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この雲の晴れた先には

作者: ななし

25~30分程度


鳥羽(とば) 正十郎(せいじゅうろう) :19歳

兼ね役:沖田(おきた) (とおる):19歳


斎賀(さいが) 亮司(りょうじ) :19歳

兼ね役:堀田(ほった) 直樹(なおき):19歳


近江(おうみ) 八重(やえ) :19歳

兼ね役:伏見(ふしみ) 絢香(あやか):19歳

兼ね役:語り部





【プロローグ】


八重:「せいちゃん、りょうちゃん...。見えてる?今日も空は青く綺麗だわ。ねぇ、見えるかしら?2人が守ったこの景色が..」



正:「(タイトルコール)この雲の晴れた先には」



(現代のシーン)


語:『2018年3月』



綾:「ねえねえ!桜凛山(おうりんざん)って知ってる?」


透:「どこそれ?なんかの山?」


直:「俺も聞いたことないな」


綾:「山だよ、山。なんかね、曰く付きの場所らしいよ。大学の春休み最後に、思い出作りで行こうよ!」


直:「なんでわざわざ最後の思い出が登山なんだよ」


透:「俺、パス」


綾:「えー...行こうよぉ」


直:「んじゃ、俺もパス」


綾:「なんで!なんでなんで!行きたい!行きたい!行ーきーたーい!!!」


透:「あーもう!分かった!分かった!でも、なんで突然山なんだ?」


綾:「私ね?この山の写真を見たとき、行かなきゃって思ったの」


直:「これは...」


透:「あれですな..」


直:「スピリチュアル的な..」


透:「いつものですな....」


綾:「ねえ!真面目に話してる!」


透:「はいはい。分かったって」


綾:「私凄い調べたのに....お弁当もたくさん作るつもりだったのにぃ...」


直:「悪かったって。ちゃんと聞くから」


綾:「ほんと!!この山はね?ーー」



(過去のシーンへ)



語:『1938年3月』





(空を舞う戦闘機を見ながら)

亮:「綺麗に雲が尾を引いてやがる。流石、我ら航空部隊始まって以来の逸材だよ。にしても、今日も空は青く美しい!!」


八:「りょうちゃーん!!」


亮:「ん?あっ!!八重の奴!また勝手に忍び込んで!」


八:「おはよ!りょうちゃん!あれ?せいちゃんは?」


亮:「上だ。綺麗だろ、あの飛行機雲。俺はアイツの飛び方が好きなんだよ」


八:「うわぁ... 本当だ..。凄く綺麗。まるで大きな青いキャンバスに、せいちゃんが絵を描いてるみたい。」


亮:「おっ、なかなか上手いこと言うな。流石は文学少女。...って、そうじゃなくてっ!何度も言ったろ?ここには勝手に入ってきちゃダメだって」


八:「ほーーう?そんなこと言って良いのかなぁ?せっかく、美味しい八重弁当持ってきたのに」


亮:「おーーい!正十郎!早く降りてこーーい!!メシだぞー!!」


八:「もう..調子いいんだから。でも、せいちゃんは本当にすごいね。」


亮:「ああ、アイツは天才だ。アイツとならどこへでも行けるんだ」


八:「どこへ、でも?」


亮:「例えどんなに危険で無謀だとしても、俺はそこに着いていくよ。あいつに来るなって言われてもな」


八:「ふふふ。いいね、なんかそういうの」


亮:「アイツには秘密な? おーーい!!正十郎!!そろそろ降りてこいよー!!」


(戦闘機内の正十郎)


正:「ん?亮司の奴、何であんなに手を振ってるんだ? あっ、八重が来たのか!ってことは、八重弁当の時間だな」


亮:「お、正十郎が降下を始めた。八重、少し待っててくれ。アイツを滑走路に誘導してくる!」


八:「うん。行ってらっしゃい!」




(走っていく亮司を見ながら)


八M:((ため息) 私、怖いんだよ...2人が戦地に向かう度に、もしかしたらこれで最後なんじゃないかって、いつも思うの。それを思うと夜も眠れない。...嫌だ、嫌だよ。こんな戦争早く終わればいいのに...)





