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芸能人、やめました。  作者: 風間いろは
高校2年生
102/138

95,文化祭②

「おい、高柳、お前食いすぎだろ」


口いっぱいに頬張っている高柳を、市原は呆れたような視線を送る。片手にたこ焼き、片手にフライドポテトを持ち、腕にかかっているビニール袋にも先程買った唐揚げや焼きそばが入っている。


結局、市原と白石は一つだけでなくそれ以上奢らされていた。


「まじ食べ方汚いんだけど」


そんな高柳を冷ややかな目で見つめるのは三浦。

先程、唐揚げを買っている際に偶然にも三浦と天音の2人が前に並んでおり、一緒に回ることになった。


「あ、私、タピオカ買ってくるね」


天音がそう5人に告げると、タピオカが売ってある屋台へと駆け足で向かっていった。


「あ! 俺も! なあ、市原、白石、あれも奢っ······」


屋台から見える美味しそうなタピオカドリンクを見て、高柳は奢らせようと後ろにいた市原と白石の2人を振り替えった瞬間、彼の口が止まった。



それは、こちらを凄い目付きで睨んでくる白石がいたからだった。明らかに殺意も入っているかのように恐ろしい。

それを見た高柳は一瞬で顔を青ざめた。


「まじでもうそこまでにしろ」


白石はもう限界だった。こちらが約束の時間に間に合わなかったから、奢るくらいはしようと思った。だが、高柳は遠慮がなくどんどん2人に払わせる。


ただでさえ白石にはお金がない。対して高柳は正真正銘のボンボンで、お金を沢山持っている。それなのに、貧乏人に奢らせるなんてどういう神経をしているのだろうか。


白石はもう我慢ならなかった。



「すみません! 調子に乗りました! もうやりません! 許して下さい!!」


高柳は身の危険を感じ、咄嗟にその場で土下座をする。

彼は無事に難を逃れだが、もう白石に奢らせるのは今後一切しないと心に誓った。




「ねえ、あそこの席で食べよう」


西島が指さす先に、丁度6人席のテーブルが空いていた。皆はそれぞれ購入した食べ物を持ってそこへ向かう。



その時、三浦が足元の段差に躓き、前のめりに体が傾く。


「うわっ」


三浦は倒れると思い、目をぎゅっとつぶる。不幸にも片手には綿あめを持っており、手をつけて庇える状態ではない。三浦は衝撃を覚悟した。



その時、三浦の倒れようとしていた体が、体ごとグイッと引っ張られると同時に、何かに包み込まれたような感触がした。


「大丈夫か?」


すぐ耳元から白石の声が聞こえる。

三浦が咄嗟に声のした方へ顔を振り向かせると、目と鼻の先、すぐ目の絵に白石の顔があった。


「わっ、し、白石!」


かなりの至近距離に白石の顔があり、三浦は驚くとともに、頬っぺが熱くなるのを感じた。


白石は大丈夫な事を確認すると、三浦を包み込んでいた右腕をそっと外す。


「あ、ありがとね」


三浦は白石の顔をまともに見れず、顔を俯かせながらお礼を言う。


「怪我しなくてよかった」


俯く三浦の頭に、白石の手がポンと置かれる。白石はほっとしたような表情をうかべる。三浦が転びそうになった時、白石はかなり慌てた。


三浦は危なっかしい女の子だと、白石は思う。今までたくさん傷ついてきて、もう彼女にそんな思いはさせたくない。守ってやりたいと思う。



そんな耳を真っ赤にさせている三浦と、そんな三浦を見る白石の表情を見て、皆は悟った。


この雰囲気からして、分からないわけがない。



そうして、6人はテーブルにつき、各々が買った食べ物を食べ始める。


「そういや、文化祭の後の花火、皆、誰と見るの?」


西島の呟きに、三浦、天音、市原、高柳の手が止まる。


いつも、文化祭の後には花火が上がるのだ。カップル同士はお互い一緒に見るというのが鉄則だ。また、気になる人を誘い、そこでカップル成立するという事も多い。


その為、非リアもリア充も、好きな人がいる人にとっては一大イベントなのだ。


