101,ライブ②
ほんとすみません。また間違えて半端なまんま投稿してしまいました。本当にごめんなさい_(。。)_
陽斗は明らかに戸惑いを浮かべた顔でステージへと上がる。
ふと前を見ると、そこにあるのは広大な景色。
会場の向こう側まで見渡せて、観客の顔までも眺めることができる。
全てを望める唯一の場所。
それを陽斗は見た事があった。
芸能人だった、アイドルだった、ライブを冴木と一緒にしていた時に。
今、陽斗の目の前に広がるのは、とても懐かしい光景だった。
「おーい、そこの君、何ボーとしてるの。早くこっちにおいで!」
その声に、ステージにまだ上がりかけだった陽斗はハッとする。会場に笑いが起きる中、陽斗は慌てて真ん中へと行く。
その時、チラッと湊と目が合う。
彼は嬉しそうに頬を緩ませた。陽斗もそれにつられて、はにかんだように笑う。
まさか、ここで、ステージ上で共演するなんて、2人とも夢にも思わなかった。
メンバーは選ばれた人に色んな質問していく。年齢や、どんなきっかけでSUNRISEを好きになったのか、どの曲が好きかなど。
ステージ上にいるファンらは大好きで憧れのSUNRISEと触れ合い、とても嬉しそうな笑顔を浮かべている。
しかし、それに反して陽斗の顔は硬かった。
何故ならメンバー4人は同じ事務所であり、年齢も16~20歳と近いので交流も深かった。
そんな彼らに、しかもライブ中のステージで、正体を隠したまま囲まれる事になるなんて。
しかも、メンバーの一人がこちらをジロジロと見てくるのだ。最初は目を細めて見つめてきて、そしてハッとすると急にそわそわし出したのだ。
陽斗は冷や汗が止まらない。
もしかして、"青羽瞬"だとバレてしまったのだろうか。
もし分かったとしても今は、今だけは何も言わないで欲しい。
そして、ついに陽斗の番が回ってきた。
「君、なんかどっかで見た事ある······」
他のメンバーの一人がじーと陽斗を見る。
その一言に、陽斗の心臓がドキッと飛び跳ねる。
陽斗は顔には出さないものの、内心は緊張し過ぎて吐き気を感じる。
「高校バスケ代表の子だよ!」
ずっと陽斗を見ていたメンバーの一人が、目を輝かせてこちらを見つめてくる。
その時、陽斗はハッと気付いた。確かこの人はバスケが好きだったと。試合もよく見に行っていて、よく2人で空き時間にバスケをしていたものだ。
きっとあの世界大会も見ていたのだろう。
そう考えるとこの顔を知っていてもおかしくはない。
「あ! 優勝の点を決めた子じゃん!」
「あれか! 俺、あの試合まじで感激したよ」
皆も気付いたようで、目をキラキラとさせながら陽斗を見てくる。
陽斗は安堵した。
正体はバレていなかったようだ。本当に安心した。
そして、陽斗はパッと切り替える。
「そうです! え、知ってくれてるんですか!? めっちゃ嬉しいです!」
陽斗は戸惑いながらも嬉しそうに顔を輝かせる。
「こいつがさ、めっちゃファンなんだよ」
「今宮陽斗さんの試合見て、凄すぎて感動しました! それに、前によく青羽瞬くんとバスケしてたんですけど、そのプレーとかが似てて」
その言葉に、陽斗はギクッとする。
似てるもなにも、実際に本人である。まあ、あの頃よりは上手くなっているのだが。
「あ〜、お前めっちゃ1on1挑んでたよな、1回も勝ててなかったけど」
「ゆうてお前らも全敗じゃん。次は絶対に勝つ! 瞬! 俺はいつでも待ってるぞ!」
バスケ好きな彼は、"青羽瞬"に向けて手を振りながら叫ぶ。
そう言っているが、その隣にいるんだけどね。
陽斗は少し気まずくて申し訳なくて、でもなんかおかしくて、フフっと笑う。
その発言はファンらは意外そうな声や嬉しそうな声を出す。
芸能界から風のように消え去った"青羽瞬"。
その名前が出てきて、しかも目の前のSUNRISEとの小話があって、ファンからしたら喜ばしい事だった。
「俺達の中で1番好きな曲はどれ?」
「そうですね、デビュー曲の"夜明け"です。試合の前も聞かせていただいてて、カラオケでも十八番の曲です!」
「おー、あれか! あれ、徹夜で作ったよな」
「そうそう、デビュー曲だから各々こだわりすぎちゃって喧嘩もしたよね」
メンバーらは懐かしそうに話す。
陽斗もその頑張っている姿を見ていた。そして、その出来上がった曲を聞かせてもらった時、本当に素晴らしすぎて何か込み上げるものがあって泣いてしまった。
皆が努力してきたことを知っているから。