亮:「おつかれ、正十郎」


正:「ああ、ありがとう亮司。今日の飛行はどうだった?」


亮:「いつも通り最高だったよ。ったく、嫉妬しちゃうね、お前の技術には」


正:「何言ってんだよ。お前も第1課航空部隊だろ」


亮:「まぁな?お前を支援できるのは間違いなく俺だけだ。どう援護してほしいのか、なんてのは手に取るように分かるよ」


正:「あっはは。そうだな。俺の背中を預けられるのはお前だけだよ、亮司。頼りにしてるぜ?相棒」


亮:「おう!さ、八重が待ってる。行こう」


正:「そうだな!あ、唐揚げあるかな?俺、八重が作る唐揚げ大好きなんだ」



語:『1938年。領地占領による戦争は苛烈を極めていた。両国の物資は底が見え始め、まさに不毛という言葉を体現したかのような争いだった。その渦中、我が国が立てた政策は、お世辞にも妙案とは言い難いものであった』



正:「2人に話があるんだ」


亮:「ん?なんだ改まって」


八M:(胸騒ぎがした。この先を聞いてはいけない、そう感じた)


正:「俺決めたんだよ」


八M:(やめて、言わないで。この先を聞けば、もう戻れない気がする)


亮:「なんだよ?勿体振らずに早く言えって」


正:「俺さーー」


(被せるように)

八:「やめて!!」


亮:「や、八重?」


正:「どうしたんだよ?急に大声出して」


八:「あ...いや、あははは..どうしたんだろ、私..変なこと考えちゃって..」


亮:「?? 変な奴だなぁ。で、正十郎。続き話せよ」


正:「あ、ああ。そうだったな」


八:「......。」


正:「俺さ、今年は桜凛山(おうりんざん)の姿をこの目に、しかと焼き付ける」


八:「.......え?」


亮司:「(ため息)何を言いだすかと思えば、そんなことかよ」


語:『桜凛山。その名の通り、山全体が桜で覆われており、それは見事な情景を魅せた。しかし、年中雲が山全体を覆い、その姿を見せることは稀であった』


正:「そんなことってことはないだろ?俺はずっとあの景色が見たかったんだよ。未だに絵でしか見たことがない」


亮:「まぁ、そりゃそうだけどさ。すこし重い雰囲気を醸し出すから、こっちが変に身構えて損した気分だよ。 なぁ、八重もそうだろ?」


八:「えっ...う、うん!そうだよ!?せいちゃん。何言われるかと思って身構えちゃったよ」


正:「そうかぁ?まぁ、そんなことより、3人で見よう!きっと物凄く綺麗なんだ。あの雲が晴れた先の景色は想像できないよ」


亮:「その時は、また八重弁当の出番だな!」


正:「もちろん!美しい景色の目の前で、八重弁当。考えるだけで最高だな!


八:「ふふふ(嬉しそうに) はいはい、任せて。この八重!全力でおもてなしさせて頂きます!」


亮:「これはこれは、八重殿が気合い充分でなによりですな。」


3人:「(3人で笑う)」


八:「あ、そろそろ時間だね。私はお家のお手伝いしなきゃ。2人は今日もうちで夜ご飯食べていくでしょ?」


正:「ああ」


亮:「もちろん!」


八:「はい、じゃー待ってます。またね!2人とも!」


亮:「おう!」



(その場を後にする八重を見ながら)

亮:「で?」


正:「ん?」


亮:「本当は何なんだ?」


正:「....気付いてたか」


亮:「八重に気を遣ったんだろ?」


正:「桜凛山を見に行きたいっていうのは本当だよ」


亮:「なら、伝えてないことがまだある。違うか?しかも、そっちの方がより重要」


正:「あはは。敵わないな」


亮:「言ったろ?俺はお前が何を考えてるか手に取るように分かるって」


正:「恐れ入りました」


正:「...捧國令(ほうこくれい)が出た」


亮:「..は?..っ、なんだと..??」


語:『捧國令。国が特別に個人または複数人に発令する軍事命令であり、そのほとんどが激化した戦地への出兵だった』


亮:「馬鹿げてる!!お前に捧國令だと?一体何を考えてるんだ!」


正:「声を荒げるなよ」


亮:「冷静でいられると思うか!?お前も分かってるだろ?アレは名誉あるものなんかじゃない!いわば....捨て駒だ。....そんなものに、正十郎、お前のような天才が選ばれることが、俺は我慢ならないんだ!」