「見る人いないなら、一緒に見ようよ。俺、独り身だから」

「西島は好きな人いないのか? モテるのに」

「まあ、好きな人いないからね。そういう白石もモテるし、今年は一緒に見るべき人いるんじゃない?」

「いねえよ」


そんな白石の一言に、あからさまに三浦の顔が悲しそうに歪む。


それを見て、皆が「あちゃー」と心の中で思った。

だが、それを他所に白石は黙々とカレーを食べている。


彼は人に興味が無い。それなのに三浦には結構気を配っている。それを見て、白石の心に何かしらあるのは間違いないはずだ。だが、彼は周りにも自分の気持ちにも疎いのだろう。


皆は白石を残念な目で見つめる。だが、それさえも白石は気づかない。皆はハアとため息をつく。




「あー、なんで俺には彼女が出来ないんだろ。こんなに最高な男なのによー」


高柳がため息混じりにそう呟く。


「は? お前、何言ってんの?」

「これで最高とか、頭大丈夫?」

「病院行った方がいいよ」


皆は非難混じりの目線を高柳に送る。白石に限っては、「何こいつ言ってんだ?」という表情で見つめてくる。


「そんなこと言うなよー! 俺はなあ、惚れやすいんだよ! しょうがないだろ!」


高柳は皆の視線に耐えられず弁明する。弁明にもなってはいないが、それは事実だった。


少し優しくされるだけで彼は嬉しくなり、自分に気があるのだと勝手に思い込んでしまうのだ。考えることも無く行動するので、すぐに告白へと突っ走ってしまう。


いつも明るく、面白く、リーダーシップがあり、それさえ無かったら彼はモテていただろうに、と皆が思うほど残念な人だった。


皆は可哀想な目で、落ち込む高柳を見つめるのだった。




食事も終わり、皆はどこか回ろうかと席から立ち始める。全員、クラスの出し物はお昼からすればいいので、それまでの間、皆で回ることにした。


「あ、天音、口にソース付いてるぞ」


市原が天音の顔を覗き込みながら言う。


「え、うそ! どこ!」


天音は慌てたように、唇の右下を手で拭う。


「いや、反対側だよ」


市原は天音へ顔を近づかせ、唇の左下をちょうど持っていたティッシュで吹いた。


「へ······」


急に市原が顔を寄せてきて、天音は初めてこんなに近くで彼の顔を見た。彼の顔が一瞬だけど、目の前にあった。「まつ毛長くて綺麗だ」と咄嗟に思った。


「ほら、取れたよ」


市原はソースの付いたティッシュを天音へ見せる。


「あ、ありがと······」

「天音って、そういう可愛いとこもあったんだな」


笑顔で市原は天音を見つめる。


「か、可愛い!? 私が!?」と天音は心の中で叫ぶ。こんなに見た目も性格も男らしいのに、初めてそんなことを言われた。胸の音がいつもよりうるさく感じる。


ふと市原を見ると、彼は平常運転だった。動揺しているのは自分だけだ。


女たらしなのか、と天音は疑念を抱く。だが、自分の頬が熱くなっているのに気づき、それを冷やそうと、両手で頬を包み込んだ。


この胸の高鳴りが何なのか、天音は気付いていた。




「なんて事だ······。ここもかよ······」


高柳は呆然とした顔で2人を見つめる。自分の知らないところで、いつも一緒にいる友人らが青春を送っている。自分が気づかない間に、彼らは距離を縮めていた。


自分にはいまだ何も無いというのに。


高柳は愕然として項垂れる。

それを慰めるように、彼の肩にポンと西島の手が置かれた。



高柳の事を好きになってくれる人は、表れるのだろうか。






読んで下さり、ありがとうございます( ˙꒳˙ᐢ )



1年前の1月の中旬、その場の勢いで書き始めたこの小説。ここまで続くなんて、自分飽き性なので驚きです。とはいっても、半年筆を止めてたんですけど。この小説は、ノリと思いつきで始まった私の妄想箱なんです笑



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