95,文化祭②
「おい、高柳、お前食いすぎだろ」
口いっぱいに頬張っている高柳を、市原は呆れたような視線を送る。片手にたこ焼き、片手にフライドポテトを持ち、腕にかかっているビニール袋にも先程買った唐揚げや焼きそばが入っている。
結局、市原と白石は一つだけでなくそれ以上奢らされていた。
「まじ食べ方汚いんだけど」
そんな高柳を冷ややかな目で見つめるのは三浦。
先程、唐揚げを買っている際に偶然にも三浦と天音の2人が前に並んでおり、一緒に回ることになった。
「あ、私、タピオカ買ってくるね」
天音がそう5人に告げると、タピオカが売ってある屋台へと駆け足で向かっていった。
「あ! 俺も! なあ、市原、白石、あれも奢っ······」
屋台から見える美味しそうなタピオカドリンクを見て、高柳は奢らせようと後ろにいた市原と白石の2人を振り替えった瞬間、彼の口が止まった。
それは、こちらを凄い目付きで睨んでくる白石がいたからだった。明らかに殺意も入っているかのように恐ろしい。
それを見た高柳は一瞬で顔を青ざめた。
「まじでもうそこまでにしろ」
白石はもう限界だった。こちらが約束の時間に間に合わなかったから、奢るくらいはしようと思った。だが、高柳は遠慮がなくどんどん2人に払わせる。
ただでさえ白石にはお金がない。対して高柳は正真正銘のボンボンで、お金を沢山持っている。それなのに、貧乏人に奢らせるなんてどういう神経をしているのだろうか。
白石はもう我慢ならなかった。
「すみません! 調子に乗りました! もうやりません! 許して下さい!!」
高柳は身の危険を感じ、咄嗟にその場で土下座をする。
彼は無事に難を逃れだが、もう白石に奢らせるのは今後一切しないと心に誓った。
「ねえ、あそこの席で食べよう」
西島が指さす先に、丁度6人席のテーブルが空いていた。皆はそれぞれ購入した食べ物を持ってそこへ向かう。
その時、三浦が足元の段差に躓き、前のめりに体が傾く。
「うわっ」
三浦は倒れると思い、目をぎゅっとつぶる。不幸にも片手には綿あめを持っており、手をつけて庇える状態ではない。三浦は衝撃を覚悟した。
その時、三浦の倒れようとしていた体が、体ごとグイッと引っ張られると同時に、何かに包み込まれたような感触がした。
「大丈夫か?」
すぐ耳元から白石の声が聞こえる。
三浦が咄嗟に声のした方へ顔を振り向かせると、目と鼻の先、すぐ目の絵に白石の顔があった。
「わっ、し、白石!」
かなりの至近距離に白石の顔があり、三浦は驚くとともに、頬っぺが熱くなるのを感じた。
白石は大丈夫な事を確認すると、三浦を包み込んでいた右腕をそっと外す。
「あ、ありがとね」
三浦は白石の顔をまともに見れず、顔を俯かせながらお礼を言う。
「怪我しなくてよかった」
俯く三浦の頭に、白石の手がポンと置かれる。白石はほっとしたような表情をうかべる。三浦が転びそうになった時、白石はかなり慌てた。
三浦は危なっかしい女の子だと、白石は思う。今までたくさん傷ついてきて、もう彼女にそんな思いはさせたくない。守ってやりたいと思う。
そんな耳を真っ赤にさせている三浦と、そんな三浦を見る白石の表情を見て、皆は悟った。
この雰囲気からして、分からないわけがない。
そうして、6人はテーブルにつき、各々が買った食べ物を食べ始める。
「そういや、文化祭の後の花火、皆、誰と見るの?」
西島の呟きに、三浦、天音、市原、高柳の手が止まる。
いつも、文化祭の後には花火が上がるのだ。カップル同士はお互い一緒に見るというのが鉄則だ。また、気になる人を誘い、そこでカップル成立するという事も多い。
その為、非リアもリア充も、好きな人がいる人にとっては一大イベントなのだ。
