108,修学旅行⑦
いつもの17時過ぎちゃったけど載せちゃったー
成宮高校2年生らは、みな嬉々とした表情でバスを降りる。何人かは頭にあらゆる動物のキャラクターのカチューシャを既にはめていた。
今日は平日で普通に学校や仕事があるため、人は少なかった。
生徒らはワイワイとはしゃぎながら、ぞろぞろと入場口へと向かう。
今回も班ごとで行動するのだが、陽斗たちはいつもの8人メンバーで行く。
「うおおぉー! ディディ二ーだ!」
「すごーい!」
入ってすぐ、高柳と陽斗は溢れんばかりの笑顔でカシャカシャと写真を取りまくる。
「ちょっとー、2人ともー! こっちー!」
「皆で撮るぞー」
そんな子供のように落ち着きなく動く2人を、橋本と市原が声を掛ける。
8人は地球儀の前で集合写真を撮ると、ウキウキとした足取りで進んでいく。
そして、少し進んだ先に現れたのは広々とした景色。
広大な湖、大きな火山、目に映るその美しく雄大な風景は、別世界に来たかのように感じさせる。
8人は店であらゆるキャラクターの耳のカチューシャをそれぞれ買い、頭にそれを付ける。
「最初どれ行こっか」
「俺あれ乗りたい! エレベーターみたいなやつ!」
「えー、それもう乗る? 私、最近できたやつ乗りたい」
皆、乗りたいのがバラバラで、中々動けない。
そんな中、西島が提案をする。
「それじゃあ、とりあえず片っ端に色んなの乗っていこう。その後にまた乗りたいのあったら行こう。今日は人も少ないから色々乗れると思うよ」
その西島の一言に皆は賛同し、一瞬で纏まった。
いつも冷静で周りを見ていて気が利く西島。本当に流石であった。
8人はホテルのような外見の、高い建物に入っていく。人が空いてるのもあって、スイスイと進み、あっという間に乗る順番となった。皆はワクワクとした表情で席に座り、シートベルトを締める。
そんな中、三浦は震えていた。普通に楽しかったのだ、乗る前までは。だが、いざ準備が整うと恐怖で頭一杯になってしまった。ここから逃げられないという不安が三浦の表情を硬くする。
「大丈夫?」
隣に座っていた白石が、そんな様子の三浦に気づいて心配そうな顔を向ける。
「だ、大丈夫! こんなのへっちゃらよ!」
三浦は強がって笑顔を作るが、それは引きつってしまい全く隠せていなかった。無理をしているのが分かる。
だが、乗り物は徐々に上に上がっていく。
そんな恐怖が体に出ていたのだろう、小刻みに三浦の手が震えていた。そんな彼女の手の上に白石が手を重ねた。
「俺がついてるから」
白石が三浦の顔を真っ直ぐに見つめる。
「······え?」
三浦は突然のそんな言葉に、思考が一気に止まる。
恐怖も、何もかも頭から消え去った、その時。乗り物が急降下した。
「きゃ、きゃあああぁぁーーー!」
何の心の準備もなしに、突然に襲ってきた浮遊感。一気に現実に、恐怖に戻ってきてしまった三浦だった。
乗り終え、建物から出てくる8人。1人はぐったりとし、それ以外は皆、表情が楽しそうに輝いていた。そんな中、飛びっきりの笑顔を浮かべている子がいた。
「うふふふふ、とても楽しかった」
成美はうっとりとした表情で惚けていた。いつもおっとりとした彼女だが、いつもと違う雰囲気を漂わせている。まるで何かに取り憑かれたような、そう思ってしまうほどおかしかった。
「······成美が壊れた」
天音はそんな成美を引き気味に見つめる。
「壊れてなんかないよ、普通だよ! ただ浮遊感が好きなだけ! あのフワッとした感覚、本当に最高! ね? 皆もそう思うよね?」
「う、うん······」
皆はそんな成美の様子に戸惑い、ただ頷くしかなかった。
その後も8人はポップコーンやチキンやらを食べながらディディ二ーシーを回る。
三浦は絶叫系があまり得意でないため白石が介抱する時もあり、6人で乗る事もあった。
2人乗りの水上を動くアトラクションに乗る際、皆は2人組ならないといけなかった。陽斗と成美はもちろん2人で乗る。それ以外はグーとパーをして別れたのだが、そのペアが三浦・白石、天音・市原、西島・高柳だった。