正:「....ここなんだ。ここなんだよ。亮司」


亮:「え...?」


正:「次の空爆対象がこのミハラ!ここなんだよ!」


語:『彼ら2人が駐在する第1基地、通称:ミハラは、我が国の武力の約4割を保有していた。その為、各部、優秀な将校、操縦士が多く集まり、また、それらが所属する部隊も同様に編成されていた。いわば、指揮系統の核である』


亮:「なっ...」


正:「もちろん、この基地を空爆されれば、近隣、いや、直径10キロ圏内は火の海だ。俺たちの街や、桜凛山、そして...八重だって巻き込まれる...」


亮:「....そ、そんな..」


正:「だから、その前に奴等の母艦に強襲をかける。...これは...これは名誉がないことなのか!?なぁ、亮司!俺はお国の為に命を捧げることなんて、望んじゃいない!そこに名誉なんて求めてないさ!....だだ、俺は、ここを守りたい..この景色を..。その一心なんだよ..」


亮:「...なら、俺もーー」


(被せるように)

正:「ダメだ。お前はここに残れ」


亮:「何故だ!?この場所を守るという大義を掲げるなら、俺にも十分その資格はあるはずだ!」


正:「...誰が八重を守るんだ」


亮:「第1課には俺たち以外にも腕の立つ奴がいる!それに、お前の支援は俺しかできない――」


(被せるように)

正:「誰が八重を守るんだって聞いてるんだ!!」


亮:「.....。」


正:「...2人で命を落とす必要はない...」


亮:「...っ...八重はどうなる..」


正:「....お前がいるじゃないか」


亮:「ッ!?お前ッ!!八重の気持ちを分かってるのか―」


(被せるように)

正:「やめてくれ!...やめてくれ...」


(現代シーン)


語:『2018年 3月』



綾:「ってことなのよぉ。凄くない?」


透:「へー。"春の火花"かぁ。確かに歴史の教科書に載ってたな」


直:「なんだっけ?それ」


透:「お前、マジか..」


綾:「直樹って本当に歴史に興味ないよね」


直:「すいませんでした~。で、なんだよ?教えろって」


透:「(溜息)"春の火花"っていうのはさーー」



(過去シーン)

語:『1938年4月』


八:「お母さーーん!買い物行ってくるわねー! よいしょっと、、ん?私宛の電報?誰からだろ?.....鳥羽正十郎..せいちゃんからだ..」




八:「いかがお過ごしでしょうか?そちらはもう、美しい青空の下、桜が満開に咲いている頃合いでしょうか。

(正)まず初めに、手紙で伝えることを許して下さい。この話をアナタに直接伝える事が、なんとも居た堪れなく、こうして文章に起こした次第です。3月10日時点で私に捧國令がでました。名誉なことです。我が国の為に果てる機をいただきました。この命、自らが掲げる大義の為、尽力し、捧げるつもりです。最後に、たわいの無い戯言を少し綴らせてください。恥ずかしくてこんなことは言えませんが、私は何度、君との将来を想像したことでしょう。暖かな団欒と子供達、そして君の笑顔。こんな時代にさえ生まれなければと切に思い続けています。君の顔がみたい。君の温もりを感じたい。だからこその、大義名分だと分かってほしい。後のことは亮司に任せてある。アイツは君も知っての通り最も信頼できる男だ。

八重、愛しています。

君のこれからが幸せであるように。

鳥羽正十郎。」


八:「....嫌..嫌よ!こんな形でなんて嬉しくない!!直接言葉にしてよ!抱きしめてよ!せいちゃんのいないこれからに、幸せなんて、ないよ....会いたいよ...(泣きじゃくる)」


八:「(途中で何かに気付く)..りょうちゃん..まさか...」


(回想)


亮:「例えどんなに危険で無謀だとしても、俺はそこに着いていくよ。あいつに来るなって言われてもな」




(作戦決行シーン)


正:「(深呼吸)..こちら蘿蔔(すずしろ)、鳥羽。離陸準備にはいる。これより、捧國令に準じ強襲殲滅作戦に移行。爆撃対象は、敵主戦母艦。離陸します!」


(上空)


