろうが!」
「だよね! それと、ありがとうございます!」
「はあ!? 何がだよ!?」
「こういう虐めをしてくれて、俺もう感激です! ちゃんと学生って感じがするというか、青春? とにかく感謝してます!」
陽斗は溢れんばかりの笑顔を向ける。そんな彼に、男たちは皆して呆然として立っていた。虐められてありがとう? こいつは何を言っているんだという、困惑した表情になっている。
「テメー、そろそろいい加減にッ!?」
1人の男がついに堪忍の尾が切れたのか、顔を真っ赤にさせて陽斗に拳を突き出す。だが、陽斗はそれを軽々と片手で受け止める。
「俺たち、友達になりましょう!」
「は!? お前、何言って······」
「気が合うと思うんです! 俺のこと陰キャだと分かってくれて! それに俺の願いも叶えてくれて」
陽斗はニッコリと笑っている。だが、男たちはなんかその笑顔が怖かった。自分たちの中でも人一倍力が強く、リーダー格の男の拳を簡単に受け止めた。そして、訳の分からないことを言って笑みを浮かべている。まさか、自分たちに報復しようとしているのだろうか。これだけの腕っ節だ。もしかしたら他に仲間もいるかもしれない。
「······チッ、おい、行くぞ」
「え、いいのかよ」
「もう、めんどくせーわ。ほっとけ」
リーダーの男が陽斗から離れ、その場を去る。
「え、友達なりたいのに······」
駆け足に行ってしまった男たちに、陽斗は戸惑い悲しそうにその背中を見つめる。彼はただ仲良くなりたかっただけなのだ。それを拒否されたみたいでなんか寂しかった。
「陽斗いた! 大丈夫か!?」
1人になった陽斗の元に、白石と市原が駆け寄る。2人とも心配そうに陽斗を覗き込む。
先程、クラスメイトの女子が慌てた様子で教室へ駆け込んできたのだ。どうやら、陽斗が素行の悪い男たちに連れていかれた野を目撃したらしい。それを聞いて陽斗を探し回っていたのだ。彼に危険が及ぶ前に。彼が傷つく前に。
「······大丈夫って?」
「いや、連れていかれたんだろ? 何かされなかった?」
「いいや、何も······」
だが、落ち込んだように顔を俯かせる陽斗に、白石は何か酷いことをして陽斗を傷つけたのだと思った。
「······許さない」
白石は殺意のこもった目に変わり、今にも陽斗をいじめた男たちを殺しに行きそうな雰囲気だった。そんな白石を市原が何とか止めていた。
「違うよ、白石くん! 特に何もされてないよ! ただ、俺と友達になりたかったのに拒否されただけだよ······」
陽斗は白石を宥めながら、しょんぼりとしたように言う。
それを聞いて、白石の動きが止まる。市原もキョトンとしたようにこちらを見ている。
「······そうだった、陽斗ってそういうやつだった」
「心配した俺たちの気持ちを返せ······」
2人は半ば呆れたように、でも安堵したようにため息をついた。
その後いじめはパタリと止み、いじめていた人達は陽斗を避けるようにして学校生活を送っていたという。
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