苦労して練習してきたことを知っているから。
陽斗にとってこの曲はとても大切で元気付けられるのだ。
「ちなみに何点くらいとるの?」
「えーと、最高で98点です」
「えーーーー!? すごー!」
「歌ってみてよ!」
メンバーにそそのかされ、なんと陽斗はSUNRISEのでデビュー曲を歌うことになった。
「そ、それじゃあ、サビだけ······」
こんな状況になってはもう断れない。
陽斗は戸惑いながらもマイクを持ち、観客達の目の前に立つ。
目を閉じ、大きく息を吐く。
沈黙が会場を包んだ後、陽斗の歌声が響き渡る。
圧倒的な声量、心地よい歌声、プロにも引けを取らないほどの歌唱力。
思わず皆は陽斗の歌声に惹き付けられる。凄すぎて、なぜだか分からないけど陽斗から目を離すことが出来ない。
そんな中、湊が一歩前に出て陽斗と隣に並ぶと、その声に合わせてハモらせる。
陽斗は驚いて湊を見る。
湊は嬉しそうに笑っていた。懐かしむように笑っていた。
陽斗も微笑み返す。
そして、サビが終わり2人はマイクを口元から下ろした。
静かな会場からパラパラと拍手が上がり、そしてワッと盛り上がる。
「うおー! すご!」
「待って、うますぎない!?」
SUNRISEのメンバーも驚きの表情で陽斗を絶賛する。
もちろん声色や歌い方は少し変えた。そのまんま歌ったらちょっと怖かったから。
「というか、湊も突然ハモリ出すからびっくりしたわ」
突然一緒に歌い出した湊。
だが、会場は大いに沸いていた。賞賛の拍手が2人を包む。
歌いあった2人はお互いを見て、フワッと笑う。
一瞬の出来事だったけど、あの頃を思い出して2人とも胸の中が熱かった。
そして、選ばれたファンらはステージ上でメンバーらと写真を撮り、それぞれの席へと戻っていった。
陽斗が席に戻ると、周りの観客や友人らが陽斗に拍手を送る。
「陽斗、お前、相変わらず歌うますぎだろ!」
「凄かったよ! ハモリめっちゃ良かった!」
皆はミュージカル以来、再び彼の歌声に圧倒されていた。
そして、ライブは熱狂の中ついに終わりを迎える。
「いやー、まじ楽しかったわ」
「最高だな」
8人は会場を出て、駅の方へと歩く。皆の顔は満足そうで、未だその余韻が抜けておらず惚けていた。
「だけど、陽斗羨ましすぎ。俺が行きたかった!! 歌凄かったけど! あのハモリ聞けて良かったけど!」
高柳は1人悔しそうな顔をしていた。陽斗の席のちょうど後ろにいただけにちょっとここ残りだった。SUNRISEメンバーと真近で会えるチャンスだったのに。
「なんかごめん。じゃあ、俺と握手しよ?」
「は? なんで?」
「俺と握手したら、SUNRISEと握手したことにならない?」
「それもそうだ!」
高柳はすぐさま陽斗の手をギュッと握る。
「おっしゃー! これで俺も握手したことになるよな!」
あっという間に高柳はご機嫌な表情になった。
皆は呆れ顔しながらも、しれっと陽斗と握手していた。
そうして、皆は興奮が冷めないまま、電車に乗って帰っていった。
***
「お疲れ様ー」
会場の控え室にて、SUNRISEのメンバーらに声を掛ける人物が1人。
「あっ! 冴木!」
控え室でダラーと寛いでいたメンバーらは、冴木の訪問に疲れた顔で挨拶する。
皆と少し談笑したあと、冴木は湊を呼ぶ。
「湊」
冴木は机の上に突っ伏していた湊の元へ行く。
「今日は陽斗と歌えて良かったじゃん」
ほかのメンバーに聞こえないように、小声で言う。
「うん、少しだけだったけど楽しかった! 陽斗が歌ってるの見て、思わず体が動いちゃった」
ステージ上で、目の前で歌う陽斗。圧倒的な歌唱力を前に、湊は感動のあまり身震いした。
尊敬していて大好きな先輩。
そんな彼の歌声をまた聞くことが出来るなんて。彼の隣で歌いたい。
そう思った瞬間、気が付くと湊は陽斗の隣で歌っていた。
ほんの僅かな時間だったが、本当に幸せな時間だった。
「はい、これ。陽斗から」
冴木は湊に袋を渡す。
中を開けてみると、そこには美しく輝くネックレスがあった。それは前に湊が欲しがっていたものだった。
「うわあ! めっちゃ嬉しい!」
湊は溢れんばかりの笑顔でその場で飛び跳ねる。疲れきっていた顔が今は全く消し去られていた。
湊はほぼ毎日そのネックレスを付け、あるインタビューでそれを聞かれた時に「大好きな人」と答えたことで、誤解を与えてしまい大きく騒がれたという。
読んで下さり、ありがとうございます٩(・ิ ・ิ๑)۶*