正:「高度八◯◯◯。安定期に入ります。機内無線の確認。こちら蘿蔔、鳥羽。追機、鈴菜(すずな)へ。高度、機器等に問題はないか?」


亮:「高度、機器等に問題なし」


正:「(何かに気付く)こちら蘿蔔、鳥羽。追機、鈴菜へ。所属部隊及び、名前を伺いたい」


亮:「...第1課航空部隊所属、斎賀 亮司」


正:「亮司!!お前何やってるんだ!!今すぐ引き返せ!!」


亮:「もう隊列は編成されてる。今更引き返せないさ」


正:「...くっ....なんで来たんだ」


亮:「...帰るんだよ」


正:「なに?」


亮:「生きて帰るんだ」


正:「(溜息)..そうだな..」


亮:「ッ!?前方視認!正十郎!四時の方向に敵影発見!」


正:「亮司!」


亮:「分かってる!比翼の型で挟むぞ!」



語:『空中での激しい攻防戦により、鳥羽率いる編成隊は一機、また一機とその使命を果たし堕ちていく。そう、圧倒的な数の波を目の前に為す術がなかったのだ』


正:「...敵、母艦確認。規模、主戦級。...亮司..」


亮:「ああ...恐らく、お前と同じだ」


正:「..もう、俺たちに殲滅を遂行する手段はない。ならば..」


亮:「..ああ」


正:「最後まで、世話かけるな..」




語:『空を舞う2匹の燕は、突貫(とっかん)を決意した』



(突貫後、瀕死の2人)


正:「(消え入るような息遣い)はぁ...はぁ...亮、司...」


亮:「(消え入るような息遣い)正十郎...」


正:「..せ、せいこう..した...か..」


亮:「あ..ああ」


正:「...そう、か....。あぁ..空が..綺麗だ..み、見てみろ...亮司..」


亮:「(涙を堪えて)..真っ暗だ...なに、も...何も見えねえ..よ...どん、な...色して..る」


正:「..青だ...ど..どこまで..も続..く青..だ」


亮:「そ..そうか..。見てぇなあ...」


正:「...や..八重...」


亮:「.....」


正:「桜..凛山の..前で.....八重のから..あげ...食べ..たかったなぁ...」


亮:「..食べれるさ...帰って..三人で..」


正:「...ああ...帰ろう....」




語:『鳥羽正十郎 19歳 。斎賀亮司19歳。両名共に作戦海域にて歿す(ぼっす)』



語:『2週間後、八重の元に2人の殉死が記載された電報が届く』



(桜凛山にて)



八:「(山を登る)よいっしょと、、はぁ、来たよ。桜凛山。せいちゃん、りょうちゃん...。見えてる?今日も空は青く綺麗だわ。ねぇ、見えるかしら?2人が守ったこの景色が....」


八:「...凄く綺麗..でもね..」


正:「やっぱり八重のからあげが1番だな!」


八:「(涙を堪える)..でもね..」


亮:「また勝手に忍び込んで。ほんとお前って奴は。」


八:「(泣きながら) 2人がいないの...こんなに、綺麗なのに、ハッキリと見えないの..私、お弁当沢山作ったよ?からあげたくさん作ったよ?...お願いだから、帰ってきて..帰って来てよ!!!.......会いたいよ」


(現代シーン)

語:『2018年4月』


透:「(山を登る)よいしょっと。(一息) 着いたなあ」


直:「いやもう、疲っかれたぁーー!!」


綾:「はぁ、はぁ、(目の前の山に見惚れる)...綺麗...(目から涙が溢れる)あ、あれ?なんでだろ、、?」


透:「あ?お前何泣いてんだよ」


綾:「(涙を堪えながら)えっ?、、そ、そういう透だって...」


透:「は?、、あ、あれ?なんでだろう、、涙が止まんない...」


直:「なぁ、、俺たちここに来たの、初めて、だよな?」


綾:「..うん」


直:「(涙を堪えながら)なのに...なんでかなぁ...ずっと来たかった気がする..」



透:「うん。...あ、絢香、、確か、お弁当作るって言ってたよな?..作ったのか...?」


綾:「うん..。」


透:「...からあげ...あるか?」


綾:「うん..うん。 (嬉しそうに)もちろん、あるよ..。」




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