三浦と天音のところのペアは少しオドオドしながらも楽しそうに乗っていた。
「なあ、俺らなんか省かれた感じしねえ?」
「あ、それ高柳も感じる?」
「ヒシヒシと感じるよ! これは絶対アイツら仕組んだだろ! グーとパーをしようって言ったのは市原の癖に!? 何だよ! 見せつけたいのか!? なんて奴らだ!」
高柳は睨むように3ペアを見つめながら騒ぐ。そんな高柳に西島がウンウンと首を頷かせた。
青一色だった空は次第にオレンジ色になっていき、建物や街灯には光が灯り始めた。
「ごめん、俺、ちょっと今から抜けるわ」
高柳がニマニマとした顔でそう言う。皆はそんな表情を浮かべる時の彼を知っていた。
「え、まさか彼女できたのか······?」
皆は驚愕した顔で高柳を見つめる。高柳が浮ついている時はいつも絶対女の子関係なのだ。
「いやあ、彼女って訳じゃまだ無いけど······」
高柳は体をクネクネとさせ、顔はニヤついている。傍から見るととても気持ち悪い。こんな姿を女子に晒すから高柳は振られるのだ。
「そんなきもい顔してたら嫌われるぞ」
「はっ! 危ない危ない!」
そんな市原の指摘に、高柳は緩んでいた口元をシュッと戻す。だが、その顔からは嬉しさが滲み溢れており、全く隠せていなかった。
「ま! 俺は2度同じ失敗はしない男だからな!」
高柳はドヤ顔でそんな事を言っている。だが、彼は同じ事を繰り返しているから一向に彼女が出来ない事に気づいてないのだろうか。皆は彼がまた振られる未来が安易に予想出来てしまった。
「あ、そうだ、西島! お前一人を取り残してしまうようで悪いが、頑張れよ!」
この場から離れる際、高柳は何か同情するような顔で励ますように西島の肩にポンと手を置く。そして、彼はルンルンとした足取りで行ってしまった。
「西島、頑張るって何を?」
皆は先程の西島に向けた高柳の発言がよくわからず、不思議そうに問う。
「······いや、君達は別に気にしなくていいよ」
西島は苦笑いをしながらそう言う。その言葉に皆は少し首を傾げながらも、すぐに夢の国へと意識が戻っていく。
「次は何に乗ろうか」という話題に移り、それが決まると7人はそこへ向けて歩き始める。
「はあ、ちょっとキツイな」
その後にため息混じりにボソッと呟いた西島の一言は、誰も聞こえていなかった。
すっかり空が暗くなった時、多くの人が湖の周りに集まり、何かを今か今かと待ちわびていた。7人も同じように、場所をとって喋りながら待っていた。
その時、街灯が消え、それと同時に音楽が鳴り響く。
ショーの始まりだ。
皆は顔を上げ、歓声を上げる。
その華やかで楽しいパフォーマンスに、皆は釘付けになって見つめていた。
「すごいね!」
「うん!」
成美と陽斗の2人ははしゃいだように笑う。
人々を明るくさせるパフォーマンス。おそらく、今このショーを見ている人達は皆、幸せな気持ちだろう。
今日で修学旅行は終わる。明日の午前中に帰るのだが、実質今日でおしまいだ。
本当に楽しい時間だった。
陽斗は溢れんばかりの笑顔でショーを見る。
一般人になって高校生になって、毎日が充実した日々だった。
周りを見渡せば、彼女や友人の姿が目に入る。彼らには友達になってくれて感謝しかない。彼らがいなければこんなに楽しくなかったかもしれない。
ショーが終わり、まだ閉館まで時間があるため7人はまだ回ろうとする。だが、陽斗は手すりに寄りかかりまだ湖の方を見ていた。
「おーい、陽斗! 行くぞー!」
市原がその場から動かない陽斗に声をかける。
陽斗はゆっくりと皆の方を向き、屈託のない笑みを浮かべる。
「みんなと出会えてよかった」
今、陽斗の心は幸せでいっぱいだった。皆と会えて友達になれたことは一生の宝物だ。
「急にどうしたの〜」
「何だよお前! そんなクサイ事をサラッと言いやがって」
そんな突然の陽斗の言葉に、皆は嬉しそうに笑う。
そうして、7人は閉館時間ギリギリまでディディ二ーで遊んだ。
陽斗は幸せでいっぱいで、また近々ドラマ撮影があるということをすっかり忘れていた。
読んで下さりありがとうございますʚ(⑅ ' ꒳ ' )ɞ




