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芸能人、やめました。  作者: 風間いろは
高校2年生

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94,文化祭①

まだ太陽が昇って間もない薄暗い中、早くも成宮高校の中に人影があった。

その人物は顔に満面の笑みを浮かべながら、飾り付けられた廊下や教室を見ている。


「······え、何1人で笑ってんの?」


ちょうどばったり会った白石が、その顔を見て顔を引きつらせる。まるで気味の悪いものを見るかのような目をする。


「だって、ついに文化祭だよ!? 楽しみすぎて心が踊りまくってるんだ!」


陽斗は溢れんばかりの笑みになる。何しろ、自分にとっては文化祭は初めてである。この日をどれだけ待ったなんて計り知れない。


「というか、白石くんも来るの早いね。俺は落ち着かなくてつい早く来ちゃったんだけど、まさか白石くんも?」

「······まあ、そう」


白石は頭をかきながら、照れくさそうに呟く。

今までまともに学校に行っていなかった白石にとって、今日が初めて参加する文化祭だった。行事だなんて面倒臭いものとしか思っていなかったが、実際やってみると案外楽しいものだった。今思うと、あのグレていた時間は結構無駄だったと気付く。


「今日は思いっきり楽しもうね!」


陽斗はいつもの大きな無邪気な笑顔で、白石に向かって拳を向ける。



そんな陽斗を見て、白石は思う。



暗闇から救ってくれた。

バスケの楽しさを教えてくれた。

毎日の充実感を感じさせてくれる。

いつも優しく包んでくれる。


白石には、陽斗は友達であり、恩人であり、人生の先輩である。彼がいなければ、未だ終わりの見えない闇にいただろう。今思うと恐ろしい。


本当に、この目の前の彼には本当に頭が上がらない。感謝してもしきれない。

だが、自分は未だ陽斗から貰ったものを1つも返せてはいない。


どんな事があっても彼だけは守ろう、そう白石は改めて誓う。




そして、ゆっくりと腕を上げ、陽斗の拳に自分の拳を合わせた。




***




外はすっかり明るくなり、人気がなかった校舎には今や多くの生徒や来訪者で賑わっていた。



下駄箱付近で、2人の男子生徒が立っている。1人は端正な顔つきで周りの女子達の目を引き、もう1人は何やら苛立っているのか腕を組んで眉間に皺を寄せている。


「悪い、待たせた」


そんな2人に男子生徒2人が走り寄って声をかける。


「おい! いつまで待たせてんだよ! まわれる時間短くなるじゃねえか!」


いらいらしていた高柳は、急いでいたのだろう、髪が少し乱れた市原と白石に掴みかかる。

高柳は午後からクラスの出し物の手伝いに入るため、午前中しか回れないのだ。


「ごめん、ミュージカル見たい人が多すぎて、ちょっと準備に手間取ってたんだよ」


市原の言葉の通り、予想よりも多くの人がミュージカルを見に来ている。SNSで拡散されたため多くお客が来ることを見込み、朝から整理券を配布していた。だが、もうそれが開始早々に売り切れ寸前。そして急遽立ち見席も用意できたのだが、今この時点でそれもほぼ残ってはいない。


白石と市原の2人は、この対応に今の今まで追われていたのだ。


「んだよ、ポンポンお客さん集めやがって! 羨ましい!」

「まあ、なんか1個奢るから許して」

「お、まじ!? それなら許してあげよう」


高柳はその一言でころりと態度を変える。なんと扱いやすい人なのだろうか。こんな彼が将来は高柳食品を引っ張ることになるのか。その場にいた3人は不安でならなかった。



「そういえば陽斗は?」


いつもいる陽斗の姿がないことに気づく西島。何か静かだと思ったらいつも賑やかな彼がいなかった。陽斗は毎回こういう行事の時には目を輝かせ半端なくテンションが高いのだ。


「陽斗は成美さんと一緒に回ってるよ」

「あ、そうか! くそー、あいつ1人抜け駆けしやがって! 俺も彼女が欲しい!」

「ほんとだよ、俺も青春したい」


高柳は駄々をこね始め、市原は悔しそうな顔で俯く。2人ともこの5人の中だとモテないのだ。高柳は女子に積極的にアピールし自ら自滅していき、市原は人気でもないが人気がある訳でもない。


「彼女って面倒くさそう」

「俺は特に好きな人もいないし、いいかな」


そんな2人に対して白石と西島はどうでもよさそうだった。

白石に関しては、あまり人に関心がないので恋愛やらそういうのに興味がない。今、彼はバスケだけしか頭にない。


西島は、引く手あまたなので彼女を作ろうと思えば作れるのだが、好きになった人としか付き合いたくないらしい。誰かも構わず告白しまくる男とは違ってかなり誠実な人だ。それがさらに人気を醸し出しているのだが。



そうして、いつもの仲良し4人組は、和やかに話しながら屋台の方へと歩いていった。





***




そんな頃、陽斗と成美の2人は強ばった顔で立っていた。2人の前には血塗られたような壁に「廃病院」と書かれた札が垂れ下がっている。


「では、次の方、ご無事を祈ります」


黒い幕の前に立つ血塗れの看護師が、薄暗く不気味な雰囲気がする中へと2人を促す。


「怖い······」


成美は恐怖で足がすくみ、入口の前で立ち止まってしまった。


「だ、大丈夫だよ······、俺が守るから」


陽斗は成美を励ますが、彼も顔は真っ青で唇が微かに震えていた。

成美はそんな陽斗の横顔を見てフッと笑う。言葉と表情が全くあっていないし、怖い物が苦手という一面を知れて成美はちょっと嬉しく思った。


「私も陽斗くんを守るね」


成美は陽斗にニコッと笑いかける。成美も精一杯、陽斗を支えたい。

そんな成美の言葉に、陽斗はブンブンと首を振る。


「いやいや、男が守らなきゃだから!成美は俺を頼って!」


陽斗は強ばったまま顔で無理に笑顔を作るが、明らかに顔が引きつっている。だが、陽斗は女の子に守られる訳にはいかないと思っていた。


「でも、陽斗くん怖いの苦手でしょ?」

「うっ、そ、それはそうだけど······。でも、成美にだけ任せるには······」

「それなら、2人で頑張ろ? 1人だけには頼らないで一緒に」

「そうだね、2人なら何でもやれる気がする!」


2人は顔を見つめ合い、笑い合う。


お化け屋敷の前にも関わらず、2人は桃色空間を作り出す。


人気の高い美女と眼鏡で冴えない見た目の男、というカップルに男達からは嫉妬や羨望の目が陽斗に突き刺さっていた。だが、今、この2人から溢れ出す雰囲気に、皆は胸焼けを感じるほど甘かった。


入口に立っている案内人の看護師は、そんな2人の空間に入れるはずもなく、順番が詰まっているというのに会話が終わるまで声をかけることは出来なかった。



そして、ようやく2人はお化け屋敷へと足を踏み入れる。


2人はあまりの恐怖で、抱き合いながら行く。

学校のマドンナ的存在の成美と一緒にいる陽斗に嫉妬したお化け達は、いつも以上にビビらせようとしたり、引き離そうとしたりして頑張ったが、それが叶うはずもなかった。



逆に共に恐怖を乗り越え、2人の絆はさらに強まったらしい。





読んで下さり、ありがとうございます(✌Ü︎︎︎✌︎)

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[気になる点] 【高柳は駄々をこね始め、市原は悔しそうな顔で俯く。2人ともこの5人の中だとモテないのだ。高柳は女子に積極的にアピールし自ら自滅していき、市原は人気でもないが人気がある訳でもない。】 …
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