「見る人いないなら、一緒に見ようよ。俺、独り身だから」
「西島は好きな人いないのか? モテるのに」
「まあ、好きな人いないからね。そういう白石もモテるし、今年は一緒に見るべき人いるんじゃない?」
「いねえよ」
そんな白石の一言に、あからさまに三浦の顔が悲しそうに歪む。
それを見て、皆が「あちゃー」と心の中で思った。
だが、それを他所に白石は黙々とカレーを食べている。
彼は人に興味が無い。それなのに三浦には結構気を配っている。それを見て、白石の心に何かしらあるのは間違いないはずだ。だが、彼は周りにも自分の気持ちにも疎いのだろう。
皆は白石を残念な目で見つめる。だが、それさえも白石は気づかない。皆はハアとため息をつく。
「あー、なんで俺には彼女が出来ないんだろ。こんなに最高な男なのによー」
高柳がため息混じりにそう呟く。
「は? お前、何言ってんの?」
「これで最高とか、頭大丈夫?」
「病院行った方がいいよ」
皆は非難混じりの目線を高柳に送る。白石に限っては、「何こいつ言ってんだ?」という表情で見つめてくる。
「そんなこと言うなよー! 俺はなあ、惚れやすいんだよ! しょうがないだろ!」
高柳は皆の視線に耐えられず弁明する。弁明にもなってはいないが、それは事実だった。
少し優しくされるだけで彼は嬉しくなり、自分に気があるのだと勝手に思い込んでしまうのだ。考えることも無く行動するので、すぐに告白へと突っ走ってしまう。
いつも明るく、面白く、リーダーシップがあり、それさえ無かったら彼はモテていただろうに、と皆が思うほど残念な人だった。
皆は可哀想な目で、落ち込む高柳を見つめるのだった。
食事も終わり、皆はどこか回ろうかと席から立ち始める。全員、クラスの出し物はお昼からすればいいので、それまでの間、皆で回ることにした。
「あ、天音、口にソース付いてるぞ」
市原が天音の顔を覗き込みながら言う。
「え、うそ! どこ!」
天音は慌てたように、唇の右下を手で拭う。
「いや、反対側だよ」
市原は天音へ顔を近づかせ、唇の左下をちょうど持っていたティッシュで吹いた。
「へ······」
急に市原が顔を寄せてきて、天音は初めてこんなに近くで彼の顔を見た。彼の顔が一瞬だけど、目の前にあった。「まつ毛長くて綺麗だ」と咄嗟に思った。
「ほら、取れたよ」
市原はソースの付いたティッシュを天音へ見せる。
「あ、ありがと······」
「天音って、そういう可愛いとこもあったんだな」
笑顔で市原は天音を見つめる。
「か、可愛い!? 私が!?」と天音は心の中で叫ぶ。こんなに見た目も性格も男らしいのに、初めてそんなことを言われた。胸の音がいつもよりうるさく感じる。
ふと市原を見ると、彼は平常運転だった。動揺しているのは自分だけだ。
女たらしなのか、と天音は疑念を抱く。だが、自分の頬が熱くなっているのに気づき、それを冷やそうと、両手で頬を包み込んだ。
この胸の高鳴りが何なのか、天音は気付いていた。
「なんて事だ······。ここもかよ······」
高柳は呆然とした顔で2人を見つめる。自分の知らないところで、いつも一緒にいる友人らが青春を送っている。自分が気づかない間に、彼らは距離を縮めていた。
自分にはいまだ何も無いというのに。
高柳は愕然として項垂れる。
それを慰めるように、彼の肩にポンと西島の手が置かれた。
高柳の事を好きになってくれる人は、表れるのだろうか。
読んで下さり、ありがとうございます( ˙꒳˙ᐢ )
1年前の1月の中旬、その場の勢いで書き始めたこの小説。ここまで続くなんて、自分飽き性なので驚きです。とはいっても、半年筆を止めてたんですけど。この小説は、ノリと思いつきで始まった私の妄想箱なんです笑




